ギドンの店の手伝いはするが、それもバイトが休んだ時だけの手伝いで、殆ど専業主婦としてグミの家事を手伝う。
そんな生活が、嫌ではないが物足りなさを感じる。
考えれば何も考えずに、逃げ出すようにして飛び出したから大学も卒業をしていない。
休学も退学もしていないし死んだことになっているから、籍が消えてしまっているかもしれない。
今更大学で勉強をしても、社会科学部に戻っても就職に必要でもない。
何かしたい。

ベッドが軋みスンジョが横に入って来ると、最近の習慣でハニを自分の方に引き寄せてお互いの温もりを確かめる。

「何を悩んでいる?」
スンジョは、ここ数日ハニが何か考えている事は気づいていたが、また家を出て行ったりしない事は分かっている。
抱き締められて話をするには恥ずかしいし、その状況で話しても真剣に思っているとは思えない。
「私、大学を卒業もしていないから、無理だと思うけど・・・」
「何かしたい事でもあるのか?」
「このまま、パパのお店の仕事を時々手伝って専業主婦のままでいいのだろうか?大学も出ていないから簡単に仕事先が見つかるとは思っていないけど、子供がいるわけじゃないから、なにか自分の為に出来る事はないかなぁ・・・と思って・・・」
スンジョはハニの心に少しゆとりが出て来たのだと、そう思うと嬉しい気持ちになって来た。

「明日、大学の学生課に行ってみないか?」
「仕事は?それに、今更受験なんて無理だよ。あの時は運がよく繰り上げ合格だったから入れた私だよ?」
「きっと前例がないと言われると思うけど、前例がないならないでオレが事情を話して復学が出来るか掛け合ってみるよ。仕事は少し残務処理があるから、パラン大病院のラウンジで待ち合わせをしよう。」
何がしたいかは自分自身が分からないから、とにかく復学が出来るか相談してからでも遅くないとスンジョは言った。
たとえ復学が出来なくても、ハンダイでフルに働ける仕事をスチャンに聞けばいいし、今のままギドンの店を手伝いながら、気長にやりたい事を探せばいい。

グミもスンジョもギドンも、ハニが今の自分の置かれている状況に不安になっていると焦らなくていいと言う。
5年の間の出来事を聞こうともしないし、まるで真綿で包む様に扱う。
縦糸と横糸で織られた布は、まだ薄い布なのかもしれない。
薄い布なら薄くても強い絹の布になるには、ハニが自分の口から離れていた時期の事を話すしか方法がなかった。

「スンジョ君・・・妊娠したかもしれないと・・・・」
勇気を出してあの時の事を言おうと決めたが、言いかけて顔を上げるとスンジョは日々の仕事の疲れもあり、いつの間にか眠っていた。
いつか話そうとそう思っていても、その機会はいつも逃してしまう。
この先何十年も一緒に暮らしていくのに、話さないで行くわけにはいかない。
明日、時間があればスンジョの前から突然姿を消した時の事を話そうと決めた。
それを話して、そこからまた新たな気持ちで復学と一緒にスタートして行こうと考えた。






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