2007年02月27日

歩み【親友の後姿】

日曜日
親友が、雑巾とエプロンと子供を連れてやってきた。
井田菌を退治してくれると言う。

私は、最後に彼と使った食器も洗えずにいたのだ。
およそ一週間キッチンにも立たず、掃除もしていない。

彼との生活臭が充満している部屋
ここにポツリと居るのは気が狂う

うちに着くなり
「さ、やるよ。あんたは悲しいならベッドで泣いてて。」
彼女はそう言って、食器をガチャガチャ洗い出した。

…ありがとう…

いつもいつもつらい時は、彼女が居てくれた。
高校の頃からの見慣れた後姿。

彼女が居る間に、力を得て全て捨ててしまおう。

まだブルガリの残り香のする彼の部屋着
彼の髪の毛のついた枕
置いていった本
彼が寝転んだままの形にへこんでるクッション

指が震えるほど胸が詰まったけど
声を出して泣きながら捨てていった。

「えーん、えーん、井田さん…」

親友は全く私を放っている。
ただ、どんどん手際よく部屋を掃除していく。

掃除機をガンガンしつこいほどかけるから
いささか私が
「しつこくない?あんた」
とたしなめたら

「だって、あんた一人になってヤツの髪の毛
 発見したら、ひーひー泣いちゃうじゃん。徹底的に
と、笑いをこらえながら言った。

ドアノブ、リモコン、窓。全てを拭き取る。
「指紋、残ってちゃヤでしょ?」
「うん」
「全部消すからね

私はバケツを持って彼女の後ろをついて回った。
キュッキュと彼女の力で
大きな彼の手形が消えていく…

1時間もしたら、部屋がピカピカになった。
親友はカーテンを全て開けた。
部屋に日が入った。

「すっきりしたね?」
「うん」

二人で部屋を見回した。

「あんたの部屋、いい部屋だね。
 あんたらしいセンスの部屋だよ。」

「そうかな?私もこの部屋、好きなのよ。」

部屋には、誕生日に頂いた花が咲き乱れていた。
ダリア、チューリップ、バラ、スイートピー…

「あ、うっかりしてた!」

突然彼女はそう言って、DVDプレイヤーの
ディスク差込口を拭きだした。

「男って、ここ触るでしょ?よかった、気づいて」

そうそう。
私は可笑しくなった。

帰り際に彼女が言った。
「あんたね。私はわがままなの。
 好きな人間の為にしか、動かない女だよ。
 あんたは、悪くない。いい人間だ。
 頑張るんだよ。」

私が泣いたら
彼女の目にも涙が浮かんでた。

本当にありがとう
あんたが困ったときには
あたしが守ってあげるから
その為にも、早く立ち直るから。
そう、後姿に言った。



もうベッドにもソファにも
彼の匂いはどこにもなかった。

私を囲むこの部屋は
親友の気によってすっかり浄化され
守られていると実感した。

人の温かさ

彼は愛情を注いでくれなかったけど
親友は
こんなにいっぱい愛をくれた


hanibani0220 at 11:54│Comments(0)TrackBack(0) 歩み 

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hanibani0220