5月25日、黒人のジョージ・フロイドさんが、白人警官によって殺害された。
ミネアポリス警察のデレック・チョーヴィンは、地面に倒されて手錠をかけられた状態のミスター・フロイドの首に膝をのせ、彼の動きが停止した後も頸動脈にプレッシャーをかけ続け、彼の死を確実にした。その間、他2人の警官は、彼が抵抗できないよう、彼の背中と足を抑えつけ、ひとりはその傍らに立っていた。彼らはその様子を撮影していた17歳の少女の前で、公開殺人を行った。

 今回、ここまで大きな暴動へと発展した理由はいくつかある。ここ数か月間で起きた、いくつかの事件も関係していたと思う。

 2月23日、ジョージア州。ジョギングをしていた25歳の黒人のアマードを、白人親子がピックアップトラックで追いかけた後、ライフルで射殺。この親子が逮捕されたのは弁護士によってビデオが公開され、レブロン・ジェイムズなどのセレブリティが抗議を始めた翌日の5月7日。事件から74日間、彼らは野放しだった。父親のマックマイケルは元警察官で、彼が勤めていた警察署がこの事件を担当していた。彼らはアマードを泥棒だと思ったと話しているけれど、アマードはそれらしい行動は何ひとつしていない。

 3月13日、ケンタッキー州ルイヴィル。午前1時、ドラッグディーラーの家と間違えて乗り込んできた3人の警官によって、黒人女性のブリオーナが射殺された。彼らはユニフォームを着ておらず、警察だと名乗らず、いきなりドアを破壊した。一緒に寝ていたボーイフレンドのテイラーは強盗だと思い、2発の銃弾を発射、それに対し警官たちは、闇雲に20発の銃を放ち、そのうち8発が彼女に命中。警官はボディカメラをつけていなかった。テイラーは強盗殺人の容疑で逮捕。

 5月16日、アイオワ州。ガールフレンドの家を訪ねた22歳のダクワナが、数人の白人に襲われた。ドアの前で彼女の応答を待っていたダクワナに近付いてきた彼らは、いきなりダクワナの顔を殴り、小川まで引きずっていき、彼の頭を水に押し込んだ。彼は逃げ出すことができたけれど、腕、鼻、顔の5カ所を骨折。警察は犯人を捕まえていない。

 そしてミスター・フロイドが亡くなった同じ日の朝、ニューヨークのセントラルパークで、犬の散歩をしていた白人のエイミー・クーパーは、バードウォッチングをしていた黒人のクリスチャンから、

 「犬にリードをつけてもらえますか?規則ですから」

 と言われて逆上。

 「アフリカンアメリカンの男によって、私の命が危険にさらされています!」 

 と、今にも殺されそうな声で911をした。
 この「命が危険にさらされている」というフレーズで、過去にどれほど多くの黒人が犯罪者に仕立て上げられ、警官に殺されてきたことか。実際に命の危険を感じていたのはクリスチャンなのだ。

 ダクワナとクリスチャンの事件は、白人女性の嘘によってリンチに遭い、タラハシー川に沈められたエメット・ティルを黒人たちに思い出させた。今から65年前の事件だ。

 2020年になっても、アメリカで生まれた黒人は、ジョギングをしていて殺されることがある。ガールフレンドの家を訪れたら、リンチに遭うかもしれない。犬をつなぐべき場所で、つないでくださいと言えば、警官に嘘の通報をされ、命の危険にさらされる。この国の黒人女性は夜眠っている間に銃弾を浴びる可能性がある。これらの事件は彼ら黒人に大きな怒りをもたらしていた。

 また、この数か月間、国民は不安の中にいた。

 十万人以上の人々がコロナで亡くなり、死の恐怖はすべての人にあった。しかも初期対応が違えば、そのうち数千人が助かったと言われている。しかし米国大統領はその事実を認めず、国民のヘルスケア対策、医療保険対策よりも、ビジネスの再開を急いだ。現在、40%以上のスモールビジネスは経営破たん、もしくは廃業に追い込まれている。大きな組織の末端で働く人々の多くが解雇された。今回のコロナの影響で、現在4千万人が失業保険を申請しているけれど、彼らは皆、今後の生活に不安を抱え、そのような政治に不満を持っていた。

