ハニの淹れたコーヒーは、心の奥底まで温かくなる。
唇を付けたカップのぬくもりは、高校の卒業式の時にイタズラにしたキスと同じ温度。
苦味は少なく酸味も少ない、砂糖とミルクは入っていないのに甘くまろやかな味は、ハニの身体から香って来る香りと似ている。
ユン会長はオレとヘラが運命の相手だと言った。
ヘラからの香りは、オレと似ていると安心した気持ちになるけれど、オレの心は安らかな気持ちになれない。
分かっている。
お袋がオレとハニを『お似合いの二人』とよく言っていた。
ただ、オレの時間をかき回して楽しんでいるのを見て、図星を見ぬ枯れて焦って自分をごまかすガキみたいに反抗をしているだけ。

バイトが終わる時間になったのか、ハニは企画室スタッフに挨拶をしていた。
一人一人挨拶をしながら、最後は社長室にいるスンジョの所にやって来る。
「社長代理!授業があるので、失礼します・・・あっ!空いているカップを下げますね。」
場の空気が読めないとか、気が付かないとか言ってからかっていたハニは、意外と店の手伝いをしていたから、開いたカップを下げるタイミングはよく知っていた。
ハニの手元を見ているスンジョの視線に気が付いたのか、ハニは恥ずかしそうに手を引っ込めた。

「ちゃんと手のお手入れをしているわよ。」
「そうじゃない・・・」
いつもと様子が違う事に、よくスンジョを観察しているハニは気が付いた。
表情を滅多に変えないスンジョが、ほんの少し顔が暗い感じがしていた。
「何か悩み事でもあるの?」
「悩み事?」
「うん、私ってスンジョ君を観察する事が趣味の一つでしょ?」
「ストーカーだったな。」
少し意地悪な言い方をするスンジョを見て、悩み事はないのかもしれないとハニは考えられなかった。
「ぐ・・・そう言われれば、違うとは言えない…ストーカーに近いかもしれない。」
「かも?しれない?」
「はい、ストーカーです。」
やっぱりハニとこうして話をしていると、肩の力も抜けるし心を閉ざして自分を抑える必要がない。
「それなら、オレが今何を言おうとしているのかもわかるな?」
「え・・・時間はいいのか?」
「よくわかったな。バスで大学まで行くには、もう今頃乗っていないといけないだろう?」
ハニはハッとして腕時計の時間を見た。
「動いていない・・・電池切れ・・・」
スンジョはニヤッとすると、机の上を片付けて引き出しからキーを取り出した。

「送ってやるよ。仕事もひと段落付いて疲れたし、少し気晴らしに出ようと思っていた。」
上着を持ってハニの横を通り過ぎると、企画室長に一言告げて部屋を出て行った。
ハニは急いでスンジョの後を追いながら、企画室にいる人たちにペコペコと頭を下げながらエレベーターに小走りで付いて行った。





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