美術展を企画する場合、制作された年代順に作品を並べる場合と、作品をいくつかのテーマに分けて展示する場合の2つのケースが多いように思われます。ある一人の作家に焦点を当てた展覧会の場合は前者のケースが圧倒的に多いのですが、その作家の制作環境の変化や人生の節目での出来事に関する解説などといっしょに鑑賞していくと、作風の変化とその背景が理解できて親しみがわくことが少なくありません。ただ、自分なりに作家の作風変化を咀嚼しつつ鑑賞しているさなかに、前後の作品の流れとちょっと異質な作風を示す作品に出くわすこともあります。私の場合、そうした作品がとくに印象に残ることが多いようです。
 現在、当館では特集展示「メキシコに生きる版画家 竹田鎭三郎 起源を求めて」を開催しています。1935年生まれの作家は1963年にメキシコへ渡り、以後60年以上もの期間、彼の地で創作活動と後進の指導を続けておられます。この展示は日本時代から1990年代初頭にいたるまでの彼の作品をほぼ時代順に展示したものなのですが、1979年のリトグラフ《亀の踊り(風に踊る)》の前に立ったとき、私は上述のような感覚を抱いたのです。
 この前年、作家は長年暮らしたメキシコシティから先住民族の文化が色濃く残るオアハカ州へ移住します。《亀の踊り(風に踊る)》は、その地に伝わる伝統舞踊を題材に描いたもののようです。前後の流れでは木版やリトグラフなどの版画技法でいかにメキシコの民俗世界を造形するか、というような作画姿勢が感じられるのですが、この作では作家が感興のおもむくまま、自由に描き出しているような雰囲気があります。題名となっている丸い亀の頭を被った人物が、刀を手にした鹿(牛?)と馬に扮した人と肩を組んで踊っています。そのはるか後方で笛のような楽器を奏する2人の人が小さく描かれていますが、奏でる音楽は踊る人々の足音にかき消されてしまっているかのような、奔放な踊り手たちの描写が印象的です。この作品の発するエネルギ-は、大都市メキシコシティからオアハカに移住した作家がこの民俗舞踊を見たときの驚きや興奮に由来するもののように思われます。
 ところで、これは本当に個人的な感想に過ぎないのですが、《亀の踊り(風に踊る)》に描かれる亀、鹿(牛?)、馬の頭に似た形をどこかで見たような気がしてなりません。思い出せそうで思い出せない、既視感にも似たそのジレンマがなおさら私にとってこの作品を忘れがたいものとさせているようです。

竹田鎭三郎《亀の踊り(風に踊る)》1979年、リトグラフ、当館蔵
竹田鎭三郎《亀の踊り(風に踊る)》1979年、リトグラフ、当館蔵