2007年07月06日


 雨上がりの夜
 廃屋の窓

 青白い光
 月の光
 遠くに見える光
 電灯の灯火
 高尚な輝き

 君が持つミネラルウォーター
 ボトルの白いシルエット
 この世で一番高貴なもの

 聞こえるギターの音色
 激しくもあり
 悲しくもあり
 それは君の心

 雨の残るアスファルト
 走る車の音
 何かを踏みつけるように
 何かが纏わりつくように
 君の心の憤り

 階段に腰掛ける君
 傍に居る私

 君の大きな宇宙の中
 無意味に存在する私
 無力に存在する私

 肩を寄せ合う二人

 けれども
 その視線の先を追ってみても
 君の見ているものが私にはわからない


 高尚で 気高く 儚い
 君の周りの全てのもの
 私が近づくことを拒んでいる

 雨上がりの夜
 廃屋の窓

 青白い月の光
 君の横顔
 曖昧に映し出す

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2007年06月30日

逢瀬


 かおりは白いタオルで顔を拭きながら、鏡に映る自分の顔を見ている。
 鏡に映る自分と、鏡に映っていない9時間前の自分の顔を。
 
 今鏡に映る自分の顔は、いつもの43歳のかおりの顔ではない。
 少し疲れた顔はしているが、首筋のたるみには張りがある。
 それは心地よい脱力感のようで、女としての充実感を満たしていた。

 ここに女友達が居たなら、かおりの顔の違いに気がつくであろう。
 だがこの家には水色のパジャマをだらしなく着て、ボサボサの頭で大あくびをしている夫しか居ない。

 かおりの変化を嗅ぎ分ける、旧知の女友達は居ない。
 今朝とはまた違う、昨夜のかおりの顔を知る関口もまたここには居ない。

 額と頬をぬぐった白いタオルを、顎のあたりから首筋へと移動させ確認する。
 昨夜ホテルのパウダールームでは十分に確認しなかった首筋を。


 関口の唇は心なしかいつもより激しく、かおりの首筋を這う。
 かおりの身体に圧し掛かり、唇を覆った関口の唇。
 かおりの上下の唇を交互に吸う。
 唇の奥に隠されたかおりの舌を吸う。
 そして耳元へと動いていく。

 関口の舌が器用にかおりの耳を迷路を手繰るように這う。
 耳たぶを何度もあま噛みし、少し弛みのでてきた首筋へと渡る。

 40を過ぎた頃から、身体の重みは変わらないのに首筋の皮膚に余分な弛みが出てきた。
 かおりは「これを年齢というのだ」と諦めかけていた。

 しかし関口の唇がそこを通る事を考えると、余分な皮膚が関口の唇の移動を妨げることを懸念してしまう。
 毎晩必ず化粧水を首筋につけ、余分な皮膚を上から下へとまるで溜まった老いを流すようにマッサージしてきた。

 そのせいか首筋は43歳にしては透明感と艶がある。
 関口がかおりの首筋をいちいち観察し、そして比べているとは思えない。
 ましてや関口の妻の首筋と比べることなど考えたくもない。
 でも、かおりの女としての拘りはこのわずが十数センチの皮膚に要約されている。


 かおりは照明の影がないように首を左右に動かし、顎を天井に突き上げ首筋を確認する。
 昨日の関口の唇は、いつもよりきつくかおりの首筋を這った。

 無意識の行為だとは知っている。
 一ヶ月ぶりに会えたことの喜び。
 それを唇が言葉ではなく口付けで語る。

 愛しい男の唇が首筋を通るだけで、女というのは体中に電流が走る。
 かおりの身体に一本の電線が走っているかのように。
 首筋に当てられた唇から発した痺れは身体を通り抜け、子宮まで届く。
 関口の唇が首筋を掠めるだけで、かおりは立っている事がままならないほど脱力し目の前の男に我が身を投げ出してしまう。

 関口の唇は何度も何度も首筋を往来する。
 時に留まり、唇と舌を使いかおりの首筋を丹念に愛撫する。

  痕が残る

 激しく湧き出る愛欲の中、かおりは一瞬躊躇した。
 でもこれほどまでに自分の首筋を愛しむ関口を咎めることは、かおりには出来なかった。
 痕が残るかもしれない。

 首筋に出来た小さな痣を下手な言い訳で誤魔化せるほど、近所の主婦どもは容易くない。
 あらぬ噂の的になる。
 それでも関口の唇を首筋から引き離すことは、今のかおりには出来ない。
 出来る出来ないというより、したくない。

 かおりは関口の唇が首筋を這いやすいように身体を大きく仰け反らせる。
 首筋という身体のごくわずかな部分を最大限に大きくさせる。


 今朝、鏡の前のかおりの首筋はいつもと変わりなかった。
 あんなにも激しくかおりの首筋を這ったはずの関口の唇は、何の証拠も残さず去っていったようだ。

 互いに伴侶のある身。
 ひと時だけ、かおりは関口のものであり関口はかおりのもの。
 それはあくまでもひと時の短い逢瀬の間だけ。

 残り大半を占領する伴侶に、決して見つかってはいけないこと。
 どれほど激しく求め合っても、決して互いの身体に痕を残さないのが暗黙のルール。

 かおりが物足りない首筋を眺めていると、歯を磨こうと夫が洗面所に入ってきた。
 首筋を触るかおりにあくび一つで挨拶をし、洗面台の前を交代する。

 後ろめたさの残らない首筋を上下になぞりながら、洗面所をあとにした。
 いつものようにかおりの首筋はしっとりとし、上質の陶器のように滑らかだ。
 部屋にかえり、かおりは関口にメールを書く。

 「女心とは不可解です。
  昨夜の痕を微塵も残さない肌を見ながら、時には狂おしいほどの愛撫をもとめてしまいます」

 関口が首筋に痕を残すような男なら、かおりは付き合っていないだろう。
 関口が愛撫の痕を用心するような男だから、かおりは惹かれているのだろう。

 頭で求めるものと、
 心が求めるもの、
 そして身体が求めるものが違う。

 それが女。

 深くため息をつきながら、かおりは関口へ送信する。

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2007年04月26日

友よ


 智美から連絡があったのは、杉下の初七日の翌日だった。
 朝の10時。

  「智美です。先日はありがとうございました。」

 そう挨拶されて、島田は返答に困った。
 旧知の友杉下、その愛人だった智美。



 もう9年になるだろうか。
 島田と杉下は互いに若くして会社を興し、JCで知り合った。
 同じ歳で妙に気が合う島田と杉下は、男盛りを共に戦った親友と呼べる仲だった。

 そんな杉下が突然、心不全で倒れたのは先週の初め。
 病院に運ばれた時には既に手遅れだった。

 56歳。
 同じ歳の、それも杉下の死が島田には堪えた。

 杉下の妻から訃報を知らされた島田がした事は、他の仲間への連絡と智美への連絡。

 杉下と智美、島田と智美の友人の明子は偶然知り合った。
 杉下と智美が付き合い出し、つられるようにして島田と明子も付合い始めたのが9年前のこと。

 大人の男と女。
 互いがどれほどの関係で繋がっているかは知る由もない。
 けれども半年と持たずに判れた島田と明子とは違い、杉下と智美は気がつけば9年と言う月日を重ねていた。

 離婚経験のある智美はに、結婚願望はなかったのだろうか?
 32歳の智美は、47歳の杉下に何も望まなかったのだろうか?
 男同士というのは、女のその手の話と違って「聞かないルール」がある。
 長く続いている杉下と智美の関係が、島田には羨ましくもあった。



 島田は一度持ち上げた受話器を置く。
 連絡をするべきか・・・・

 島田が連絡をしなければ、智美が杉下の死をするのは少し先になるだろう。
 杉下と智美がどれほどの頻度で会っているかは知らないが、少なくとも半月も経たずに智美は異変を感じるだろう。

 いつものように、智美が杉下の携帯電話を鳴らす。
 主の居ない携帯電話に、杉下の妻が出る。

 その凍りつくような瞬間を考えると、島田は智美に連絡する事が死んだ杉下のためになる気がした。
 しかし、智美が泣き崩れるのも厄介な気がした。

 もし智美が葬儀に出たいと言い張ったなら・・
 自分が智美を連れて行くことの煩わしさと、周囲の目。
 だからと言って智美一人に葬儀に参列させるのも、何が起こるかわからない。
 泣き崩れる智美を誰かが誤魔化してやらなければ。
 杉下の生前の悪事を、葬儀という公の場で公開してしまうのは可愛そうな気がした。
 男同士のズルイ連帯感からだろうか、島田はもう一度受話器を取り智美に電話を掛ける。

  「島田です。久しぶり智美ちゃん」

  「あぁ、島田さん。久しぶり、どうかした?」

 最後の「した」のトーンが一気に下がる。
 明子と別れてからは、島田が智美に直接電話をする事などなかったのだから。
 智美が何かを察するのは当然のことだろう。

  「智美ちゃん、杉下が死んだ。今朝・・心不全だったらしい」

 島田は杉下が死んだという言葉を走る様に早口で告げる。
 智美からはなんの返事も返らない。
 受話器の向うからは何一つ物音がしない。

  「智美ちゃん、智美ちゃん!聞いてる・・それでね」

 島田は親友への最後の友情として、智美を葬儀に連れて行く覚悟をしていた。
 それが愛人への敬意であったし、杉下への男の花道だと思っていた。

 島田が葬儀の場所と時間と告げても、智美からはなんの返事もない。
 不安に駆られた島田は、もう一度

  「智美ちゃん?」

 と受話器の向うに呼んでみた。

  「ありがとう、島田さん。教えてくれて」

 受話器の向うで深呼吸するのが聞こえ

  「でも、私・・お葬式には行きません。こちらから連絡しますので」

 そう言うと、智美は島田の言葉を待たずに電話を切った。

 島田は安堵した半面、無償に腹が立った。
 泣き崩れ

  「嘘だと言って!」

 と狂乱する智美を予想していた。
 島田が言わずとも、最後のお願いと葬儀に参列し泣き崩れる智美を心の中では期待していた。
 それが死んだ杉下の「男の花道」だと。
 旧知の友がしてやれる、最後の友情だと。

