2006年02月05日

「法治国家」を蝕むテレビ―ライブドア問題考(5)

ライブドア問題が、今もワイドショーをにぎわせている。

新聞のテレビ欄を見ていると、HS社長の野口氏の謎の死に興味が移行して来ているようだ。加えて、堀江社長が年末の忘年会でバカ騒ぎしているシーン、近鉄買収時の映像などが今も繰り返し流されているが、そのうちに、堀江社長が一体どんな罪の容疑で、逮捕されたのか分らなくなってくる。堀江氏逮捕のきっかけとなった「容疑」自体について掘り下げた報道はついぞ見かけられない。

しかし、逮捕の容疑そのもの、そして逮捕の妥当性について考えてみると、犯罪の構成要件の明確性とか、強制捜査の手法の合理性などの点で、検察の手法について問題にすべき点はあるのではないだろうか。この点については「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」に詳しいのでぜひ読んでほしい。

しかし、多くの視聴者は、そんなことはどうでもいいと思っているのかもしれない。
なぜなら、ライブドアの問題などは、自分たちの生活に関係ないと思っているからである。だから容疑となった罪について解説されるよりも、サスペンスのような謎解きの方が面白いし、見ていたい。テレビの方も視聴者の見たいものを見せようとする。

だが、本当に自分たちの生活と関係がないのだろうか。

想像力を働かせてほしい。
自分が経営している会社に、突然検察が乗り込んできて、資料を一切合切持っていき、風評被害も加わって、経営の継続が困難になることを。そして無罪が証明された時には、会社は跡形も無くなっていることを。

「松本サリン事件」のように、普通に生活していても、たまたま事件の現場にいたことで、犯人と間違われ、逮捕されてしまうことは、考えられないことではない。また無実のチカンの罪で捕まった人の多くが、無実の証明までに職場を去っていることに思いを馳せてほしい。

国家は恐るべき力を持っている。それが間違って使われれば、取り返しのつかない結果になる。だから憲法において「罪刑法定主義」を定め、罪かどうかは裁判所が決める、それまでは「推定無罪」ということにしたのである。

ところが、最近のマスコミは、進んでこのような「法治国家の大原則」の形骸化に手を貸そうとしているとしか思えない。容疑自体の検証どころか、過去のlivedoorの経営手法、堀江元社長の発言、全部ひっくるめてマスコミが「犯罪」と認定し、社会的制裁を加えているのである。木村剛が、これを「ケシカラン罪」と表現し、マスコミのあり方に疑義を呈しているのは、正鵠を射ている。

恐るべき力を持っている国家権力を監視し、その法からの逸脱を糾弾することが、マスコミの本義であるはずだ。ところが逮捕という権力発動の正当性についてほとんどチェックをせず、一方的な検察側の情報を垂れ流し続けている。マスコミが国家と結託してしまっては、法治国家は立ち行かないし、無実だろうがなんだろうが「逮捕されれば一巻の終わり」というのは恐るべき社会である。

こんな社会で、私たちは安心に暮らせるのだろうか。

日本の刑事事件の裁判は、ずば抜けて有罪率が高い(99.9%)ことで知られる。数々の警察の不祥事を考えれば、これは何も検察・警察が優秀だからという理由だけではないだろう。すでに裁判官が判断する前に社会が有罪と断罪していることも影響しているのではないのだろうか。

特に人々に大きな影響力を与えるテレビに猛省を求めたい。人々の見たいものに応えるだけが、テレビの役割なのだろうか。テレビが様々な規制に守られているのは、「社会の公器」だからだと主張するのであれば、人々の欲望に応えることよりも、人々にとって重要なことについて掘り下げるべきではないか。見たいものを見るという欲望の受け皿は、もうインターネットに任せて良いんじゃないだろうか。

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この記事へのコメント

1. Posted by 47th   2006年02月07日 04:17
TBありがとうございました。
既に出ているように、こうした傾向が進めば、報道の内容に対する政府のコントロールもやむなしという論調も強くなるわけで、結果としては、マスコミの方々は自分たちの報道の自由を自ら危険にさらしてしまっているのではないかという気もしています。
経済理論的にいえば、共有地の悲劇が起きているということなのかも知れません。
2. Posted by haruuruu   2006年02月07日 15:18
コメントありがとうございます。
そもそも、「表現の自由」「報道の自由」の重みについて、マスコミの方々は認識が不足しているように思います。例えば反戦ビラを撒いて住居侵入で捕まった事件がありましたが、ほとんどマスコミは反応しませんでした。既得権を確保できるのであれば、多少の自由は捨ててもいいと思っているのかもしれません。そこに民主主義の危機を感じます。

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