会場写真

 長いパンデミックの先にいつか光は差してくれるのでしょうか。当館の春の企画展示「♯映える風景を探して 古代ローマから世紀末パリまで」は、4月24日にオープンしたと思ったら、その翌日には緊急事態宣言発出を受け閉館の憂き目にあっています。5月11日には宣言延長となり、月末まではご覧いただけそうにありません。

作品画像

 まだ展示室でスタッフが展示作業に追われているさなか、様子を見に足を運んでみました。おおよその作品が壁に掛けられている中、いきなり私の目に飛び込んできたのはレンブラントの小さな銅版画「三本の木」(静岡県立美術館蔵)でした。周囲により大きな作品が多数あるにも関わらずこの版画が目を引いたのはなぜでしょうか。土手に沿って立つ3本の樹木を描いた風景は、「何の変哲もない」という表現が当てはまります。ただ、空には雲の大きな動きを感じさせる不規則な線が無数に描かれ、左方には雲の切れ間を通して射し込む光を表現したかのような大胆な平行線が引かれています。そうした雲のあわいを通した光が風景の一部を照らし、土手の斜面部など陰の部分との印象的なコントラストを生んでいます。周囲の作品からこの小さな版画を浮かび上がらせていたのは、画面を包むこの光だったのです。彼の油彩画に見るような劇的な明暗表現とは異なりますが、画家の光に対する鋭敏な感覚が見て取れます。
 こうした大気のダイナミックな動きや一瞬の光の変化などに目を奪われがちな作品ですが、細部に目を凝らせば、釣りをする男や農夫などあちらこちらに微細な人物がたくさん描きこまれていることにも気がつきます。この版画には画面右手の草むらの中で逢引する男女がいることが指摘されています。興味津々、じっと目を凝らしましたが、なかなか見つけることができません。視線をあちこちさ迷わせた末、ああこれかと、人が二人深い草のなかに身を隠していることが識別できたときには、この作品に対する見方が大きく変わったような気がしました。のどかな田園風景の中にこの男女を潜ませた画家の意図は何だったのだろうかと。
 この男女の姿、小さな図版では到底わかりません。再開館の後、ぜひご自身の目でお確かめください。
大久保純一(おおくぼ じゅんいち 町田市立国際版画美術館館長)