 なのに智美は泣きもせず、一瞬驚いただけで葬儀にも行かないと言う。

  「所詮、愛人ってのはその程度のものか」

 と吐き捨てた。
 杉下には悪いが、お前の愛人は情の欠片もない。
 そして自分に言い聞かせるように

  「最後に務めてくれるのはやっぱり嫁さんだよ、杉下」

 とつぶやいた。



 初七日が終り、島田の心には大きな穴があいていた。
 自分にも訪れるかもしれない死への恐怖。
 友を泣くした哀しみ。

 その虚しさの中で、智美からの電話が鳴った。

  「島田さん、相談したい事があるんですが。お時間頂けませんか?」

 智美は寂しげでもなく、悲痛でもなく、ただ単調に島田の予定を聞いた。

 島田が智美に会う必要などない。
 しかし、杉下の為に会わなければならない。
 これは全て男同士の友情のため。

 島田は明後日の13時に駅前の喫茶店「ロン」で智美と会う約束をした。
 葬式も終っているのに、今更なんの用があるのだろう。
 島田は不謹慎なことを想い浮べ、苦笑いをした。

  「杉下の後釜?」

 杉下がどれほど智美に援助していたかは知らない。
 三十路の盛りを杉下と過ごした智美。
 四十の声を聞いた今、一人身は辛い。
 それで・・・

 島田の中のスケベ心がニヤリと笑み

  「それなら、それは・・・・」

 島田は心の中で勝手な言い訳をする。

  「お前も心配だろ。智美ちゃんのこと」

 そしてもう一つ、気がかりな事がある。
 杉下も自分と同様、多少なりと財産と呼べるものを残している。
 残された杉下の妻と娘が暮らすには何不自由ない額を残している。

 それは「夫婦」であり「親子」であり「家族」である妻と娘への、杉下の責任を十分に表すもの。
 しかし、智美には何もない。

 急な死を杉下自身は予測していなかったであろう。
 まだ56歳の杉下が遺言など書こうはずがない。
 例え書いたとしても、そこに智美の名前が在っただろうか?
 いや、在るはずは無い。

 智美は9年間の代償を求めるのだろうか?
 葬儀に参列しないと言った智美。
 今や島田にしてみれば智美は情のない冷たい悪女でしかない。

 葬儀の席で気丈に喪主を務めた杉下の妻。
 自分の娘と同じ歳の杉下の娘。
 島田は二人を自分が守るべき対象、と思えてきていた。

 杉下の奥さんと娘さんを守ってやらなければ。


 「ロン」の前まで来ると、窓際の一番奥に智美が座っているのが見えた。
 黒っぽい服を着た智美。
 喪に服しているつもりなのか?
 今となっては、服装さえも胡散臭く見える。

 島田は商談の様にテキパキと店に入り、智美の座る席まで歩いて行った。
 近づく島田に気がついた智美は会釈をし、挨拶する。

  「お忙しいのにすみません」

  「大変だったね」

 身内でもない智美に対して変な挨拶だとは思いながらも、そう声をかけた。

  「いつか、こんな日が来るかも知れないと思っていました・・ただちょっと早かったから・・」

 確かに杉下と智美は15歳も離れている。
 このまま続けば、いつかは杉下の死に出くわすだろう。 
 しかし、もう少し動揺してもいい筈。
 まるで杉下の死を待っていたのか様に思える。

 島田はとても不愉快な気持ちになった。

  「で、要件は何?」

 島田はあからさまに智美への態度を急変させ、話を堰きたてる。
 智美は氷が溶けて上の部分が水になったアイスコーヒーを一口飲んでから、切り出した。

  「お願いがあります」


 そら、きた。


 島田は智美が慰謝料だの財産だのと言い出したら、怒鳴りつけてやろうと構えていた。
 それでも杉下の妻や娘を悲しませない為に、上着のポケットには100万円を用意してもいた。

 智美が杉下との9年間を金で換算するならルール違反を問い正し、杉下の代わりに手切れ金として100万を投げてやるつもりだ。
 それが親友の妻子にしてやれる男の友情。

 智美はクルクルまわるグラスの氷を見ながら

  「御願いがあります。私、ほしいんです」

  「智美ちゃん、それはルール違反だよ。そりゃ9年間は長かったよ。でもね・・」

 島田は最初は柔らかめに、それでもしのごの言うのなら声を荒立てようと今日のシナリオを書いていた。

  「今更、杉下の奥さんや娘さんに迷惑をかけることはないだろ。大人の付き合いなんだし」
  「智美ちゃんだって、9年間それなりにいい思いはしてきたはずだしね」

 氷を見ていた智美は今度はコースターへと視線を落とし、俯き加減でゆっくり口を開いた。

  「奥さんや娘さんが居るのは承知です。迷惑をかけてはいけない事もわかってます」
  「だから・・だからあの人のお葬式には行かないって、ずっと前から決めていました」
  「9年間、私はあの人に愛されて幸せでした。それだけで十分だと・・・・」
  「でも、やっぱり・・やっぱりこれから一人で生きていくには」

 島田は自分の書いたシナリオどおりに智美がしゃべるのが可笑しかった。
 そして上着のポケットの中身を思い浮かべながら、智美の口から

  『カネ』

 の2文字が出るのを、今か今かと待っていた。

  「島田さん、お願いです。あの人の奥さんに話してくれませんか」
  「あの人の骨を一つ下さい、と」

 智美の口から出された言葉は『カネ』ではなく『ホネ』だった。
 島田は拍子抜けして、聞き返しす。

  「そんなもん貰って・・どうする気」

 智美は今度はしっかりと島田の顔を見ながら話す。

  「私にはあの人の残してくれた9年間の愛と思い出があります。それだけで十分だと・・そんな人生を私は送るんだと思っていました」
  「あの人の思い出と一緒に。一人になった後の時間を過ごせればいいと」
  「でもいくら考えてもあの人の死は早すぎます。早すぎて寂しすぎて・・」
  「だからもう少しあの人と一緒の人生を歩んで行きたいんです。私の人生の傍にあの人に居てもらいたいんです」

  「9年前から覚悟を決め、生涯 妻と呼ばれる事のない人生を選びました。そしてその代りにあの人の傍に居れる人生のはずだったんです。せめてもう少しは・・・」
  「だから、せめてあの人の骨を持たせてください」
  「奥様にもお嬢様にもお会いできる身ではありませんから。どうか島田さんからお願いしてください」

 島田は口を噤み、少し尖がらせて左右に動かしながら考えた。
 考えたと言うより、心の中で杉下に話した。

  「どうするよ杉下。金じゃなく、お前の骨が欲しいってよ」
  「お前と智美ちゃんの関係がここまでだとは思ってなかったよ」
  「そりゃ、お前・・早死にするよ。こんないい人生を送ってたんだから」

 どうするべきか、どうしてやるべきか返答にこまっている島田にどこからか声がした。

  「頼むよ」

 杉下も智美と一緒に居たいらしい。

  「わかった。なんとかする」

 島田は目の前に居る智美と、智美を見守っているであろう杉下に返事をした。

 本当のことを話せば、杉下の妻だけではなく自分の妻にまで話が回り厄介なことになるだろう。
 針の筵に座らされ、潔白の身の自分までもが疑われるだろう。
 それでも杉下と智美のために、杉下の骨を智美に持たせてやろう。

 智美に約束し、「ロン」を後にした島田は杉下の家へと向かう。
 親友のために、本当に最後してやれることが見つかった。

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2007年03月01日


 女は更年期を迎えた頃から、その泉に潤いを無くしていく。
 愛や官能では対処できない衰え。
 受け入れたいのに、体は受け入れを拒む。

  性交痛



 私の腿を両の手のひらで押さえつけながら、安田はその場に顔を埋める。
 クリトリスを舐めながら、指を一本私の中に入れ出し入れをする。

  「だ、だめよ。そんなにしたらイってしまう」

 私はただシーツを握り締め、体をくねらせる。

  クチャペチャ

 と音を立てて、安田は私の中から湧き出る泉に吸いつく。
 私の両足が脱力しシーツを握る手に力が弱まった頃、安田はゆっくりと私の顔にその顔を近づけ

  「こんなにベチャベチャになって」

 私は指で安田の顔についたものを拭き取りながら

  愛液というのはこんなにも沢山湧き出るものか

 と自分の体が恥ずかしくなる。
 無論シーツには染みがつき、両腿はヌルヌルとしている。

 クンニの時だけではない。
 いきなり安田が挿入してきても、すぐに潤う。

 安田はホテルに入るなり窓辺に私を立たせ、無理矢理パンティの脇からペニスを押しこむ。
 入りにくいかと思えるその場所は、安田が二回腰を動かす頃には十分な潤いになっている。

 自分の体が異常だとは思わない。
 むしろ女である以上、愛した男を受け入れられる体であることが嬉しかった。

 安田はセックスの途中で、濡れる私の体をこう言った。

  「嬉しいよ、こんなに濡れてくれて」
  「私をいつも受け入れてくれる直美のここが好きだよ」

 私はいつも安田を受け入れ、安田を悦ばせる女でありたかった。

 安田との関係は5年。
 私は43歳を迎えていた。
 年齢を感じないかといえば嘘になるが、38歳の私と43歳の私にさほど違いはなかった。
 少し違うのは、最近濡れにくくなったくらい。

