
ジョン・ロバーツ 《4眼湿板カメラ》
1860 横浜市民ギャラリーあざみ野
4つのレンズをもつこのカメラは、一枚のネガに8枚の画像を写すことができます。これを印画紙に焼いて切り離せば8枚の写真の出来上がり。それぞれのサイズは小さくなりますが、単価はぐっとおさえられます。
名刺判写真(カルト・ド・ヴィジット)と呼ばれるこの写真は、フランスの写真家アンドレ・アドルフ・ウジェーヌ・ディズデリ(1819-1889)が1854年に特許を申請したものです。魅力は何といってもその安さ。人々は写真館に気軽に足を運び、写真の交換を楽しむようになります。王室メンバーなど有名人の名刺判写真も販売され、コレクションすることが流行します。

《ポートレイト・アルバム》
19世紀後半 横浜市民ギャラリーあざみ野
コレクションはこのようなアルバムに入れて楽しまれました。イギリスのヴィクトリア女王はこうしたアルバムを110冊も持っていたとか。オーストリア皇后エリーザベトは、美しさの演出を研究するために美女の写真をコレクションしていましたが、そこにも名刺判写真が含まれています。
肖像写真を気軽に交換したり、面識もない人の写真が簡単に買えたりするのは、ダゲレオタイプの肖像写真では考えにくいことではないでしょうか。1枚きりのダゲレオタイプではプライベートな領域にとどまっていた肖像は、名刺判写真の普及によりパブリックな場へと引っ張り出されていきました。それは、どこかの誰かの写真がSNSにあふれる現代につながる第一歩だったといえるでしょう。