以前このブログのどこかで、米澤穂信の書く小説の主人公は、すべからく挫折を味わう、というようなことを書いた。デビュー作の「さよなら妖精」からずっとそうで、古典部の折木奉太郎もそうである。賢しらに推理を披露しながらも、主人公たちは隠された真相に最後まで気付けない。
そしてその傾向が最も強く表れているのがこの小市民シリーズで、「春」や「マカロン」の短編集はまだしも、「秋」「冬」では一層顕著である。
だからダメという話ではなくて、人間的な深さと、物語の厚みを増しているということでもある。
本作は1編まるまる過去の失敗を回想するという構造で、小鳩くんの苦い道程が赤裸々に綴られていて、読んでいて苦しい。結末も快哉を叫ぶような大団円に至るものではなく、心地よい読後感といったものからは遠い。
大晦日の暗い病室の二人。事件とともに何かが終わったという確かな、そして寂しい読み応えは、本シリーズの終幕に相応しいと思う。