 十分な愛撫をされているのに、安田のペニスが入ると痛みが走る。
 でも二度三度安田がピストン運動をすれば、すぐに前のように潤いはやってくる。
 気にするほどではないと思っていた。

 しかし。
 潤うまでの時間がだんだんと長くなってくる。
 勿論その間、痛みを伴う。
 遠い昔処女を無くした時の痛みとはまた違う、やけどのようなヒリヒリ感。

 それは段々と痛みを増し、安田が果てるまで続く。
 愛しているのに、
 欲しいと欲情しているのに、
 安田のペニスが入ると私の秘所の中は

  ヒリヒリ

 と摩擦の痛みだけが走る。

 安田は私の体の変化に気がついて居ない様だ。
 気がついてくれれば、労わってくれるだろうに。

 自分からは言えない

  「私、濡れなくなったみたい」

 その一言が。
 その一言を言う事が、
 自分の女としての価値を下げる様で・・

 安田は、濡れる私の体を悦んでくれた。
 安田は、滴る私の愛液を密を吸う様に味わってくれた。



 私は官能ではなく、痛みに耐える為にシーツを握り締め息を殺すようになった。

 痛みは安田を受け入れた時だけではなく、安田の体が離れた後も続く。
 ヒリヒリと熱く痛む。
 熱い鉄の針で秘所の中を掻き裂かれるような痛み。

 そんな夜が何度も続いた。
 週に一度拷問を受けているように思え 安田の事を疎ましく思えたあの夜。

 いつもの様に安田は指で私の体のその場所を探した。
 ペニスより小さい指が入っても、潤う事はなく痛みだけが感じられる。
 安田は何も気づかずペニスを押し当てる。

 引き裂くような痛み、この後に続くあの苦痛。
 そう予測すると私は安田の体を押しのけていた。

  「嫌」

 ベットから転げ落ちた安田が訳もわからず私を見ている。

  「ごめんなさい。痛いの、ここのところずっと」
  「あなたを受け入れたいのに、痛くて痛くて・・・」

 うつむき、安田に謝る。
 私は悪いことをした訳ではないのに。
 ただ体が変わってしまったのに。
 何だか自分が罪深いことしてしまったように頭を下げた。
 
 安田は離れたまま言う。

  「直美、更年期だよ」
  「女はね、更年期を迎えると濡れなくなるんだ。そして痛みが走るようになる」
  「他にも思い当たる事はない?」

 私は考える。
 生理の周期がこの頃遅かった。
 やけに暑いと汗をかいていた。
 苛立つことも多かった。

 でも私にはまだ早いものだと思っていた。
 安田と言うパートナーの居る私には、まだまだ先のように思えていた。

  「別れよう」

 私が頭の中で自分の体調を思い出している、と安田から思いも寄らない言葉が掛けられた。

  「私の妻もそうだったんだ。直美より彼女は10歳も上だろ」
  「ちょうど直美と知り合った頃だった、妻が私を受け入れられなくなったのは」
  「セックスをする度に苦痛な顔をされることに私は耐えられなかった」
  「それでも私は妻を愛したかった。けど妻は受け入れてくれなかった」
  「直美はまだ多少濡れるだろう。妻は全く濡れないんだ。男として辛くてね」

  「嬉しかったよ。自分の愛撫でこんなに悦んでくれる女が居るんだって、男としての何よりの自信だった」
  「直美の愛液を全て飲み尽くしたいくらいに嬉しかった」
  「でも直美ももうそういう年齢になってしまったんだ、別れよう」

 安田の言ってる意味が理解できなかった。
 安田が私と関係を持ったのはただ奥さんが濡れなくなったから。
 安田が私を愛したのは私という人間にではなく、自分を受け入れる女であったから。
 錯乱する頭の中で、私は安田に問い掛けた。

  「あなたは私と別れてまた別の人を探すの?」

  「できるかどうかは判らないけど、幸いにも55歳の私は男としてまだ更年期ではない様だからね」
  「起たなくなったら、大人しく妻と暮らすよ」

 安田は潤いを失った妻の変わりに私を選んだだけだった。
 自分を受け入れる女であれば誰でもよかった。
 苦痛に耐える妻の顔も、私の顔もどうでもよかった。
 自分が男であることを満たせれば。
 女が自分の支配を悦んで潤うのであれば。

 枯れた泉は安田にとっては無意味な存在。

 私の体中の血が首から上へ集められる。
 黒い靴下を履く安田の背中がこの世の中の全ての憎悪に思えた。

 昇った血の気がさっと降りた瞬間、私は安田の後頭部に灰皿を振り落としていた。
 倒れこんだ安田の頭からは真っ赤な血が流れる。
 その血は私の足元に流れつき、私の指に絡みつく。

 安田が私の体から吸い取った愛液が色を変え、私の元に戻ってくるかのように。
 安田の血が私の体を包み込んで行く。
 私の女であった証が私を包み

  「もういいよ。もういいんだよ」

 と、自分が女であることを知る前の清らかな体に戻して行く。


 半年後、私は獄中から安田の妻に手紙を書いた。
 騒がせた事は詫びたが、安田を手をかけた事は詫びなかった。

  「帰ってこられても迷惑だっと思い、手に掛けました」
  「さぞかし苦痛だったでしょうね。これからは心穏やかにお過ごし下さい」



 愛しても、
 愛されたくても。
 体が応えれない時が男にも女にもきっとやってきます。

 その時あなたは、
 その時あなたのパートナーは
 どんな選択をしますか?

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2007年01月26日

留まり恋


 あの日から、5年の月日が過ぎていた。

 部長から依頼の仕事で、あの白い建物の近くを通る。
 3階の南端。
 薄い黄色のカーテンが閉じたままの部屋の窓。

 本社から去年やってきた新しい部長は、あの人のことを知らない。
 会社の工場があるあの街を、私達社員は月に何度も訪れる。
 しかし社員達は私に用を託ける事はなかった。


 暑い夏の日に、あの人は東京本社から転勤してきた。
 季節外れの人事移動。

 あの人は水色のハンカチで汗を拭いながら、体育会系のはつらつとした挨拶をした。
 歓迎会が催され、酒の好きの課の連中とあの人はすぐに打ち解ける。
 学生のように「イッキ」とばかりにピッチャーでビールを煽るあの人。
 みんな酔っ払い。

 下戸の私が素面であの人を送って行く。
 タクシーの中であの人は私の肩にもたれ眠る。
 かなり酒臭いのに、その肩が私は嫌ではなかった。
 そんな自分が照れくさい私は、あの人の寝顔を見ないように前を向いたままタクシーに乗っていた。

 あの人の家に着く。
 事務的に「お疲れ様です」と挨拶をし、タクシーのドアを閉めてもらう。

  子どもっぽい人

 私のあの人への印象。
 短い髪に汗を掻き、いつも水色のハンカチで汗を拭う。
 男と女の関係になっても、その印象は変わらない。
 あの人に「不倫」なんて言葉は似合わない。

  日向の匂いのする恋

 しか似合わないような、純粋な男。
 そんなあの人だから、悩んだに違いない。

  上手く誤魔化す

 とか

  要領よく逃げる

 ことのできないあの人。
 どんどん苦しんで行くのが判った。

  何も望んでいない

 そんなことを言えば嘘になる。
 でもこんな事になるくらいなら、あのままでよかった。

 あの人のハンカチのアイロンがかからなくなったのは、半年経ってからだった。
 その頃のあの人の口癖は

  「ごめんよ、きちんとするから」

 そう言って、何度も頭を下げるあの人が愛しかった。

 私はそんなに急いではなかったのに。
 あの人の少年のような澄んだ心が、家庭と私との狭間で苦しんでいる。
 私は待つふりをしていた。

 いつもアイロンされていたハンカチはシワシワになり、そのうちあの人はハンカチを持たなくなった。
 ある日

  「やっと納得してくれたよ」

 あの人は嬉しそうに私に言う。
 あの夏の朝礼の日から一年。
 青年のようなあの人の顔には深い皺ができて、歳相応以上になってしまった。

 あの日、私は初めて自分の気持ちに気がついた。
 本当は望んでいた。

 あの人が正真正銘、私のものになってくれることを。

 私があの人と同じ姓を名乗ることを。

 私がいつかあの人の子どもを産むことを。

 あの人の嬉しそうな顔を見ると、涙があふれ出てくる。
 今まで何かを我慢しているつもりなんかなかったのに。
 あの人が嬉しいと、私まで嬉しかった。

  「月末には提出するから。もう少しだね」

 離婚話を進めているあの人からのメール。
 あと10日。
 そう思うと社内でどんな噂が立っても、私の中に「寿退社」の文字が浮かび上がる。


 昼休みが終ってデスクにつく。
 数分もせずに、電話が鳴る。

  「曽根崎警察ですが、そちらに・・・・・・」

 あとの言葉は覚えていない。
 呆然と受話器を落した私の代わりに、隣の男性社員が受話器を取る。
 部長があわただしく何処かに電話をしている。
 電話を終えた部長が私に近づき

  「今から向かうけど、一緒に行けるか?」

 と聞かれる。
 私の次の記憶は、あの白い建物の中。

 当時の部長は全てを知っていた。
 離婚後すぐに私との再婚を考えていたあの人は、部長にだけは相談をしていた。
 だから部長はあの人の容態を聞き、私を連れて来たのだろう。
 それでも医師には

