企画展示「日本の版画1200年―受けとめ、交わり、生まれ出る」と並行して、特集展示「ふぞろいの版画たち」も開催中です。テーマを同じくして制作された版画シリーズでも版画家ごとに表現が異なることや、同一の版を用いても、刷りの段階や版の状態で刷りあがった作品が異なる表情を見せることなどをお示しする、ちょっと異色の、でも野心的な?展示です。
私は浮世絵版画を専門としていますので、版の状態の違いにより、刷り上がりの画面がかなり異なることはつねに意識してきました。広重の名所絵など、最良の状態の版木で刷られたものと、相当に摩滅が進んだ版木で刷ったものとでは、まったく違う作品といってもいいくらい画趣が異なってきます。ただ、西洋の銅版画においても版の状態によって画面の雰囲気が大きくことなることを、これだけ多くの具体例で目にしたことはなかったので、ちょっとした驚きを覚えました。
エングレーヴィングなど凹版の銅版画の原版が酷使されると、版が押しつぶされて線が細くなっていくという点は、凸版の木版画である浮世絵では版木が摩滅すると線が太くなっていくというのと逆の現象であることが面白いですし、版画家が一つの原版にどんどん手を加えていき、それぞれの段階(ステート)で刷られた作品を合わせてシリーズ化していることにも興味が惹かれます。第9ステートまで展示されたピカソの「ダヴィデとバテシバ」など、最初のステートからすると、最後のものなど、まったく異なる作品に仕上がっています。
ヨルク・シュマイサーのシリーズ『彼女は老いていく』は、版に少しずつ手を加えながら画中の女性が、髪型が変化し顔の皺が深くなるなどして、若い娘から壮年、そして老婆へと次第に年齢を重ねていく様子が表現されています。日本では刷り色を変えることで朝、午後、夕など時間の変化を表現している吉田博の木版画連作『帆船』が有名ですが、版自体を大きく彫り変えることはしていません。一方、『彼女は老いていく』では、銅版そのものがどんどん彫りを進められているので、ひとつ前のステートは再現できない不可逆の工程を辿ることになります。「変化」への強い関心がある作家だといわれますが、この技法を用いて、人は老いていき、若さは二度と戻らないという不可逆な時間を表現したことに、なにか哲学的なものを感じてしまいました。
私は浮世絵版画を専門としていますので、版の状態の違いにより、刷り上がりの画面がかなり異なることはつねに意識してきました。広重の名所絵など、最良の状態の版木で刷られたものと、相当に摩滅が進んだ版木で刷ったものとでは、まったく違う作品といってもいいくらい画趣が異なってきます。ただ、西洋の銅版画においても版の状態によって画面の雰囲気が大きくことなることを、これだけ多くの具体例で目にしたことはなかったので、ちょっとした驚きを覚えました。
エングレーヴィングなど凹版の銅版画の原版が酷使されると、版が押しつぶされて線が細くなっていくという点は、凸版の木版画である浮世絵では版木が摩滅すると線が太くなっていくというのと逆の現象であることが面白いですし、版画家が一つの原版にどんどん手を加えていき、それぞれの段階(ステート)で刷られた作品を合わせてシリーズ化していることにも興味が惹かれます。第9ステートまで展示されたピカソの「ダヴィデとバテシバ」など、最初のステートからすると、最後のものなど、まったく異なる作品に仕上がっています。
ヨルク・シュマイサーのシリーズ『彼女は老いていく』は、版に少しずつ手を加えながら画中の女性が、髪型が変化し顔の皺が深くなるなどして、若い娘から壮年、そして老婆へと次第に年齢を重ねていく様子が表現されています。日本では刷り色を変えることで朝、午後、夕など時間の変化を表現している吉田博の木版画連作『帆船』が有名ですが、版自体を大きく彫り変えることはしていません。一方、『彼女は老いていく』では、銅版そのものがどんどん彫りを進められているので、ひとつ前のステートは再現できない不可逆の工程を辿ることになります。「変化」への強い関心がある作家だといわれますが、この技法を用いて、人は老いていき、若さは二度と戻らないという不可逆な時間を表現したことに、なにか哲学的なものを感じてしまいました。

