遠すぎた橋という戦争映画は私の大好きな映画の一つだ。この映画は、第二次大戦中の連合軍のマーケットガーデン作戦を描いたものである。でもこの作戦、日本軍のインパール作戦同様「やらなくてよかった作戦」として後世の戦史家に評判が悪い。それはこの作戦は多くの犠牲者が出て失敗するのだが、西部戦線で連戦連勝している連合軍が、わざわざオランダに行って戦略予備として控えている強力な機甲師団を無理して攻めることはなく、西部戦線を無理せず連合軍が押していけばオランダからドイツ軍は自ら撤退したのである。
さて、ライブドアVSフジサンケイの戦い。後世の歴史家から批判されそうな作戦がこの戦いにもある。あのニッポン放送の新株予約権発行である。
新株予約権は、あらかじめ決めた価格で、将来、株式を取得できる権利である。新株予約権を取得した企業は、期間内に、時期を見計らってこの権利を行使することができる。ニッポン放送の場合は、フジテレビが3月24日に、最大4720万株分の新株予約権を引き受けることが出来る。ニッポン放送は定款で発行可能な株式数の上限を8000万株と定めているから、フジ側が予約権をすべて使うとどんなにライブドアがニッポン放送株を持っていても過半数を制することができる。
ただ、商法では支配権維持を目的とした新株の発行は禁じている。そこでライブドアが新株予約権の発行を指し止めるため裁判に訴えた。

後から見れば新株予約権発行をめぐる裁判ではフジ側の主張(ライブドアの時間外取引の違法性、買収によるニッポン放送の企業価値の毀損など)は、何ひとつ採り入れられず全く取り着く島もない判決であった。フジ側は新たな判例をもらうということだったが、この判決内容を見るととても裁判で勝てるという見込みがあったとは思えない。
ただ、この戦いは裁判の勝敗が全てではない。あくまでフジテレビの支配権をめぐる争いである。そう思うとこの新株予約権発行という作戦はフジ側の防衛に対して大きな寄与があれば成功だったと評価していいのである。問題は果たしてそうだったのかである。

まず、考えられるのがフジテレビのニッポン放送株TOBへの貢献である。新株予約権を表明した2月24日は、フジが25%を目標にニッポン放送株のTOBを行っていた。新株予約権の行使でライブドアの勝利が薄いことを印象づけ、TOBに応ずる株主を増やすことができたのではないかということである。ただ、私の見るところフジテレビにニッポン放送の株を売った株主は、どちらかというとフジテレビとの関係を重視して売った会社が多く、新株予約権がTOBに与えた影響は少なかったと思われる。
また、アナウンス効果がある。
フジが、違法の疑いがあるとはいえ、圧倒的に勝利できる作戦を誇示すれば、世間的にライブドアに勝ち目は無いと思わせることが出来る。(実は私もこれに引っかかった。)しかし、マスコミに専門家などの的確なコメントが紹介されるにつれ、世論もこの新株予約権発行は、裁判では認められないのではないかという地裁の判決前に既に広がってきた。

ここまで、見るところ新株予約権発行はあまり効果は無かったようである。それに増して新株予約権発行は、ライブドアとの裁判に負けた以外にもフジ側を不利にしている。
まず、あの評判の悪いライブドアの時間外取引について、合法であるというお墨付きを高裁が出したことである。
これでフジ側が主張する時間外取引は「違法あるいはそれに近い取引」という主張はかなりの部分で根拠を失うこととなる。これはフジにとってライブドア乗っ取りへの抵抗の大きな大義名分を失うこととなった。新株予約権の発行が無ければ裁判は無かったわけで、そうなれば時間外取引の是非はグレーゾーンとなり、結果としてフジ側には有利になったと思う。(その時点で本当に裁判で勝てると思っていたなら別だが、それはそれで判断が甘すぎるということになる。)

さらに新株予約権は、ライブドア側に「フジテレビは、ニッポン放送を見捨てることができない」という確信を与えた。
フジ側は、当初、フジテレビ本体を守るためにニッポン放送を捨てる覚悟で抵抗してきた。TOB目標を下げたり、ニッポン放送資産の売却などである。ニッポン放送の企業価値を損ねられると同社の株を大量に持つライブドアの資金繰りに影響する(事実、和解直前にはそうなっていた)のでライブドアにとっては嫌な戦い方である。そのフジが突然このような新株予約権を発行してきたのは、フジ側がb>ニッポン放送をライブドア側に渡すことに相当な未練があるということを世間に示したようなものである。ライブドア側は、ニッポン放送を人質に取れば(見捨てるこのとできない)フジに対して優位に立てると判断したかもしれない(事実、和解交渉では追い詰められた状況にもかかわらずニッポン放送株をライブドアが市場などから買い取った価格で買い取らせてライブドア側にとっては440億円の利益が出るなどある意味有利な条件を勝ち取った)。
と考えれば、フジ側が、新株予約権発行の作戦を採らず、冷徹にニッポン放送を楯にフジテレビを守るために長期戦も辞さない覚悟で戦っていれば、ライブドア側に心理的に非常な圧迫を加えたであろう。現に堀江社長が取材陣に逆切れしていた時期、ニッポン放送を道連れにライブドアが破綻するのではないかという恐怖感が関係者にあったという報道がなされていたと聞く。この恐怖感を持ったまま交渉に入っていれば相当、フジ側に足元を見られていたと思うが、
結局、新株予約権発行で示された「フジ側は絶対ニッポン放送を見捨てない」という確信をライブドアが持てたことが、強気の条件を引き出せたのではないかと考えるのである。

以上のことから、フジ側の新株予約権発行は、「マーケット・ガーデン作戦」と同じく「やらなくてよかった作戦」だったのである。マーケット・ガーデン作戦は、連合国軍に1万人の死者を出した。フジ側の新株予約権発行の損害は、ライブドアが交渉を通じて手に入れた440億円というところか。人の命はお金に換算はできないのであるが・・・


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