  「ご家族の方だけ面会を」

 とだけ告げられ、私はICUと書かれた扉の前までしか入れてはもらえなかった。
 部長が「あの人の妻」と医師に容態を聞いてくれている。

 私は廊下の長い椅子に腰掛け、夢か現実か判らずにただ怖くて振えていた。
 本当は何が怖いのか判らなかった。
 あの人の容態もわかなければ、これからどうなるのかも判らなかった。
 ただ、
 ただ冷たい空気の廊下に一人座って待つことが怖かった。

 どれくらい待っていたのだろう。
 重い扉が電動で開けられ、部長が出てくる。
 私は部長の顔を見上げる。
 後から女の人が一人出てきたことも気がつかずに。

 部長はただ首を横に振り、あの人の事故の様子を語った。

 それから一ヶ月。
 あの人がICUに居る間、私はこの廊下で待つ日々が続いた。
 電動の思い扉が開く度、中の様子を見ようと首を伸ばすけれど白い機械しか見えない。

 本当にあの人はこの部屋に居るのだろうか。

  もしかして、みんなであの人を隠しているのかもしれない。
  もしかして、あの人は私が嫌になって逃げてしまったのかもしれない。

 そう思えて来た。
 いや、その方が幸せだったから。
 そう思いたかった。

 あの人にもう一度会えた時、私は「もしかして」の方が幸せだったと本当に思った。


 ICUから一般の個室にあの人が移り、部長の計らいで私はあの人にもう一度会える事になった。
 今度は電動ではない扉を開けると、白い部屋の真ん中であの人は眠っていた。

 頭に白い包帯を巻いて。
 寝相の悪いあの人が、きちんとまっすぐに眠っている。

 鼻と口を呼吸器で覆われ、左手には点滴、右手には脈とか心拍数を計る機会が繋がっている。
 少し青白いけど、あの人はあの人のまま。

 もっと血が滲んだ包帯をしているとか、傷がたくさん残っているとか、包帯で顔が見えないのかと思っていたけど。
 そのまま私の名前を呼び、その日焼けした腕で私を引き寄せてくれそうな様子で眠っている。

 こんな元気そうな人が、植物状態。

 冷静に思った。
 この顔のまま、この体のまま。
 ずっとずっと眠りつづけるんだ、あの人は。

 あの人の自己以来、初めて涙がこぼれた。
 いくら重体だと聞いても、いくら意識不明だと聞いても。
 あの人の顔を見るまでは、実感がわかなかった。
 今、私の前にいるあの人。
 本当に人形の様に静かに眠っている。


 運転中の事故。
 前の晩も遅くまで離婚の話し合いをしていたのだろう。
 居眠りをしたあの人の車は、信号機の柱にぶつかった。
 車も信号機も大した損傷はないのに、あの人だけ頭を打ってずっと眠っている。

 これからどれくらい眠るのか判らないらしい。
 もしかするとずっとずっと眠って、あの人には「事故死」が一生訪れないのかもしれない。

 私がおばあちゃんになってお墓に入ってから、目を覚ますかもしれない。
 目を覚ましたら、私を一番に探してくれるかもしれない。

 悲しい想像と、嬉しい想像が頭の中をぐちゃぐちゃにマーブル状態にしている。
 私は涙を流す事さえ忘れて、あの人の顔を見つめる。

 1時間、2時間、3時間、どれくらいかわからない。
 白い部屋が夕日で紅く染まり、あの人の顔も赤く染まる。
 あの人が正気が戻った様に見えた。

 このままあの人を連れて帰ろう。
 私は心拍計のクリップを外す。
 あの人が生きていることを表す機械が「ピー―ィ」となり響く。

 慌てた看護師と部長が部屋に入って来る。
 看護師は私を押しのけ、またあの人に訳のわからない鎖のような計器を繋げている。

  「止めて、返して」
  「返して、帰るんだから」

 私は叫んでいた。
 何度も何度も叫んでいた。
 部長に抱えられ部屋を出て、廊下の長い椅子に座らせられてもまだ叫んでいた。

  「返して」

 肩を抑えられて動けずに涙だけを流す私が落ち着くの待ち、部長が言った。

  「意識はもう戻らないんだよ。あいつが生きているのはあの沢山の機械のおかげなんだ」
  「それでね、おいつの奥さんが・・」

 部長は躊躇いながら、私ではなく白い廊下の隅を見て続ける

  「奥さんがね、もう君には来て欲しくない。と」
  「まだ離婚は成立していないし、こうなったら離婚することもないって」
  「あいつ記入された離婚届を持っていたんだ。だけど奥さんは提出しないって」
  「もともと奥さんにしてみれば不本意な離婚だったし、これからの生活もあるしね」
  「君には酷な言い方だけど、慰謝料を貰う代わりに・・・ほら保険やなんだかんだあるだろ」

  「女って本当に怖いよな。バツイチより未亡人の方が世間体が・・・」

 言いかけて、部長もさすがに言うのを止めた。

 あの人はまだ生きているのに。
 意識が今はないだけなのに。
 たった一ヶ月意識が戻らなかっただけなのに。
 もう一生戻らないってみんな決めつけるんだ。

 未亡人って何?
 奥さんは妻のままで、もしこのままあの人が・・・
 そしたら未亡人になるわけ?

 私は?
 愛人も辞めなければならないの。


 それから何度もあの人の部屋の前まで行ったけど

  「ご家族の方以外は面会できません」

 その言葉しか私には掛けられなかった。
 これ以上来たら警察に訴えるとあの人の奥さんに言われ、部長には会社の面目もあるからと止められた。


 あれから5年。

 私はまだあの人の愛人のままでいる。

 あの人の奥さんがあの人の妻であるのと同じように。

 あの人が拒まないのなら、私はずっとこのままあの人の愛人として生涯を終えるのだろう。

 今となっては判らなくなってきた。

 あの人を亡くしてこの恋を終えるのがいいのか、
 このまま愛人として居れるほうが幸せなのか。

 あの人はもう答えてくれないし。


 新しい部長があの街の工場の名を私に告げた時、みんなの手が一瞬止まった。
 それでもみんな、もう私が忘れたと思ってまたすぐに手を動かす。

 私とあの人だけ、時間が止まっている。

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2006年12月25日

しっぽ


ダブルベットでうつ伏せになり、頬を伝う涙を堪えていた。

 泣いてはいけない。
 泣いても、何も届かない。

 涙を拭くことさえアキラに悟られない様に。
 ただただ声を殺し、振える体をベットにうつ伏せる。
 唇だけが固く固く結ばれている。

  「旦那への罪悪感ですか?」

 冷静に、そして面倒くさそうにアキラが言う。

 いくら堪えても、この腹立たしさは抑えることができない。
 隠しきれない感情が私の体から放たれていたのだろう。

  罪悪感

 アキラとは「出会い系」と呼ばれるサイトで知り合った。
 知り合ったと言っても、交わしたメールは10通にも満たない。
 人生の終着が見えるような日々の暮らし。
 私は何かを求めていた。

  非日常

 私とアキラはすぐに会うことにした。
 会うこと=セックスすること。
 それが約束された出会い。
 会うことに勇気が要らなかったかと言えば嘘になる。

  見ず知らずの男

 犯罪者かも、異常性癖者かもしれない。
 それでも私は会わずにいられなかった。

 そしてそれは、私の想像を越えた酷いものだった。

 アキラは私に「快楽」を教えた。
 たった数時間のうちに、私の体の中で封印されていた快楽を解き放った。
 そして絶対に解いてはならない、もう一つのものも解き放った。

  私はアキラアキラに恋をした

 この薄情で、何時も冷静で、自己中心的な心しか持たない男に。

 それが私の不幸の始まり。
 アキラとの密会の後、私はすぐに連絡をとった。
 決して自分の心を悟られまい。

 会いたい理由は、体が合うから。

 いつもそれを自分に言い聞かせ、メールをし、留守番電話に伝言を入れる。

 月に一、二度。
 アキラの気が向くと返事が来て、数日後に会う。
 それが四ヶ月続いた。

 体がどんどんアキラにのめり込む。
 アキラの声、アキラの体を思い出し自慰することもあった。
 それほどまでにアキラが忘れられない、恋。

 五ヶ月目。
 アキラからの返信は来なくなった。

・・・・

  「この前約束した旅行ですけどキャンセルします」

 約束などいうものがアキラには存在しない事は百も承知だった。
 それでも幾度となく体を交わしたアキラに、私という存在があると信じたかった。

 キャンセルはしたくなかった。
 しかしアキラを責めるような言葉は使いたくなかった。
 あくまでもドライな遊び相手を装いたかった。

 旅行の三日前、最後のメールを送った。
 開封通知は確かにアキラがメールに目を通した事と、アキラがそれを無視した事を私に教えてくれた。

  飽きられた

 自分に言い聞かせた。
 忙しいから返信がない、などと自分に無駄な期待を持たせてはいけない。
 恋をしてしまった私は、無駄な期待をすればするほど傷つく。

 有り難いことにアキラとの四ヶ月は、私を主婦から女に戻してくれていた。

  夫に期待する、
  子どもに期待する、
  世間に期待する、
  恋に焦がれる

 だけの主婦から

  自分で生きていく、
  恋に終りはある、
  裏切りもある

 二十代の頃の私を取り戻してくれていた。

 私は開封通知を削除し、新たなサイトへ登録した。


 女友達の直美に言われた。

  「あんたはアキラに恋してるんじゃない」
  「雛が目を開けたとき一番最初に見たものを親と思う様に、主婦になって始めて浮気した男を恋だと勘違いしてるだけ」
  「他の男を見たら忘れられる」

