派手な綱渡りや動物曲芸とともに、サーカスにおいてクラウン(日本ではピエロの名称のほうがよく知られています)は重要な位置をしめています。道化として滑稽な仕草で観客を笑いに誘うとともに、
手に汗握る演技で緊張した観客を寛がせる役割も担っています。地域にサーカス団が巡業に来ていた欧米に比べると、日本人には少し馴染みがうすく、遊園地の特設ステージやファストフードのCMでしか見たことがない人も少なくないかも知れません(えらそうに書いていますが、実は私もそうです)。

 妙ちくりんな装いや舞台上で演じる失敗などから、たんに人々から笑いの対象とされる存在のようですが、人間の悲哀と結びついたイメージで造形されることも少なくないようです。イタリアのレオンカヴァッロ作曲の「道化師」に出てくる主人公の道化師は、劇中で激しい怒りと深い悲しみを内に秘めて道化芝居を演じなければなりません。sad-faced で知られたアメリカの伝説的道化師エメット・ケリー(1898~1979)はその哀愁に満ちた演技が人々を魅了したとされます。また、道化は愚かさを自覚している賢者として描写されることもありました。シャイクスピアの悲劇「リア王」に出てくる宮廷道化師(ジェスター)は、皮肉に満ちた言葉の刃でリア王の心の深奥をえぐり出します(黒澤明監督の「乱」に出てくる池畑慎之介さん演じる狂阿弥はこの「リア王」の道化師イメージを踏まえたものです)。

 現在当館で開催中の特集展示「おかしみとかなしみ―道化の世界―」は、道化の持つこの多面的なイメージをテーマとしたものです。展示作品中の、レオン・マリ・コンスタン・ダンサエールの「ピエロの帰宅」は、蠟燭を手にした道化師が自宅の入口にたたずんでいる光景を描いており、すぐにはドアを開けず、暗闇の中でじっとうつむく仕草が印象的です。舞台の喧噪から解放されてふと我に返り、人生の悲哀を噛みしめているかのような姿は、今回の展示のテーマにぴったりです。

 特集展示は6月14日(日)までです。芹ヶ谷公園の新緑も美しくなってきました。ぜひご観覧ください。

IMG_a_000342a