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ジル・ルイ・クレティアン(1754-1811)ジャン・シモン・フルニエ(1750-1799活動)
《フィジオノトラースによる肖像》
1786-1811 エッチング、アクアチント 東京工芸大学中野図書館

 みなさんはカメラでよく撮るものは何ですか? 
 おしゃれなランチの画像をSNSにあげたり、旅先の風景を撮ったり、いろいろある中でもやはり人物を撮ることは多いのではないでしょうか。

誰かのすがたを残したい、それもできるだけ正確に。その願いは古くからあったはずですが、簡単にかなえられるものではありませんでした。画家をやとって肖像画を描いてもらうにはそれなりの費用がかかり、ごく限られた階層にしか許されなかったのです。

1784年にフランスで発明された肖像を描くための装置・フィジオノトラースは、シルエット・マシーン(スクリーンの向こう側にモデルを座らせ横顔の輪郭をトレースする)を進化させたもので、モデルを装置の中に座らせ、接眼レンズとパンタグラフの操作によって10分ほどで肖像デッサンを仕上げました。このデッサンから銅版画を制作し、直径6 cm ほどの肖像12枚が数日後に手元に届く仕組みで、費用は数万円程度だったようです。フィジオノトラースはドイツさらにアメリカに伝わり、人気を博しました。

 このフィジオノトラースに取って代わったのが、ダゲレオタイプです。1839年に公表された時点では露光時間が長すぎて肖像の撮影は難しかったのですが、1841年に改良されたことで実用化され、大都市に次々と写真館がオープンしました。ダゲレオタイプは1点だけしか制作できず価格も高いのですが、正確さと美しさは比べものにならず、フィジオノトラースはあっという間に姿を消していきました。


 3-1-8_a_ネイラー妻_あざみ野3-1-8_b_ネイラー夫_あざみ野
J. ヴァンネルソン(1827-1875) 《ネイラー夫妻》
c. 1850 ダゲレオタイプ 横浜市民ギャラリーあざみ野

 3-1-7_ネイラー夫妻ミニアチュール_あざみ野 (1)
《ネイラー夫妻の肖像》
19世紀前半  ミニアチュール、手彩色 横浜市民ギャラリーあざみ野


ここでご紹介しているのは、同じ夫妻の2組の肖像です。若い頃のミニアチュール(象牙などに描いた小型肖像画)と、数十年後に撮影されたダゲレオタイプで、写真が古い技術の役割を奪っていった様子がよく分かる興味深い例です。

この2組をはじめ、本展には初期写真の貴重な品が展示されています。これらは横浜市民ギャラリーあざみ野からご出品いただいたもので、同館のコレクションはカメラと写真の歴史が総合的にたどれるものとして世界的な評価を受けています。年1回のコレクション展のほか、Webサイトで所蔵作品を検索することも可能です。ぜひ訪ねてみてください。