 そしてミスター・フロイドの事件をきっかけに、国民の不安、不満、怒りが爆発した。

 私たちも深い怒りの中にいたけれど、今回は少し違った。

 ミネアポリスのジャコブ・フレイ市長は、

「我々が目にしたのは犯罪だ。なぜ、ミスター・フロイドを殺害した警官たちは今、牢屋に入っていないのか?」

 とスピーチをした。過去にはなかったことだ。

 また、翌日に戻るはずの学校や仕事がないこともあるとは思うけれど、今回の抗議には多くの白人が参加し、黒人をサポートしてくれている。白人が盾となって、警官から黒人を守ってくれる場面もあった。実際、抗議者が黒人だけだったら、警官はもっと早い時点で、多くの人々に銃を向けていたはず。
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 アメリカ国民の多くが、ジョージ・フロイドの死に衝撃を受け、抗議運動に立ち上がった。これはアメリカの公民権運動の歴史に残る出来事、歴史が変わる瞬間なのだ。

 1968年5月、キング牧師が暗殺されたときも大きな抗議運動、暴動が起こったけれど、このときの参加者のほとんどは黒人で、その怒りは白人至上主義者に対するものだった。そして、ジョンソン大統領は、キング牧師の暗殺を非難し、最高裁判所判事のサーグッド・マーシャルや、政府関連の仕事に従事する黒人たち、公民権運動の活動家たちとミーティングを開き、暴動者に対して、不必要な暴力を振るわないよう通達した。

 これに対し、今回の抗議運動はすべての人種を含んでいる。彼らの怒りは、黒人を不安と恐怖に陥れる、この国のシステムに向かっている。黒人を殺害した白人は正当防衛を主張し、武器を持たない黒人を殺害した警官は「命の危険を感じた」と言えばお咎めなし。過去には解雇された警官もいるけれど、ほとぼりが冷めれば違う職場に復帰しているケースがほとんど。そんな理不尽な世の中、政治に対してすべての人種が一丸となって声をあげている。

 しかし現大統領は、そんな国民の声に耳を傾け、その解決策を講じ、国民と国家の団結を目指すことをせず、国民を抑圧することを命じた。彼は己の国民に対し、ナショナルガードを送り込み、自分自身はホワイトハウスのシェルターに身を隠した。現場では、ミリタリー化した警察組織が市民に対して実弾、ゴム弾、催眠ガスを発射した。そのターゲットには、報道の自由が許されているはずの報道記者も含まれた。まさにトランプのやり方だ。ちなみに彼は、ミスター・フロイドの死に対するコメントもせず、家族にお悔やみの言葉もかけていない。

 今回、抗議運動に参加している人々は、この事件に関与した警官に対する正しい処分を求め、黒人に対する警察の虐待をやめさせるために声をあげている。しかし、参加者の中には、怒りが大きすぎて暴動を起こしている人もいる。また、事件とは関係なく、強奪だけを目的にしている人もいる。

 暴動や強奪を肯定するわけにはいかないけれど、その理由を理解することも大切だと思う。

 2020年になった今でも、この国にはゲトーと呼ばれる場所があり、そこで暮らす黒人と、それ以外の人々との経済的ギャップは果てしなく大きい。私はシカゴしか知らないけれど、その町にはビジネスらしき建物はなく、廃墟のような家が立ち並んでいるだけだ。そこで暮らす彼らは、携帯もテレビも自転車もコンピューターも、皆が当たり前のように手に入れられる物をなにひとつ持っていない。彼らの人生で、彼らが欲しい物を手に入れられる機会は、このような暴動がおこったときの強奪だけなのだ。

 この国は彼らから教育を受けるチャンスを奪い、低賃金の仕事しか得られない状況を作り、ドラッグを町にばら撒き、政治に関与できないよう投票を妨害し、ありとあらゆる方法で黒人が成功できないシステムを作ってきた。この状況が何世代にも渡って続いている。彼ら黒人が、この国で成功すること、他の人種と同じレベルの生活を手に入れることは、私たちが考えるよりもずっと難しいのだ。