 直美らしい考え。
 大恋愛の末に結婚し、旦那のたった一度の過ちを許せず離婚。
 水商売で浮世名を流す直美は

  いつも大恋愛で
  いつもあっけなく終り
  いつも新しい恋が待ち構えている

 パソコンの画面の「登録する」ボタンを押しながら

  新たなアキラの出現への微かな期待

 と

  アキラを忘れられない不安

 が交差した。

 時が解決する。
 主婦の私には無駄に時間だけが流れている。
 今日の次に必ず明日が来る。
 同じ色をした明日。
 カレンダーを見返しても、昨日も今日も明日も区別がつかないような時間。
 そんな時間が流れる、アキラが薄れて行く。

 それを信じる事だけがアキラを忘れる術と悟るしかなかった。

 ・・・・

 沢山の男と寝た。
 何人かなんて、思い出せない。

 数の問題ではなく、感情の問題。

 愛も恋も情も湧かない男たち。

 どんどん自分がすさんでいく。
 必死に新しいアキラを探していた。


 候補者は二人。
 アキラのようにドライな和也。
 アキラと全く違うタイプの幸彦。

 そして、幸彦との擬似恋愛を選んだ。
 普通の不倫をしてみよう。

 そんなやさきに、幸彦は妻に疑われ始めた。

 折角、アキラを忘れる準備を始めたのに。
 心のベクトルを無理矢理押し向けているのに。
 心に無理な力をかければかけるほど、戸惑い無くアキラを愛してしまった自分が不思議に思えた。

 それでもアキラを忘れるためには、幸彦を手元に置いておかなければ。
 身勝手な話だ。

 妻は必要として幸彦を留めたい、私は必要でもないのに幸彦を留めようとしている。


 幸彦との電話を切った後、パソコンに1通のメールが届いた。
 12月の始め頃。

 嵐の後。
 やっと水が引き始めた私の中に、またあの男は洪水を起こす。
 アキラと言う洪水が、私の全てを飲みこもうとする。

 それでも。
 そうと解っていても、私はそのメールを削除する事はできない。

 開封のボタンを押す。

 アキラのアドレスは着信拒否できなかった。
 三ヶ月間の私の未練がそこにあった。

  「お久しぶりです。殺人的に忙しくて」
  「もう少ししたらお相手願います」

 この男は何人の女にこのメールを送っているのだろう。
 そして何人の女がこのメールに引っかかって、アキラに会いに行くのだろう。

 馬鹿げている。

 そう思いながらも返信の文章を打つ。

 心と頭のギャップ。

 違う。
 今度は無くすことを覚悟で会いに行く。
 もう都合のいい私を装う事はない。

 恨み辛みを言うつもりは無いが、どうせ終る恋なら・・
 感情も愛情も存在しない、冷たい湖の底のようなアキラの心に石を投げてみよう。

 もしかすると湖は凍っていて、石は水面を揺るがすことなく跳ね返されるかもしれない。

 それでもアキラの氷のような心に小さなヒビが入り、私という小さな石が底まで届くかも・・

 そんなことは有り得ない。
 理想であり妄想であると知りながら、会いたいという意向をメールに書く。
 三ヶ月ぶりにアキラへの送信ボタンを押す。

・・・・

 送信ボタンを押してからニ週間後。
 私はホテルのダブルベットで、うつ伏せに横たわっている。

 二週間の間に交わしたメールは四通。
 私が了承したメール。
 アキラが都合を書いたメール。
 私が了承したメール。

 それで終り。

 そんななんの情も親愛もないメールのやり取りだけで、私はベットの上にいる。

 体がやたらと重かった。
 三ヶ月の間に私を跨いだ男達の、全ての体重が圧し掛かっている様に。
 そしてその重みが、体中の水分を瞳という蛇口から搾り出している。

 止めようとしても、止められない。
 溢れる水分の勢いは、体をしゃくりあげる。

  「旦那への罪悪感ですか?」

 面倒そうに聞くアキラ。
 もしそれがそうであっても、アキラ自身にはなんの罪悪感もないくせに。

  「そんなもの、あるわけがない」

 だったら何を泣くことがある。
 そう言いたげなアキラの呼吸が背中から伝わる。

 私は大きく息を吸い、そして深く吐く。
 覚悟を決めるために。

 失う覚悟で賭けてみる。
 アキラが持ち合わせていない「感情」をぶつける。
 夫の為に泣く女より、更に面倒な女かもしれない。

 どうせ三ヶ月前に終った恋。
 戻りかけたのではなく、もう終っている恋。

  「連絡の来ない間、ずっと待っていた」

  「住所も本当の名前も知らない。探しようがないアキラからの連絡をずっと待っていた」

  「辛くて、アキラを忘れようと色んな男と・・・」

  「アキラが好きなんじゃない。ただアキラのセックスの肌に合ったから・・・そう言い聞かせて色んな男と寝た」

  「やっと、やっと忘れかけようとした時に連絡があって、腹が立って」

  「腹が立って、腹が立つのに・・・・・・」

  「またこうやって、しっぽを振って誘いにのって会いに来る自分が情けないだけ」

  「あんなに辛かったのに」

  「バカみたいにしっぽを振って会いに来て・・情けない女って」

 一気に言う。

 こう言う時、ドラマならば男は抱きしめてくれるだろう。
 女は男にしがみつくだろう。

 私はベットにしがみつきながら、最後の涙を流す。
 静まりかえる部屋。

 終った。

 アキラの一番嫌う感情をぶつけてしまった。

  「私がどういう男に抱かれたか、教えてあげようか」

 もうおどけるしかなかった。

  「聞く?」

  顔をあげ、涙でくしゃくしゃになった顔でアキラをみて笑う。
  全てを告白した自分がピエロに思えて、自分を笑う。

 アキラは首を左から右に大きく振り、振り子のように数回首を揺らす。

 揺れるアキラの首にしがみつく。
 もう一度、今度は堪えず

  「好きなの、自分が情けないのにそれでも好きなの。それでもいいからアキラに会いたかった」

 何度も何度も繰り返し。

 アキラは黙って私が訴えるのを聞く。
 私が言い疲れるのを待って、頭を一度撫でる。

 まだアキラの心に感情はないだろう。
 でも私は賭けには勝った。
 この件で捨てられる事はない。

 そしてアキラが打つ何通もの同じ言葉のメールに、少し色がつく。
 それが私へのメール。

 氷河にティースプーン一杯の熱いお湯をかけた。
 その程度のことだろう。

 それでもいい。
 私は何度も何度もしっぽをふり会いに来る。
 そしてティースプーン一杯のお湯で、アキラの心を溶かしてみよう。

 その日から、私のアキラへの長い思いは始まった。
 もしかしてそれは愛ではなく憎しみかもしれない。

 いずれにせよ
 いつも泣きながらも、しっぽを振って会いに行く
 私の長い恋が始まってしまった。

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2006年09月02日

巡り


 マサルを見た瞬間、懐かしい気がした。
 誰かに似ている気がした。

 火曜日と木曜日は楽しみになった。
 マサルが家庭教師にやってくる。
 来るとマサルは、すぐに二階の息子の部屋に上がってしまう。

 疎んじる息子を尻目に部屋を覗く。

 私の心は、遣り残した何かを思い出そうとする。



 僕は京子さんを他の人のように、「お母さん」とは呼びたくなかった。
 苗字で呼ぶのも、違うような気がした。
 ずっと前から知りたかった名前のような気がした。

 京子さんの傍を通る度に、名前を呼びたい衝動に駆られる。
 立場を弁える自分。

 でも、また取返しのつかない後悔をしそうで歯がゆかった。



 今日はマサルが来ない日。
 臨海学校で息子は居ない。

 デパートで水色のタオルハンカチを見つけた瞬間。
 私の頭に何か光る映像が見えた。

 このハンカチをマサルに渡そう。
 今日、必ずマサルはやってくる。

 私は急いで家に帰る。
 汗ばんだ体をシャワーで流し、お気に入りのちょうちん袖のブラウスを着た。



 僕はわかっていた。

 今日は休みだと。
 だからこそ、今日行けば二人っきりになれると。

 今日こそ名前を呼ぼう。

 玄関先で固く扉を閉ざされても、後悔はしない。
 職を一つ無くすのは、心の重く残る訳のわからない自責の念よりは軽い気がした。



 私はチャイムの音がマサルだとすぐにわかった。

 インターホン越しに、「今日は休みのはず」だとは応えなかった。
 二人っきりになる為に部屋に入って欲しかった。
 折角だから、と冷たい飲み物とケーキを出しマサルを引き止める。

