ガラリと扉を開けると、
独特のすえたようなにおいとともに、
不思議な世界が広がっていた。


東四つ木、木根川商店街の奥にある
中華料理「宮城」である。
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2月17日。日曜日の昼下がり。
閉店間際と聞き、私は連れ合いと2人で訪れた。


左側の奥のテーブル席には、
初老の常連客とおぼしき2人組。
右側のカウンター席には、
ラーメン屋さんには場違いな
花の植木鉢があり、
その下には猫が食べ散らかしたような
固形のえさがこぼれ落ちたお皿がある。

奥には急な階段と年代物のストーブ。
ストーブの上には
今にも落っこちそうな鍋が置かれていた。

そして、カウンターの奥には
初老の女将さんがいた。

「いらっしゃい」と言われたかどうかすら、
お店の雰囲気が衝撃的で覚えていない。



これから食事をするのか?はたまたできるのか?
と思うに十分な(正直に言ってしまうと)汚さだった。


常連客に「どうぞどうぞ」とうながされ、
入口近くの空いているテーブル席に
おそるおそる座る。
連れ合いの顔も、
当初あった笑顔が消え、ひきつっていた。


年代物の献立を見る。
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失礼ながら初老の女将さんが
できるとは思えないほどのメニューの数。
そして、値段も最近の物価高とは
関係ないように安い。


私は「味噌ラーメンと餃子にしようかな」と言うと、
連れ合いは「ラーメンでいい・・・」と引き気味。
餃子を引っ込める。
カウンターごしに注文をすると、
後ろの常連客から
「俺のは後でいいから。先に作ってあげて」と言われた。
「ありがとうございます」
下町ならではの人情を感じる。


しばらくすると、
カウンターのわきにある
板の下をくぐって、
女将さんが出てきた。

ストーブの鍋から取り出した厚揚げの煮物。
そして、水菜のごま和え、菜の花のお浸しが
卓上にトントンと置かれていった。
すべての食べ物に無料のお通しが
3品つくシステムなのだ。
さすがにこんなに食べられそうにないので、
勢いにつられビールを頼んでしまった。
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よく見ると、
厚揚げの煮物の小皿には
砂っぽいものがついていた。
後から来たビールグラスにも
長年洗い残しがたまったような
痕がついている。

東四つ木にいながらアジア
旅行している気分になれる!と思いこみながら、
乾杯をして喉を潤す。


そのうちに常連客の一人が退店。
入れ代わりにこれまた初老のおばさんが入ってきて、
先ほどの男性が座っていた席に座った。
いつの間にはおじさんのテーブル席には
ティッシュの上に柿の種が広げられていた。
「これ美味しいんだよね」とおばさん。
「そうだよね」と女将さん。

ラーメン屋なのに、持ち込みOKなのだ。
さらに新たなお客さんが入ってきた。
今度は私と同世代ぐらいの男性で、
この場所とは縁遠そうなさわやかそうな雰囲気だが、
慣れたようにカウンター席に座る。
全員が見知った常連客なのだ。


「俺のは後でいいよ」と先ほどのおじさん。
「あ、あたし、頼んでいたっけ?」とおばさん。
「まだだね」と女将さん。
慣れたように「チャーハンとおつゆ」とおばさんが返す。
先ほどの青年は、これまた慣れたように
どこからかグラスと炭酸を持ってきて、
勝手に飲み始めた。


そうこうしているうちに、
私たちの味噌ラーメンとラーメンができあがり、
カウンターに置かれた。
あうんの呼吸のように、
青年が私たちのテーブルまで運んでくる。 


ああ、私たちは宮城のコミュニティに
お邪魔をしているよそものなのだ。
「す、すみません」

「どこから来たの?」と女将さんに聞かれたので、
「奥戸から」と答えると、「遠いね」と一言。
川を隔てて反対側でも「遠い」という感覚である。
でも、私たちのような一元客にも
疎外感を感じさせないのがこのお店のよさである。

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恐る恐る手をつけた味噌ラーメンはふつうに美味しかった。
連れ合いが頼んだラーメンはシンプルなしょうゆ味。
メンマにチャーシュー、シナチクがのっていて、
ふつうに美味しかった。

しめて、1,260円。安い、安すぎる。


こうして3,40分ほどの小旅行は終わった。


店を出るなり、どちらともなく
「すごいお店だったね」との言葉が流れた。
   
閉店1週間前の貴重な思い出になった。


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