「駄目だよ!ハセ!!お前さんには3人も子供がいるんだから」
 
笠井さんは変わらず、
大人で、正しい意見を言う人だった。

悔しい思い、
マイクを奪われた動揺…
 
処分を言い渡された直後、
僕は小倉さんや笠井さんと
バス停近くの静かな場所で話をしていた。
 

自分に起きたことを出来るだけ説明する。
でも、そもそも、何が何だかわからない部分も多い。

黙って聞いている小倉さん。
残念なんだろうな。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 
僕のマイクに対する思いは十分に知っている笠井さん。
そして、
我が家に子供が3人いることも知ってる笠井さん。
笠井さんの家も、お子さんは3人だ。
 
僕が早まったことをしないか、と心配してくれていた。
 
 
「しっかりと処分を受け入れて、まずは大人しくすることだよ!」

「おとなしくしていれば、人は、きっとハセの話も聞いてくれるようになるよ!」


笠井さん、どれだけ今まで迷惑かけてきたろうか。

こんなに心配かけて…

自己嫌悪に陥る。



小倉さん、ほとんどしゃべらないなぁ…。

昔から人見知りで、シャイだからなぁ。


でも、忘れもしない、

初めて、とくダネ!について、デビューした日だ。

 

 

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「今日が初登場!長谷川君です!よろしく!」

「はい!お伝えします!!」


テレビ上では見えなかったろうが、

僕は足と手が震えていた。


いかん。

緊張とかいう状態を超えてる…。

手足の先がしびれてきた。

どんだけ?


視聴率はおよそ10%。

日本人の人口を…1億2000万人として…

うわ…

1200万人の前で、僕、しゃべってるのか…。

それってすごい。


いったんCMに入る。

どっと噴き出す汗。

何か月分かのカロリーを消費した気分だ。


うわ!

小倉さん、席から立ち上がった!

怒られる!


「おーい、マネージャー、たばこ」


当時、小倉さんはタバコを吸っていた。

珍しい。

このCMではいつもタバコなんか吸わないのに。


小倉さん、

僕の肩をポンとひとたたき。


ん?


「だいじょうぶだよ。どれだけミスしても、絶対うまくひろってやるから安心してしゃべりな」


あの時、小声で言われたひとことは、

僕の耳にまだ残ってる。


照れ隠しで、

タバコ吸うふりをして。

僕の後ろを通りながら、こっそり言ってくれた。


佐々木恭子さんも、

そんな小倉さんの性格を知ってた。

ふふ、と黙って微笑んでた。

 

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あれから14年。

 

 

どんなに頑張っても、

うまくひろえん状態になっとるがな(涙)!


なにしてんだ!?僕は!

恩返しをしたくて!

一回りでも成長したくて、

新しいアメリカの地に行って!!


結局、迷惑、かけてんじゃん!


悔しくて、たまらなくなる。

 

 

バスの時間が近づく。

成田空港に到着する時間を確かめに笠井さんが時刻表のところまで走っていってくれた。


じっとしてられないんだろうな。


色々と話してくれたけど、

笠井さんも動揺してるのは明らかだった。


その時、

ほとんど口を開かなかった小倉さんが

じっと僕の目を見つめて話し始めた。





「なぁ…」