 夏の蒸し暑い夕暮れを歩いてきたマサルは、吹き出るほどの汗をかいていた。
 私は水色のタオルハンカチを差し出す。



 僕はチャイムを押した。

 長くつっかえていた物とれ、自分の勇気を称えた。

 京子さんのふわりとした袖口のブラウス姿。
 とても懐かしく切なく思えた。

 白い腕が伸び、水色のタオルハンカチを差し出された時

  「これは僕のものだ」

 そう思えて、遠慮なく首筋の汗を拭った。



 遠くで雷の音がしている。
 どおりで蒸し暑いはずだ。
 段々と光と音が近づいてくる。

 私たちは他愛もない話しをしていた。
 家庭教師と生徒の母親。
 でも息子の話しは一切しなかった。

 テーブルの角を挟んでくの字に座る私とマサル。
 近い様で適度な距離が保たれている。

 掃き出し窓が明るく光る。
 次の瞬間、大きな落雷の音。

 私は二十歳の娘の様に

  「キャッ」

 とマサルにしがみついた。


 僕は京子さんの肩を抱く。

  「大丈夫ですよ、京子さん」

 そう言って手を握り締める。


 二人の中の遠い遠い記憶が同時に開かれる。

  「私、恋をしてたんです。 きっとあなたに」

 マサルは私の目を見つめてくれる。

  「僕はずっと京子さんに想いを告げたかった」

 京子さんは僕に寄り添ってくれた。


 自分たちにしかない、二人の記憶。
 それが言葉になる。

 どんなに名前を知りたかったか
 どんなに声を聞きたかったか

 そして

 どんなにこの寄り添える時を待ち望んでいたか

 二人は何度も、互いを探す旅を生きてきた。
 名も知れずに引き裂かれた初恋を叶えようと。


 語り終えた時、雷はおさまり雨も止んでいた。
 二人は寄り添い、肩を抱き合ったまま。

 見つめ合い、始めて口づけを交わす。
 生涯と言うなら、今まで生きた全ての生涯で始めての口づけ。

 唇が触れたままの二人には俗世界の音は何も聞こえない。
 二人の時空を駆ける。


 玄関の扉の開く音
 靴を脱ぐ音
 廊下を汗で湿った靴下で歩く音

 聞こえなかった。

 リビングの扉が開けられた時、二人は自分たちが今生きている世界に引き戻された。

 家庭教師と生徒の母。
 22歳のマサルと48歳の京子。

 人は狂喜の恋と言うだろう。
 やっと巡り会えたのに。
 巡り会うための時間が、少しずれてしまっただけなのに。



 前世の私は恋をしていました
 あなたも前世できっと誰かを愛していたはず
 その人にもう一度
 もう一度巡り会いたいですね        京子




 その時 私は恋をしていた


  毎日その人の姿を見ている

  窓から差すギラギラとした日差し
  今が夏だということを教えてくれる

  あの人は白いシャツの襟元をタオルハンカチで拭う
  茶色い鞄を脇に抱え歩く

  同じ位の歳だろうと思っていた
  私の知らない普通の二十歳の人生
  彼はそんな人生を生きているんだろう

  あの人を見ることが私の空想の世界の入り口



 あの頃 僕は惹かれていた


  殺伐とした日常

  涼しげに窓の外を眺める彼女
  ちょうちん袖から覗く眩しい白く細い腕

  声を掛けたら壊れてしまいそうな繊細な彼女

  僕を見ているような気がした
  それは僕の錯覚だろう



 私は恋だと気付いた この心を伝えたいと思った


  もう時間がない
  伝えたからと言って何かが始まるわけもない
  私の空想の世界までも失うかもしれない

  怖かった
  死ぬより拒まれる事が怖かった

  でも何かを残したままでは終りたくない
  お母さんに水色のタオルハンカチを買ってきてもらった

  明日
  窓を開けて声を掛けようと決めた



 僕など相手にされないだろう 自分が歯がゆかった


  心のうちを明かした翌日
  カーテンが閉められていたら

  男の癖に勇気がない自分を恨めしく思う

  彼女がいつまでそこに居るのか解らない
  急がなければと思うのに最初の一言が浮かばない

  彼女の窓の前を通ると暑さ以上の汗が吹き出る

  焦る毎日
  想う毎日

  明日
  勇気を出して挨拶をしてみよう



 次の日 私はもう居なかった


  あの人の来る時間まで待つ事が出来なかった

  カーテンの閉められた部屋
  私の居なくなった病室

  お母さん達が泣いている

  役目も解らず捨てられた水色のタオルハンカチ



 カーテンが閉まっていた 僕は何度も部屋の前を行き来した


  彼女は退院してしまったのだろうか

  カーテンの隙間
  年上の女の人が泣いてるのが見えた

  僕は自分の不甲斐なさが恨めしかった

  名前も知らない
  話した事もない
  初恋



 そして僕は大人になった

  結婚をし
  家族を持ち
  人生の幕を閉じた

  彼女より半世紀遅れて


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2006年08月14日

還す日

 10分前には、むせ返るような暑さの駅のホーム。
 そこからやっと開放され、クーラーの利いた車内に腰掛けている。

 通路側に座る三田は、小さく鼾をかきながら寝ている。
 こんな短時間で鼾をかきながら寝てしまう三田を見て、沙織は三田の年齢を痛感した。

 あと一時間。
 新大阪駅に着けば、三田と沙織の18年の関係が終わる。

 長いようでいて、短い時間だった。
 「結婚」という形には拘らなかった沙織だが、その分この関係が永遠に続くとさえ思えた。

 沙織は白髪と皺の増えた三田の寝顔を、愛しく見つめる。

  「こんな皺皺のおじいさんを愛せるのは、私くらいだろう」

 そう本心から思えた。


 出会った頃。
 45歳の三田は颯爽としていた。
 小さなアパレル会社を興し、必死に事業拡大を計る。

 沙織は短大を卒業して大手百貨店に勤め、結婚後も仕事を続けた。
 三田と知り合った時はチーフマネージャとして、一つのフロアを任されて日々翻弄していた頃。

 血気盛んなやり手の社長と、取引先の仕事熱心な女性従業員が程なく情交を交わすのに説明も時間も要らなかった。

 あれから18年。

 あの頃は小学校に上がったばかりの三田の娘は去年、
 親の反対を押しきって結婚をし25歳で小さな息子を連れて出戻ってきた。

 家庭のことは何も話さない、何も見返らない三田。
 その三田が唯一、娘の事になると厳しい目を細め皺を寄せて笑い、そして烈火の如く怒る。
 その姿に沙織は他の誰にも覚えない「嫉妬」を感じた。

 沙織も当時は結婚をしていた。
 学生時代から付き合いのあった男と7年の生活。
 子供が居なかったのは幸いだが、結婚当初からすれ違いの夫婦は子供を作る行為さへ数えるほど。

  「女ができて、子供もできた」

 と夫に告白された時、沙織はただ

  「仕方ないよね」

 としか言えなかった。

 三田の存在があったからではない。
 主婦らしい事もせず、
 妻としての夜の勤めも果たさない沙織に、
 男として当然の欲求を外に向けた夫を責めることはできなかった。


 三田と沙織の関係は、月に一度か二度程度。
 濃く深い関係とは言えないのかもしれない。
 久しぶりに会えば、互いに近況を話し、互いの趣味であるゴルフの話しを交わし、ホテルに行く。

 学生時代から柔道をしていた三田は年齢の割には恰幅がいい。
 その腕の中では沙織は甘える事も拗ねる事も、そして時折ヒステリックになる事もできた。

 三田に愛情があるのか、
 体だけの関係で他にも女が居るのか?
 この18年間、沙織は何度も疑った。
 それでも、時折入る出張の度に許せる限りを同行させてくれる三田を、沙織は信じるしかなかった。

 そんな関係が18年。

 気がつけば時間が経っていた。
 このままずっと続く関係だと思っていた。

 三田がおじいちゃんと呼ばれ様が、
 沙織の体に弛みと衰えが見え様が、
 18年続いた男と愛人の関係には終わりがない、と思っていた。

 半月前のいつもの情交の後、三田が頭を下げるまでは。


 その日、三田はいつもと変わらなかった。
 63歳になった三田は多少体力が落ちたとはいえ、
 沙織を官能に導くだけの十分の体力を備えている。

 いつもの様に沙織の乳房を何度も何度も愛撫し、
 ゆっくりと沙織の体との繋がりと味わっていた。

 三田は男女の絡みを

  「バーボンのロックを飲むようなもの」

 と言う。

 きついバーボンを氷に溶かしながら
 香を楽しみ、
 舌で味わい、
 そして最後に喉から胃に流れる熱い液体に人は酔う。

 63歳になった三田には荒々しさが消え、さらに沙織の体を味わう風な愛し方をした。

 酒にタバコが合う様に、沙織を愛した三田はタバコに火をつける。

 深く一服吸うと、一気にしゃべりだした。

  「すまない,沙織。 終わりにしてくれ。 家内の奴が病気なんだ」

  「ずっと体調が悪いと言ってたのは知っていたが、更年期障害だとほおっておいたんだ」

  「それが娘の離婚や孫の世話でどんどん体調を崩して、先週病院に連れて行ったら子宮ガンだった」

  「幸い他に転移していないようだけど、子宮を全部摘出することになる」

  「あいつは今までお前とのことをずっと知っていた。それでも黙って我慢してくれていたんだ」

  「でも病院を出た後、泣きながら

   『今ままで私はあなたにとって妻であっても女ではなかった』

   『でも子宮を取ってしまったらもう本当に女ではなくなってしまいます』

   『だったら子宮を無くす代わりに、どうか、どうか私の元に返ってきてください』
  
  そう言って、アスファルトにしゃがみこんで・・・・」

 三田は言葉を詰まらせ、
 沙織は混乱する頭の中で言葉を失った。

 一時間経っただろうか、頭を下げたまま拳を握り締める三田に沙織がやっと口を開いたのは。

  「解りました」

  「あなたにとって女は私だけだったんですね。これからも女は私で終るんですね」

  「だったら最後に、最後にもう一度だけ出張に連れて行って下さい」

  「岡山でいいから」

 岡山は三田と沙織が一番よく行った場所。
 ジーンズメーカーの多いこの地に出張に出かける三田に、沙織は何度も付いて行った。

  「わかった、再来週一緒に行こう」

 三田はそう答える。
 その言葉の後は、いつもの情交の後のように二人で身支度をし、三田がタクシーで沙織を送り別れた。
 
 それから数日。
 いつもの出張の時と変わらず、三田からメールが届き待ち合わせの時間を確認した。

 当日も、いつもと同じように東改札口の前で待ち合わせる。
 三田から切符を受け取り、いつもと同じ新幹線に乗り、岡山に向かった。

 出張と言っても三田は会社の第一線から退いているので、岡山で何もすることがない。
 二人でタクシーに乗りちぼり公園に向かい、大原美術館を散歩した。
 さして楽しくもないコースだったが、この18年間何度も暇を見つけては歩いた場所だった。

