2015年05月12日

雪が降る前に「波の花」 11

「母さん、今日は若芽取りに行って来るね。」
「行ってらっしゃい。昨日休んだのだから、ちゃんとジュングのばあちゃんに謝っておくんだよ。」
「うん。・・・・あの・・・あの人に、ちゃんと薬を塗るように言うから、母さんが顔を見かけたら塗ったか聞いておいてね。」
さすがに昨日あんなことがあったから、真面に顔が見られない。
今日は部屋に薬を塗りに行かないで、このまま仕事に行った方が気持ちが落ち着く。

ハニは、スンジョが気になって、着替えや食事を持って部屋の前に立った。
昨日、起きた出来事が無ければ何も考えずに部屋に入り傷口に薬を塗り、食事の世話をしていただろう。
「スンジョ様・・・・・・薬と着替えと食事を置いておきます。私、今日は仕事に行かないといけないから・・・・」
「あ・・ありがとう。」
記憶を無くしている自分が、こんな感情を持っていいものかとスンジョは思い始めていた。
抱きすくめた時に、見た目よりも華奢なのに柔らかくて手に触れた胸のふくらみは、意外にも大きくて自分の手にしっくりと馴染んだ。
活発なハニが、そのスンジョの手を掃うことなくしばらく動かないでいた。

ごめんなさい
と、ハニさんが言わなければ、胸に触れていた手はどこに向かったのか判らない。
その後も、ハニも自分も心の動揺を隠そうとしないで冗談を交えて話しをした。
あの眠そうだが大きな目が私の目をじっと見た時、遠い昔にもその目で見つめられた記憶が有ったように感じた。
少し開いた厚みのある唇を無意識に自分の唇が触れていた。
ハニさんはこんな事は初めてだったのか、触れてすぐに身を固くした。ハニさんが初めてだと思ったと言う事は、私は誰かと結婚をしていたのかそんな相手がいたと言う事なのか。

「私・・・・・・・母さんの薬を飲ませないと・・・・」

拒むように私が掴んでいた手がすり抜けて、そのままハニさんは今朝まで部屋の前に来なかった。


ハニは波打ち際に上がっている若芽を選別しながら籠の中に入れていた。
いつもなら鼻歌を歌いながら、時には大きな声で歌を歌うハニが無言で黙々と作業をしていた。
背後から近づく人の砂を踏む足音も聞こえていない。
その人が、ハニの肩を掴むとハニは驚いて声を挙げて抵抗をしようとした。

「ジュング!」
「声を掛けたのに、何か考え事をしていたのか?」
「考え事なんて・・・していないよ。何か用事だった?」
「来週・・・・おじさんは帰って来るんだよな?」
「帰って来るよ来週。」
「その時に、日柄のいい日が有るんだ。」
「ふぅ~ん。」
気のない返事のハニに、昨日のハニと助けた男の二人の様子をジュングは頭から離れなかった。
「もう結婚しようよ。ばあちゃんに早いとこひ孫も見せてやりたいし、先延ばしするとオレが襲っちゃうぞ。」
昨日のスンジョとハニの事を忘れられないが、見なかったことにしようと思って、ふざけた調子で話すしかなかった。






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hanysweet at 07:43│Comments(0)雪が降る前に | 波の花

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