2017年02月23日

今でも 361

ハニの気持ちを無視して、自分の考えを言った方がいいのか迷った。
昔ならハニが何を考えているのか、まるで顔に掛れているようにこちらにも伝わったが、今のハニは心の奥の方に何かを隠している。
それが何なのかも、さっぱりとこちらには伝わって来ない。
16年もの月日がハニをそうさせたのか、隙だらけでハニの考えている事が判っていたあの頃とは違い、心に隙を見せないハニが、自分に無理をしているようで見ているだけで辛くなる。
子供達に向けている笑顔は母親としての笑顔でも、心の底からの笑顔ではない。
ダニエルと暮らしていて幸せではなかったのかと考えても、ハニはダニエルと幸せに暮らしていた事は判る。
オレとは違って彼は自分の気持ちをちゃんと伝える事の出来る人間だった。
自分を犠牲にしても、相手のため家族の為と思ってオレがしていた事は間違っていた。
ダニエルに、自分に何かあったらハニと子供達を頼むと言われた時、本当は『判った』と言いたかったが言う事が出来なかった。
それは、いつも自分の判断が間違っていないと思っていた事が、本当はいつも身勝手な判断で正しい事ではなかったと思ったから。

「ペク先生・・・よろしいですか?」
「はい、どうぞ・・・」
ハニの事を考えながら本を開いていても、一ページも読んでいなかった。
診療所のドアの向こうから名前を呼ばれて、急いでその本を閉じた。

「どうされました?」
「あぁ・・・体調が悪いとかじゃなくて・・・今夜、先生はお時間ありますか?」
「ええ・・・麓の事はユン弁護士とオリエントコーポレーションが薦めていますし、私は診療所での仕事に専念しているので、急患がなければ・・・」
診療所に来たその人は、部屋の隅に纏められている書籍や書類やその他の荷物を気にしていた。
「本当にここを出て行かれるのですね。」
「ええ・・・済州島の方の弟が経営している保養所内にある診療所の医師と、交代する事になりまして。」
若い医師の研修と言う名目の交代。
ずっとここで診療所の医師として仕事をして行くつもりだったが、無医村での仕事をしたいと言う要望で急遽交代する事になった。

「時々、こちらには来ますから何時でも会えますよ。」
スンジョがここに来た時は、土地開発でトラブルがあったオリエントこーおぽレーションとつながりのある人物だと知っていたから、最初は警戒していた村の人たちもスンジョが健康管理の事ばかりじゃなく、村の人たちの憩い庫場所で沢山の人の心の傷を癒す場所のキョンエ園の為にしてくれた姿を見て、スンジョの優しさや真面目さに警戒心を解くようになった。

「実は・・・・ユナ・・ハニさんが済州島に帰るので、送別会と言うか・・・ダニエルの事もあるから励まし会というのか・・ちょっとしたパーティをする事になりまして。」
ハニの為にキョンエ園の人たちがパーティをするのか。
そんなに金銭的にゆとりがあるわけでもないのに、ハニの人柄がそうさせているのだろう。
スンジョは引き出しの中から財布を取り出すと、数枚の札をその人に差し出した。
「これは、そのパーティの資金に使ってください。」
「いえ・・・先生もここから他に行かれるので一緒に送別会をしようかと言う・・・」
「子供たちにケーキやら買って来てあげてください。勿論皆さんの分も・・・」
滅多に手にする事のない額の札。
それじゃあ・・と言ってそのお金を持って診療所から出て行った。








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2017年02月22日

今でも 360

スンジョと並んでベンチに腰かけていると、こんな風に自然に話が出来る事が不思議だった。
今まで自分の横にはダニエルが座っていた。
ダニエルは自分の気持ちを割と平気で口に出し、愛情表現にしても子供たちが見ていても見ていなくても変わらない。
『愛している、好きだよ。』
スンジョに片想いをしている時に、ずっとその言葉を言ってもらいたいと思っていた。
その言葉を簡単に言う人間ではないし、自分の事を『はた迷惑な・・面倒ばかりかけさせる』と決して好意的ではない言葉ばかり言われてきた。
あれから何年も経ったから、好きでもない相手にも普通に話してくれる事が出来たのだと思う。