 18年間変わらず、三田は沙織の手を繋ぎ歩いてくれた。

 夕方になり岡山に戻った二人は、よく行く小料理屋で夕食を取った。
 若い頃は濃い味付けのものを沢山食べ、酒を呑んだ三田だが、今はすっかり和食を摘む程度になっていた。

 そして9時のニュースを見るため二人は店を後にする。
 いつもの様に。

 部屋に帰った三田はテレビを付けなかった。
 代わりに自分で風呂に湯を張り、沙織に一緒に入ろうと言った。

 沙織が40歳の声を聞くまで、二人一緒に入っていた。
 それを最初に拒んだのは沙織だった。

  「40歳を過ぎた女の体は風呂場の電気は明るすぎる」

 そう言って、別々に入るようになった。

 でも今夜は特別。
 子供を産んでない沙織の体は、同じ年齢の主婦に比べると随分と整っている。
 勿論、高い会員制のエステにも通い手入れされたその体は60を越えた三田には十分過ぎるくらい「綺麗な女の姿」を焼き付ける事ができた。

 二人で湯船に浸かり、三田は沙織の肩を抱きしめた。
 沙織も三田の胸に体を寄せ、二人並んで同じ方向を向き湯気に曇る鏡を見つめる。

  「きれいだよ、沙織」

 三田がこもるような声で小さく言った。
 沙織は聞き返すことも頷く事もせず、ただ鏡に映る三田の顔を見つめていた。

 湯船の中で三田の体の一部が固くなり、沙織の尻に当たる。

 愛した男に綺麗だと言われ、愛した男が欲情してくれる。

 沙織は溢れる涙を堪えながら、18年間の愛を確信する。

 朝、沙織が目が覚めると三田は自分のベットで寝ていた。
 風呂から上がり、いつものバーボンを飲むような情交を交わした三田は、沙織が眠ったのを見計らって自分のベットに戻ったようだ。
 これも18年間で変わっていった「老い」の形。

 付き合い始めた頃の二人は、今より随分若かった。
 夜中に目が覚め、もう一度抱き合うことも有った。
 朝、目が覚めるとそこに相手の顔があることが喜びだった。

 一晩に二度三度愛せる力が三田に無くなり、沙織は長年の習慣でベットで一人身を伸ばして眠る方が楽に思えた。

 目が覚めてからの三田と沙織は、いままでの出張旅行の様に身支度をして、朝食をとり、チェックアウトして駅に向かう。
 駅前の百貨店を仕事の視察を兼ねて一階から順に昇り、最上階につく頃には昼すぎになっている。
 そのまま軽くお茶を飲み、駅に向かう。

 そして、いつもと同じ時間の新幹線に乗るためにホームで待つ。
 もう二度と一緒に来る事のない岡山の地。
 何度も何度も訪れた岡山の地。
 「次」が有るかのように、土産も買わずホームで並んで待つ。


 車内アナウンスが流れる。
 後5分ほどで新大阪に到着する。

 沙織は三田を起こした。
 皺の増えた目じりをパチパチさせながら、三田が体を起こし仕度をする。

 終点が新大阪のこの新幹線を、いつも二人最後に降りる。
 混雑は二人には似合わない。
 それ以上に、焦って帰る必要もない。

 無言で二人は東改札口に向かう。
 ここまでは二人の出張の旅。
 そして、この改札までが18年間の不倫関係の蜜月。

  「先に、出てください」

 沙織は三田に言う。

  「うん、わかった」
  「もし、困った事があったらいつでも連絡してくるんだぞ」
  「俺が生きてるうちなら何でもしてやるから」

 そう言うと、三田はまっすぐに改札を出ていった。

 歳より臭くなく、颯爽と歩く三田を白い柱の所で誰かが待っている。
 三田は振り返らず、その上品な出で立ちの初老の女性に近づく。

  三田の妻

 沙織は会ったあったことがない。
 でも、その女が三田の妻であると確信した。

 妻は知っていた。
 岡山に出張する三田がどの新幹線に乗り、どの新幹線で沙織と帰ってきてるか。

 たぶん、18年間ずっと、ずっと。
 ここで待つ事はなくとも、愛人と帰ってくる三田を待ちつづけたに違いない。

 沙織がこの光景を見ている事を、三田は知っているのだろうか。

 振り向く事のない三田に代わり、三田の妻がゆっくりと深深と沙織にお辞儀をする。
 つられて沙織が会釈しようとした時、三田の妻は笑った。

 微笑んだのではない。
 決して三田には見えない様に。
 
 あざ笑ったのだ。

 18年間耐え忍んだ、妻の執念の笑み。
 夫を取り返した妻が、愛人をあざ笑った。

 一筋。
 18年間、瞼の奥で留まっていた涙が頬を伝わる。
 沙織の体中から、嗚咽するほどの涙が一気に流れる。

 改札の前で立ち止まり、
 三田夫婦を見送りながら
 自分の18年という歳月を見送りながら、
 愛人は一人泣く。

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2006年08月10日

残暑


 蜩が泣いている

 お盆が近づき、夕暮れが急に早くなる
 オレンジ色した西の空

 夏の終り
 ぼんやりと縁側から見送る

  「そろそろ行くわ」

  「うん」

 それ以外に言えない

 昼間はまだまだ暑い
 貴方は避暑にやってくる

 麦茶を一杯
 綺麗にシャツを吊るし
 シャワーを浴びる

 素麺を食べ
 「我が家」のように、うたた寝をする

 傍でうちわを仰ぐ私
 その手を取り、昼寝の伴に引き寄せる

 小さく鼾が聞こえ
 太陽だけが西へ西へ陰る

 蝉の声が終る頃、目を覚まし
 汗の乾いたシャツにまた袖を通す

 主のように玄関を出て行く貴方を見ながら
 くちずさむ徒然草


  つれづれなるまゝに、日くらし、硯にむかひて
  心に移りゆくよしなし事をそこはかとなく書きつくれば
  あやしうこそものぐるほしけれ


 寂しいのか
 悲しいのか

 愛なのか
 日常なのか

 義務なのか
 女の喜びなのか

 貴方を見送り
 春原日記を書き綴る

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2006年05月28日

算数

 恋心は

  「足し算」

 出逢った時は「0」だったのに、色んなものが足されていって「好き」が増えていく。

 醒めていく心は

  「引き算」

 沢山有った恋心が引かれていき

  「愛のボーダーライン」

 より下がれば

  THE END


 結婚は加点方式の方が良い、と言う。

  「この程度」

 と思い、結婚してから良い所が増えて行く。

 反対に

  「最高のパートナー」

 は、結婚後に寝ッペも発覚するし、靴下も裏返さない。
 欠点ばかりが目に余る。

 恋愛も一緒。

 今の男に、私は一目惚れだった。
 高得点からのスタートなのに、今も続いているのは何故?

 多分、あの時と今は

  「違う足し算」

 足し算にも色々ある。

 恋愛相手の棒グラフが沢山並んでいる。
 容姿、性格、知性、セックス、etc。
 出会った時は容姿と知性とセックスが高く、今は他の物が足されていったんだと思う。
 何が足されたかは自分でもよくわからない。
 でも、セフレから愛し合う人に代わったのは確かな事。
 勿論、引き算された部分もあるけど。

 そして恋愛は

  「掛け算」

 二人だからこそ2倍に幸せだったり、箸が転んでも笑えたり。
 小さなことが何倍にも楽しく、幸せにもなっていく。

 勿論、悲しい事も掛け算。
 会えない寂しさは、恋愛するから味わえる。

 でも一番恋愛に必要なのは

  「割り算」

 人を愛するって言うのは、許す事が多々必要。
 割りきらないといけない事が多い。
 特に結婚や不倫は割り算だらけ。
 そして割り切れない事が多いのも事実。

 愛する男が仕事に打ち込む邪魔をしてはいけない!
 解っている心と、自分が蔑ろにされているような割りきれなさ。
 不倫なんて正に割り算の宝庫。
 家庭があるのを解っていて、
 割りきるつもりで付き合って、
 家庭に愛がないと信じて付き合って、
 でも帰る男に、やるせない思いがつのる。

 割り切らないといけないものが、割りきれない。
 恋愛は、男と女の素数。
 ユークリッドの前から男と女は証明していた。
 素数が無限にある事を。

 恋することって無限。
 出会って、足し算で好きになる。
 色々知って嫌なところも目に付いて、引き算。
 二人でいるから楽しい事も悲しい事も、掛け算。
 でも、割りきらないといけない事、割り切れない事もいっぱい。

 それでも恋愛数値は無限。
 なんか乙女チックで哲学チックだな、恋愛って。

 そして私の人生は

  「恋の百ます計算」

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2006年05月25日

ガイダンス

  「おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、かかりません」

 女性の声が丁寧に私に知らせる。

 男が自宅に帰った事を。

 夜八時には、このガイダンス。
 翌朝八時には解除。

 電波の届かないような場所ではない。
 男が家に帰ったから。

 家に帰ると携帯電話は電源を切られる。

 丁寧なガイダンスは、私に対する携帯電話会社の気遣い。


  「あなたの男、家に帰ったからもう電源切ってますよ」

 ストレートな説明で、私が傷付かないように。


  「おかけになった電話は、愛の届かない場所にあるため、かかりません」

 と説明されたなら、眠れない12時間を過ごしてしまう。


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2006年05月01日

辛い夜

 ささやかな手料理で男と酒を呑む。
 ほろ酔い加減で戯れていると、二人とも寝てしまう。

 アルコールが体を重くし、起き上がる事ができない。
 結局二時間近く寝てしまい、男は眠い頭を振りながらコーヒーを啜る。

  「帰るわ」

 かなり眠いはず。
 帰る先に何が待っているのか?
 七年経った今でも、私の知らない事は多い。

 眠気で温かくなった私の体を男は抱きしめて、車の窓からキスをする。

 そんなに眠いのにどうして帰るの?
 何故、ここじゃダメなの?

