写真の発明は何年のことでしょう?
実はこれ、難問です。
というのも、写真を発明するために、同じ時期に並行して、さまざまな方式によるいくつもの研究が行われていたからです。
そのなかで一歩リードしたのが、ルイ・ジャック・マンデ・ダゲールが発明し、1839年にフランス政府によって公式に発表されたダゲレオタイプです。
ジョン・アダムス・ホイップル
《キャロライン・オルムステッドの肖像》
1855 ダゲレオタイプ 横浜市民ギャラリーあざみ野
金属の板に画像を写すこの写真は、焼き増しができない、つまり1枚しか作ることができないという大きな欠点があります。しかし、鏡のように高精細な画像は今見てもとても魅力的です。
当初は数十分かかっていた露光時間は、公表から2年もたたぬうちに数分に短縮され、欧米各地の大都市に肖像写真館が設けられていきました。
これに対して、イギリスの科学者ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットが1841年に発表したのがカロタイプです。
ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット
《梯子》
1844-46刊(後年のプリント) 塩化銀紙 横浜市民ギャラリーあざみ野
カロタイプは感光性を与えた紙に画像を定着させ、それをネガとして用いることで、焼き増しを行うことができます。感光度の低さや紙の繊維の問題があり鮮明な画像を得ることは難しかったのですが、のちに写真の主流となるネガ・ポジ法のもととなった技術です。
1850年代には紙のかわりにガラス板をネガの支持体に用いるコロディオン湿板方式が発明され、感光性が高い鶏卵紙という印画紙との組み合わせが普及し、ダゲレオタイプは姿を消していきました。
ダゲレオタイプにしてもカロタイプにしても、発明当初は不十分な点が多かったのですが、さまざまな発明が積み重ねられ、写真の技術は改良されていきました。
そして注目すべきは、写真の技術が発展していくスピードの速さです。
露光時間で比べれば、1839年に撮影された現存する最古の肖像写真(ダゲレオタイプ)は1枚きりの写真を撮るのに数十分かかったのに、1854年にウジェーヌ・ディズデリが発明した名刺判写真では、数秒の露光で一度に8枚の写真が撮影できました(画質の問題は置くとして)。
写真という新たな技術は、瞬く間に古い技術を抜き去り、時代の先頭に躍り出ていったのです。