「ペク先生・・・・」
「今は仕事じゃないから昔みたいに呼んでもいいよ。」
「・・・・スンハの言った事は気にしないで。」
「言った事?」
いくらスンジョ君が昔みたいに呼んでもいいと言っても、もうそんな風に呼べない。
スンジョ君しか好きになれないと思っていた私が、スンジョ君以外の人と結婚したのだから。

「オレ以外の人間を好きになるとは思わなかったし、オレ以外の男と結婚しても別にオレとハニの間に何かあって別れた訳じゃない。」
「別れたって・・別に恋人でも何でもないし・・・とにかくスンハの言ったアッパに・・・と言う事は気にしないで。ペク先生はペク先生が好きになった人と再婚すればいいのだから。」
意地を張っている訳でもないが、そのハニの言い方は決して本心を見せないようにしたいとしているようにしか思えない。

「ハニは、これからどうするんだ?」
「済州島に帰って、仕事を見つける・・・そうしないと子供たちを育てられない。」
「保養所で働く、と言うのはどうだ?ハニなら保養所で働いている人の顔は知っているし、みんなもハニの事を知っているから。」
「ペク先生の会社でもないのに?」
自分をずっと見ているスンジョの視線に、内心はドキドキしていた。
ドキドキしていても、こうも自分は冷たい話し方をする事が出来るのかと思った。
「そうだな・・・・・」
話す事がないわけでもないが、しばらく沈黙が続いた。
その沈黙が途切れたのは、スンジョが言った言葉だった。

「ここでの診療所の役割もある程度落ち着いて来たし、オレはここから他に移る事になった。」
また会えなくなる・・・そう思うと、心の中に空洞が出来たみたいに風が通り過ぎる。
「済州島のハンダイの保養所内にある診療所に戻るよ。」








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2017年02月21日

今でも 359

「おじちゃんは、オンマの事は好き?」
子供の無邪気な言葉は、大人の頑なな心を時々ドキッとさせる。
スンジョはスンハに自分の気持ちを言う気はなかった。
「オンマの事もスンハの事もビクトルの事も好きだよ。」
「そうじゃなくて・・・アッパの代わりにオンマを大切にしてくれる?」
その言葉の意味は分かっているが、ちゃんと自分の気持ちを相手が子供だからと言わないままでいる訳にはいかない。
「スンハとビクトルのアッパはこの世には一人だよ。おじさんには、君たちのアッパの代わりは出来ない。」
「オンマの事は好きだって・・・・」
ハニは無意識に身体に力が入り、寝た振りをしている事を忘れていた。
スンジョの気持ちを知りたい反面、離れて暮らしていた年数は思った以上に長く、好きだ好きだと簡単に言えたあの頃とは状況が違う。

家族を気にしないで、スンジョの胸に飛び込みたいが、スンジョからは一度も自分に対する気持ちを伝えてもらった事はない。
大切な人を亡くし、大切な人の心残りが自分とスンジョとの再婚だったにしても、一緒に過ごした年月に一度もスンジョを忘れずに過ごした事に責任を感じているのが昔のハニと違っていた。

食堂の方からソンモおばさんが、スンハとビクトルにおやつの時間だと大きな声で呼ぶと、スンハは地面に座っているビクトルを立ち上がらせた。
「ビクトル、お姉ちゃんの背中に乗って・・・・」
「おじさんが、食堂まで連れて行こうか?」
「大丈夫。お家にいる時も、お庭で遊んでいてオンマに呼ばれた時は、いつもスンハがビクトルをおんぶしていたから。」
立ち上がりにふら付いたものの、スンハは上手にビクトルを背負い、ビクトルはスンハの首に手を回した。

済州島で、ハニたちが過ごしていた様子が目に浮かぶようなスンハの行動。
ソンモおばさんは、スンハがビクトルを背負っているのが心配になり、食堂から飛び出して来た。
「おばさんに抱っこさせて・・・・」
ソンモおばさんの太った手がビクトルに伸びると、人懐っこいハニとよく似た笑顔でその手を掴んだ。
キョンエ園の子供達と一緒にスンハがおやつを食べる為に食堂に入ると、恋慕の丘も園庭も静かになり落ち葉が風に流される音だけが聞こえた。

スンジョはずっと目を瞑っているハニの顔を覗きこんだ。
わずかに動く瞼を見ながら、フッと笑った。
「起きているんだろ?」
「知っていたの?」
「知っていたよ。昔からハニは判りやすいからな・・・・」
何年振りだろう、スンジョとこうして二人だけで力も入らずに話したのは。







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