 幾度となく噛み殺した言葉。
 それをまた噛み殺し、飲み込む。

 辛い事が待っているのに。
 毎回、手料理と酒で男を迎える自分が愚かに思える。

 祭りの後のようなテーブルの上の物を片付ける。

 これも

  「二人の形」

 と半ば諦める。

 七年間愛情が続くということは、七年間悲しみも続く。
 この辛さを感じなくなった時、愛も感じないのだろう。

 辛さと愛を天秤にかけたら、まだまだ愛のほうが重い夜。


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2006年04月07日

惚ける

 この季節、我が家の庭に花が咲く。

 私はこの花を好きだ。
 春のどんな花より。

 桜より紅く。
 桃より丸く。
 愛らしい花弁。

 その名は

  「木瓜(ぼけ)」

 この花を見ると

  「惚ける」

 って、いいなと思う。

  「色惚け」

 と言う言葉がある。
 周りが見えなくなるほど、恋に填まる。

 紅い花弁は、恋焦がれる情熱の赤。
 丸びをおびた花弁は、乙女の愛らしさ。

 女性器を花に例えるならば、私は

  「木瓜の花」

 と言われたい。

 紅く。
 可愛く。
 そして棘がある。

 恋に惚け。
 愛に惚け。
 そして惚けさせる。

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2006年03月13日

重み

  「ねえ、私のこと好き」

 何度も聞いてしまいます。

  「どれくらい好き」

 疑心暗鬼で問いかけます。

 いくら答えが返って来ても、不安になるのが女。
 自分に自信がないんじゃなくて、男に自信がない。

 そんな私の問いかけに、男の身体の重みがのしかかる。

 いくら

  「好き」

 と答えられても不安。
 いくら

  「一番」

 と言われても、何と比べてなのか解らない。

 子供のように問いかける私に、男はのしかかり顔を見つめる。
 私の足に絡まる、男の足。
 男は左の腕で自分の身体を半分支え、左半身を私に重ねる。
 大人ひとり分の体重が私にのしかかる。
 右手で私の頬を撫ぜ、質問に視線で答える男。

 男の重みが私を安堵させる。
 征服と支配の重み。
 男が愛するものを独占する重み。

 私はベットの中の男が好き。
 あるがままの肉体を求め合うセックス。
 他愛もない会話や愛撫。

 そして言葉を失い、男が私の上に体重をかける。
 身動きができない。

 物言わぬ。
 物言わせぬ愛の重みに、安堵する。


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2006年03月05日

ゴトウ

 週中の昼間だというのに、新幹線はかなり込み合ってる。
 やっとのことで空いた席に座る。
 時間ギリギリの乗車で席に座ったとたん、ほっとため息をつく。
 そして、うつろな目を下向き加減に伏せる。

 通路に並ぶサラリーマン。
 その間を掻い潜り、空席を探す新たな乗客。

  「ゴトウ! ゴトウ」

 通路を進む男を呼ぶ声。
 辺りのほとんどの人が呼ばれた男の方を見る。
 私も伏せた視線を「ゴトウ」を投げかける。
 別に「後藤」の知人は居ない。

 振り返るゴトウ。

  「なかなかイケてる」

 私の上マブタが5mmだけ上がる。

 日に焼けた浅黒い肌。
 二重の眼力を感じさせる、白黒はっきりした瞳。
 彫りの濃い顔立ち。
 180cmはある背丈と適度に肉つきがよさそうな身体。

 なにより、オジ様フェチの私にはたまらない。
 白いカッターシャツに腕まくり、ちょっと緩めたネクタイが哀愁。

 私の身体が瞬時に計算する。

  「こいつは男として見れる」

 ゴトウも私の視線を感じたはず。
 たった3秒だが同じことをゴトウも考えたはず。

  「ゴトウ、ゴトウ! こっち、こっち空いてるぞ」

 更にゴトウを呼びつづける声。
 無粋な男だ。
 人の運命をしゃがれた叫び声で歪めるなんて。

 ゴトウは呼ばれるままに私の横を歩いて行った。
 鞄を肩にかけ、前だけを見つめて。

 ゴトウ。
 残念だったね。
 折角出会えたのに。
 ゴトウと私の運命の糸は絡まってはなかったんだ。

 私はもう一度、座席に深く腰掛ける。

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2006年03月04日

線路

 とある私鉄の一両目
 くねくねくね 線路が続く

 マンションの脇を通りぬけ
 海岸線を横目に走る

 吸いこまれるように
 導かれるように

 くねくね線路に リズムを合わせ
 ゴタゴタゴタ 電車が走っていく

 急カーブの先は 見えない恐怖
 まっすぐ延びる線路は 行きつく人生

 いくらあがいても
 人と違う人生を探しても
 線路の上を くねくねくね

 上り電車 下り電車
 ぶつかりそうでも ぶつからない
 ぶつからないと解っている

 波乱の人生と粋がってみても
 所詮 線路の上

 登り坂の苦しみも
 下り坂の楽さも
 人生によくある程度の線路道

 大きなことを望んでも 無事終点と安堵する

 ブレーキ音は母の声

  「ゆっくり線路を走りなさい」

 指差し確認は恩師の声

  「あるべき道を走りなさい」

 とある私鉄の一両目
 私の人生の一両目
 くねくねくね 人生が続く

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2006年02月20日

寿命

  「私達の未来」

 を占ってもらう。

 いつも

  「永遠」

 と口にはしても、いつか終わる日が来ることを知っている。

  「今年の年末に・・・・」

 意味深な言葉を投げかける占い師。

  「今年の年末に何があるの?」

 聞き返す。
 想像できる事態は限られている。

  ・妻にばれる
  ・会社にばれる

 あくまでも、愛のなくなった別れでなく引き裂かれる別れ。
 間違っても

  ・他に女ができる
  ・愛想を尽かされる

 などという、自分の落ち度は想定しない。

 占い師の言葉を頭で何度も反芻しながら達した結論は

  ・私に新しい男?

  「えぇ、そんな。 いるかなぁ?」

 頬骨の上が緩み、目が垂れる。

 来るはずが無い、この恋の終り。
 来て欲しくない、この恋の終り。
 あるはずが無いとは言いながら、終わりが来ることを知っている。
 恋にも寿命があることを。

 有り得ないのに、あるものだから
 新しい恋の度に占ってしまう。

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2006年02月16日

度合い

  「あなたより、私の方が愛しているのは辛い」

 あの人の胸に顔を埋める。

  「私が愛する以上に愛して欲しい」

 子供地味た事だとわかっている。
 愛する度合いなど量れない。
 ましてや相手の心など見られないのに。

  「違うよ」

 駄々っ子を宥める様に、胸から私の顔を引き上げる。

  「自分が想うより愛されていると思うと、人は優越感を覚える」
  「そうするとよそ見ができるようになるから、その場が楽しく無くなるんだよ」
  「愛する方が幸せなんだ」

  「じゃあ、私の方が幸せなんだ」
  「あなたはどっちの方が、より多く愛していると思う?」

  「僕はこんな性格だからね」
  「愛しているのと同じ量だけ、愛されていると思っているよ」

 結局、心は量れない。
 量れても、基準が違うの。

  愛情測定機
  世界標準

 っていうのがあると、私は納得できるのだろうか?

 それとも

 愛されている優越感に浸りたいだけのか?

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2006年01月11日

 桜と似ているのに

 匂いなら桜より芳しいのに

 春の訪れを本当に知らせてくれるのに

 歌の題名にも「サクラ」は数多あるのに


 「サクラ」は可愛い娘の名なのに

 「ウメ」さんはおばあちゃんの名


 桜の季節には 忙しいあの人

 梅の季節には 一緒に居てくれた


 桜は友達みんなと 騒いで見た

 梅は人目を避けながら あなたと二人


 ひっそりと

 紅く咲く梅の花

 丸く可愛い花びらが 私に似ていると あなたが言った

 桜のように華やかさはないけれど

 私の恋は 梅の恋

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2005年12月19日

  「今夜は冷えるね」

 玄関を開けると 今年初めての雪

 何時も見なれた庭先を白く飾っている


 男の大きな足跡が玄関から延びて行く

 白い地面がそこだけ何時もの土色に戻る

 車のエンジン音が静かな夜に響く

 白い煙が上がり 暖められてその周辺だけ溶かす

 男は手を上げ

  「じゃっ」

 と一言

 私は一歩後ろに下がる

 窓ガラスが機械的に締められ 男の車が走り出す

 白い道路に タイヤの線だけ雪が解ける

 玄関から私まで 足跡だけ雪が解けている

 冷たい空気の中 私は独り

 ゆっくり歩いた玄関先の足跡

 帰りを急ぐ様な タイヤの線

 この線はどこにつながっているの

 この線をたどったら・・・

 線がまた足跡に代わる先には 暖かなオレンジ色の光

 幸せそうな笑顔があなたを迎える


 雪の夜は嫌い

 あなたが帰った跡が残るから

 白く長い息を一つ吐き

 あなたの足跡の上を家へと戻る

 明日の朝まで降ればいい

 足跡もタイヤの跡も消しておいて

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