先日、ひょんなことから、大学を卒業した翌年に書いた台本を発見した。
当時アルバイト先で演劇をやっていた人に頼まれて書いたのだ。その人はセミプロ気取りで理屈っぽく、先輩風をふかすタイプ。若い女の子、新人にはつまらない意地悪をする子どもっぽい人で、職場のみんなから嫌われていた。真剣に演劇をやっていた自分にとっても、社会的に演劇のイメージを悪くしている迷惑極まりない人だった。そんな人からあまりにもしつこく頼まれ、しかたなく遊びで書いてみたのだった。だから、台本の登場人物のひとりは彼をあてがき、いやらしい口調や雰囲気、ずるい性格すべて彼を想像して書いた。彼にそのことが伝わったかどうかはわからないが、彼は自分に「ひねくれすぎだ。もっと明るい芝居を書け。お前は新しい可能性から逃げている」と感想を一方的に言ってきた。当時、自分も別の芝居にかかりきりだったし、彼に関わること自体がいやだったので、それっきりその台本のことを忘れてしまった。
今回改めて読んでみると、当時の暗い気持ちを表現していて、芝居としても意外とおもしろかった。その頃の自分は、芝居も恋愛も仕事も人間関係も呪いたくなるほどうまくいっていなかった。

台本のタイトルは『DOKU』。(ちなみに毒と動詞の「どく」と孤独をかけている。)
なぜか出口のない、すべてのものが白い密室が舞台である。
そこに閉じ込められた若い兄弟と女性のうち、ひとりが中央のテーブルに置かれた毒入りの赤い液体を飲まなければいけないという設定だ。だれかひとりが毒を飲んで犠牲になれば、ふたりは生きることができる。ちなみに三人は複雑な三角関係にある。
最初のシーンでは隠喩で、三人それぞれ死んだ場合、残ったペアのイメージが描かれる。このシーンではあらかじめ関係と本音を見せておきたかったのだ。
前半は三人がお互いのことを思っていて、全員が毒を飲みたがる気持ち悪い芝居を演じ始める。善意の応酬。途中、液体をぜんぶこぼしてしまったり、再度出てきた液体をこぼそうとしたりするが、神にあたる人が出てきたり、ものが落ちてきたりして、常に強引にだれかが飲まなければいけない設定に戻される。
後半は液体がもうひとつ増え、ふたりが死に、ひとりが生き残るという設定になる。
すると、全員が本気で液体を欲し始め、相手を思いやるセリフのまま、液体の奪い合いが始まるのだ。なかなか壮絶。
最後はしたたかな女性がふたつの液体を奪って飲み干してしまう。すると、部屋を突き破るほど身体が大きくなって、新たな巨人の男と愛し合い、兄弟は呆然と上を見上げたまま取り残されるというオチで終わる。(←どうやって演劇化するのだろう。でも、芝居にするつもりが全くなかったので、好き放題書いてしまったのだ。)

いまから読むと設定に甘い部分はあるが、人間に対する絶望感はとてもよく出ている。さらに、ほとんど一晩で書きあげただけに疾走感もある。思わぬ作品に出会えてかなりうれしかった。