 しかし、そんな状況でも彼らは自分たちだけの力でビジネスを確立し、土地を持ち、経済的に豊かになったことがある。しかし、この国はそれを許さなかった。1921年にオクラハマ州で起きたタルサの暴動、1923年にフロリダ州で起きたローズウッドの暴動だ。

 合衆国は黒人が手に入れたものを焼き尽くし、奪い取った。現在暴動や強奪が起きているけれど、それを始めたのは彼ら白人である。黒人をリンチにかけたのも白人だ。すべて彼らが黒人に対して行ってきたことなのだ。

 ダンナがいつも言っているように、黒人は白人に仕返しをして、この国を自分たちのものにしようなんて考えていない。黒人は白人をリンチしようなんて考えていない。これまでも、これからも彼らは国民としての当然の権利を求めているだけ。警官に殺される不安から解放されたいだけなのだ。

 しかし、そのシステムを変えるために立ち上がった国民に対し、この国は銃を向けた。

 6月1日、ジョージ・フロイドの弟、テレス・フロイドがマイクロフォンを手にした。

「町を破壊しても、俺の兄は戻ってこない!この方法ではなく、投票をしよう!正義なしに平和はない!」

 と訴えた。そして、多くの活動家たちが抗議運動が行われている場所へ行き、投票を呼び掛けている。この国のシステムを変えるためには、暴動や強奪ではなく、この国をリードする大統領、政治家を変えなければならない。

 実際、4年間でトランプは30%の裁判官を交代させた。もしも任期が4年延長すれば、その数は50%以上になることは間違いない。

 最後に、今回の抗議運動による、いくつかの進展を書いておく。

 まず、デレック・チョーヴィンの罪状が、第三級殺人罪から第二級殺人罪に変更された。逮捕されていなかった他3人も逮捕、起訴された。

 ブリオーナの事件を担当したケンタッキー州、ルイヴィルの警察署長がクビになった。

 ワシントンDCのミュリエル・バイザー市長のサポートにより、ホワイトハウスへと続く道に「BLACK LIVES MATTER」というサインがペイントされた。
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 アラバマ州のバーミンハムのリンパークにあるコンフェデレート・モニュメント(南北戦争期の連合国を顕彰する記念碑)が撤去された。
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 その他、ヴァージニア州のリッチモンドも記念碑を撤去することを発表した。
 これら記念碑は連合軍で活躍した将軍の銅像が多く、主にアメリカ南部に建てられている。その数700体以上。これは奴隷制を支持した南部の歴史を記念するもので、黒人にとっては屈辱でしかない。その記念碑が撤去された。これもまた歴史的事件なのだ。

 抗議運動をする人々の中には、逮捕されたり、ケガをしたり、亡くなった人もいる。この国のシステムの犠牲となったジョージ・フロイドのために、正しい世の中をつくるために、また新たな犠牲者が出ている。そしてその犠牲者には家族がいる。とても悲しいことだ。

 この事件が起きたとき、正直、「またか・・・」という気持ちの方が大きく、驚くことはなかった。しかし、たくましいミスター・フロイドの姿は私のダンナの姿に入れ替わった。
 ミスター・フロイドのようなタフな黒人男性が、母親に助けを求めることなどまずない。そんな彼が、「ママ!」と叫んだ。苦しみと悲しみと、自分の死への恐怖に直面した彼の心を思うと、ダンナの姿と重なって、怒りと悔しさ、悲しみで仕事を続けることができなかった。そのことをダンナに話すと、

「俺はずっと、何十年もそんな感じやで」

 と言われた。彼と暮らし始めて15年、私は彼の心のいたみの、ほんの一部がようやくわかったのだと思った。

 次世代の子供たちが、このような苦しみや悲しみから解放され、正しい政治によって、安心して暮らせる、そんな世の中に向かって欲しいと心から願っている。

 最後の最後に、12歳のブライアン君の歌。ジョージ・フロイドの「ママ!」という叫びを聞き、ブライアン君のママが歌詞を書いた。

 「僕はただ生きたいだけなんだ。神様、どうか僕たちのことを守ってください」

という歌詞。この国で生きる、黒人たちの願いである。



*世の中の流れが早く、執筆が間に合っていませんが、少しずつ更新していきたいと思います。よろしくお願いいたします。

MMジャーナル にも今回の事件について書いています。よろしければのぞいてみてくださいませ!


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