NHK「土曜ドラマ」で6月21日から8月2月まで放送された、「ひとりでしにたい」は、「前代未聞の社会派『終活』コメディ」と銘打っているとおり、全編コメディタッチで笑わせながら、女性の働き方や孤独死、そしていまやホットなトピックである終活など現代社会のいろいろな問題も考えさせるものでした。人気俳優の綾瀬はるかさんの主演なのでご覧になった方が多いと思いますが、舞台となった架空の東京都創造美術館の外観には当館が使われていたことにお気づきのかたもおられるかもしれません。ドラマを見ながら、ロケ地を訪れるいわゆる「聖地巡礼」で来館者増につながれば、などと下品な考えがつい頭をもたげていました。
ところで、大概の美術館では、学芸員の机やその周りには美術の専門書や画集・展覧会図録などが所狭しと積みあがっており、それは当館も例外ではありません。自宅でも増え続ける本の置き場に苦労している人が多いはずですが、主人公の職場の机やアパートの部屋はおしゃれに片付いていました。そこはあくまでもドラマですね。

 閑話休題、開催中の展覧会の中身についてお話します。企画展「版画ってアートなの?」は8月13日から後期に入り、一部の作品が展示替えとなりました。新たに第2章に出た「子供あそび百ものがたり」は、一見ほほえましい錦絵です。「百ものがたり(百物語)」とは、夜間に人々が集まって順番に怪談を披露する遊びで、江戸時代に流行しました。百話終えると本当に怪異が起こるとされていましたが、この絵では大きな塗り椀を化物に見立てた子どもたちの一団が屏風の陰から乗り出して、「お化けだぞ~」という風にもう一方の子どもたちを怖がらせています。見ていて楽しい絵ですが、実は慶応4年(明治元年・1868)の戊辰戦争のある戦局を江戸の民衆に伝える目的で描かれたものです。出版統制が敷かれていた当時、政治的な出来事を絵にすることは禁止されていたので、戊辰戦争の折には、二つのグループに分かれた子どもたちの遊びの光景に偽装して、新政府軍と旧幕府軍との戦いの様子を描いた錦絵が数多く出版されたのです。

EDOKOKKEI-3323
《子供あそび百ものがたり》 1868年 木版 当館蔵


 この絵の場面は、屏風に白河の関所が描かれていることから、両軍が白河城をめぐって激しく戦った白河口の戦いを伝えているものとされています。大きな塗り椀の化物は旧幕府軍の主戦力であった会津藩を表しています。藩名産として知られる会津塗りから連想させたものです。他の子どもたちの着物の模様や持ち物も藩を示唆するものとなっています。たとえば中央付近の子どもの籠目模様は、籠の縞→鹿児島→薩摩藩、その左下の子どもの着物は萩の葉で蝶々の模様がつくられており、萩は長州藩の藩庁所在地、蝶々は長州の語呂合わせという具合です。絵は明らかに旧幕府側が優勢に描かれていますが、この時期に戊辰戦争を描いた錦絵の多くは、まだ徳川にシンパシーを持つ江戸の民衆の気持ちを反映していると考えられています(奈倉哲三『絵解 幕末諷刺画と天皇』柏書房、2007年)。

 ところで、展示室では一点挟んだ手前に安政の大地震(安政2年・1855)の後に出た鯰絵のひとつ「庶民を襲う大鯰」を展示しています。地震の元凶である黒くて巨大な鯰が逃げ惑う江戸の民衆を襲う光景が描かれています。「子供あそび百ものがたり」の構図とよく似ており、おそらく、この種の鯰絵がヒントになっているのだと思われます。