なぜあの時見合いをしたのだろう。
医学部に行きたいという思いを消すためだった。
親に逆らった事はなかったし、普通に大学に通いながら親父の会社でアルバイトをしながら卒業後はそのまま親父の会社に行くつもりだった。
ハニからのあの手紙を手にする事がなければ、自分の人生が変わる事もなかったかもしれない。
ヘラと会ったのは、偶然なのかそれとも計画的だったのかは今さら聞くことも出来無し、聞かなくてもいい事だった。


「スンジョ、いつも新作の開発をする時に融資してくれるユン会長と会うのだけど、お前も一度会った方がいい人だから予定を開けておきなさい。」

予定などないから断る理由もなかった。
親父もそれが見合いだとは言わなかったし、偶然彼女がユン会長と一緒に来たのかどうかは分からない。

父と訪れた会食の場所に、ユン会長と一緒にユン・ヘラが座っていた。
ユン会長が溺愛している孫娘で、オレと同じパラン大学理工学部自由専攻学科でテニス部。
会食の日も大学で普通に講義の内容で話をし、テニス部で軽く汗を流した時にも何も話していなかった。
『見合いをしてみないか?ハンダイのペク社長の息子と』
それがオレだと知ったから、一緒に付いて来たのだと言っていた。
親父は苦笑いをしていたが、それに何も言わなかったが言わなかった理由は、親友の娘のハニがオレの事を好きだと気が付いていたから。
ヘラと会食の席で会った時は、もう同じ家に住んでいなかったが、ハンダイとユン会長の孫娘が見合いをしたとなれば、ニュースとして世間に知られてしまう。

結局その時のオレはハニへの想いが、今まで自分が体験した事のない想いだと気が付いても、特別な人としての想いではなく自分の心を平静でいられなくする相手だとしか思っていなかった。
偶然のように設定された見合いから、トントン拍子で話は進んで婚約までした。
お互い大学を出たら結婚するつもりでいたが、オレの迷いはこのまま親父の会社を継いで良いのかと思った時に、ハニの手紙を思い出し記憶していたのに読み返した事で変わって行った。