12月11日まで開催中の「版画×写真 1839-1900」展は、19世紀に登場した写真が与えた影響を、版画側の視点から考える展覧会。会期中、芹ヶ谷だよりで展覧会をご覧になる際のポイントを代表的な出品作品とともに紹介していきます!

今回のテーマは「版画の役割」です。
版画は美術表現のひとつ、そのイメージが強いと思います(当館も版画「美術館」ですね)。

たしかに昔から、美術としての版画があり、何世紀も前の作品が現在まで大切に伝えられています。でもその一方で、版画は実用的な技術としても、ずっと用いられてきたのです。

写真が登場する以前、イメージ情報は絵に描いて伝えるしかありませんでした。そしてそれを流布させるためには版画が使われました。つまり、版画は画像を印刷する手段として大いに利用されていたのです。

2-1-1_ライモンディ_MACHIDA
マルカントニオ・ライモンディ(c.1475-1534以前)/原画:ラファエロ・サンティ(1483-1520)
《パルナッソス山上のアポロン》
c.1517-20 エングレーヴィング 町田市立国際版画美術館

こちらの作品は、ルネサンスの巨匠・ラファエロが描いたヴァチカン宮殿の壁画(のためのデッサン)を原画に、ライモンディが制作した銅版画です。旅することもままならなかった時代、ローマで実際の作品を目にすることなど多くの人には望むべくもありませんでした。こうした版画を通して、さまざまな作品のイメージが各地へと伝えられたのです。

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拡大図

とはいえ、デッサンを版画の線刻表現に置き換えたこの版画は、ライモンディの美術作品として評価されています。

1-2-12_遣欧使節木口_個人蔵
 《ナダール氏のスタジオでの日本遣欧使節(ナダール氏の写真に基づく)》
1862.4.26.『ル・モンド・イリュストレ』紙掲載 木口木版 個人蔵

次にこちらは、1862年にヨーロッパを訪れた徳川幕府の使節団の様子を伝える新聞図版で、写真を木口木版という技法で版画にしたものです。細かな線がみごとな技で彫られています。

NADAR_Ambassadeurs japonais_le Monde Illustre
拡大図

でもこの図版には版画の作者の名前はありません。この場合、木口木版の技法は図版印刷の手段として用いられたにすぎません。

芸術的に高く評価される作品から、日常的な用途まで、さまざまな図版が版画の技法で作られてきました。芸術と実用がはっきり区別されることもなく、幅広くゆるやかな版画の世界が何世紀にもわたり存在していたのです。

これをひっくり返したのが、写真の登場でした。