深夜近い時間は≪ソ・パルボクククス≫の営業は終わり、正面入り口はブラインドが落とされていた。
頻繁にハニとギドンの店に来る事はないが、店の営業時間が終わった後は、裏口からいつも入っていた。
裏口から入るとすぐの場所に厨房があり、ギドンが翌日の食材の下拵えをしていた。

「ただいま帰りました・・・」
ギドンはスウォンの顔を見ると、タイミングよく温かいお茶を嗅カップに入れてスウォンに渡した。
「ありがとうございます。
「まだ明日の仕込みがあるから、飲み終わったらそのシンクに入れておいてくれればいいから。」
後ろ姿に会釈をすると、スウォンは静かにお茶を飲んだ。
その顔からいつもの笑顔が消え、何かを考えている顔に変わったが、飲み終わったカップをシンクに入れると、ハニがいる二階への階段を上がって行った。

遅い時間まで起きて待っていないハニは、ベッドの中で寝息を立てて穏やかに眠っていた。
音を出さないようにパジャマに着替えると、静かにハニがまだ学生の頃に使っていた狭いベッドに入った。
「先生?」
「起こしちゃった?」
ううんと首を横に振るハニは、眠い目を少し開けてニコッと笑った。
「あまり飲まなかったけど、少し避け臭くてごめんね。。」
「大丈夫・・・楽しかった?」
「楽しかったよ。いつもは近所の昔からの知り合いと飲んでも、医師と患者の関係でそれはそれで楽しいけど・・・・」
スンジョと話そうかと思ったが、スウォンの中でちょっとした嫉妬心がそれを止めさせた。
昔ハニが片想いをしていた男性(ひと)に会ったよ。
そんなに長くて難しい言葉でもないが、半分眠っているハニに話したらきっと眠れなくなるだろう。

「明日はどうする?」
「ん~そうだな・・・混んでいるかもしれないけど、デパートにでも行こうか。」
「デパート?」
「少しずつ生まれてくる子に必要な物を買っておいた方がいいだろう。」
「まだ早いよ。先週、お腹の赤ちゃんが男の子だって分かったばかりなのに。」
「早いかなぁ・・本当はハニとよく似た女の子が欲しかったけど、この子もきっとハニによく似た男の子だと思うと、嬉しくて早く準備がしたいんだ。」
フフッと笑うハニの笑顔はスウォンは好きだった。
もうハニは、あの片想いをしていた彼への想いは消えたのだろうか。
自分を選んでくれたハニを誰にも渡したくはないと思うのは子供じみていると思っていたが、明日買い物に出かけた時にサラッと話してみようかと思った。

「もう寝ようか。」
「うん・・・・」
スウォンの気持ちを知らないハニは、夫にニコッと笑って目を閉じた。