今更契約できない?

 

 

 

何言ってるんだ?

ほんとに家族が来るまであと2・3日。

家がなかったら、どこに僕の家族は泊まるんだ?

2歳の長女も含めて、子供3人と犬一匹だぞ?

 

 

詳しく話を聞くと、

W君から値下げ交渉をもっとしろ、とプレッシャーをかけられているらしい。

なるほどね…。

 

 

少し事情を説明する。

 

 

 

この、FCIにいるフジテレビ人事部のW君とは、実はもともとアナウンサーだった子だ。

 

 

僕はスポーツ実況の現場などで一緒だった時もあるし、

僕にとってはW君がニューヨークにいることは本当に心強かった。

しかし、W君には性格上、ちょっとしたクセがあることも事実だった。

 

とにかく、下の人間に対し、機嫌が悪いと、高圧的になりすぎること。

高学歴の影響もあるかわからないが、ちょっと人を見下したような態度をとるところ。

 

一番よくないところが出たのは

よりにもよって、彼の結婚式だった。

 

 

当時の僕はとくダネ!という朝の情報番組を担当しており、

その中にとても優秀なディレクターがいた。

頑張り屋さんで、現場でも素晴らしい動きをする一生懸命な子だった

 

 

そのディレクター君は当時アナウンサーをしていたW君に

結婚式のおめでとうVTRを作ってあげたのだ。

 

 

忙しく働いていたディレクター君。

でも、頼もしい同期アナウンサーであるW君のために、完全ボランティアで取材をし、

素晴らしいVTRを作っていた。

 

 

 

結婚式。

そのVTRが流される。

 

 

そんな中、大事件が起きた。

 

 

VTRを作ったディレクター君がなんと、

新郎であるW君を殴りつけたのだ!!

 

 

 

結婚式で!!

大騒動。

 

 

 

なんと、W君は、VTRを作ってくれたディレクター君に対し、

「なんなんだよ、あのVTRは!」

「作りがへたくそなんだよ!」

と、みんなの前で暴言を吐き続けたらしい。

 

 

酔ってたのかなぁ…とは思う。

 

 

でもさすがにひどい。感謝の言葉すらなく、

しかも、アナウンサーに対し、VTRの文句を言われたディレクター君は

最初、懸命に我慢していたそうだが、

あまりにもひどすぎる暴言に対し、我慢の限界に来たという。

 

 

 

ディレクター君の行動はよくない。

やはり、何があっても暴力はいかん、と思う。

 

 

しかし、

その当時、現場にいたすべての人間が、

ディレクター君のあまりに可哀想な状況に同情したと言う。

もちろん、これらは僕が周囲のディレクターたちから
聞いた話であり、実際はもっとひどかったのか、
もっと大した話ではないのか、それはわからない。

 

 

 だが、それから、である。

 

 

 

制作現場では、W君の評判がガタ落ちした。

というか、もはや現場ではW君を使う番組は全くなくなった。

 

 

仲間を馬鹿にされた形となったとくダネ!のディレクターたちも

「Wだけは絶対に使うな!」

と怒り心頭だった。

 

 

W君の仕事は、ほどなくしてスポーツ実況の研修しかなくなる。

 

 

W君は、その後、

「アナウンサーはもともと志望していなかった。経営をやりたい」

と、アナウンサー職を離れ、人事部へと移動。

 


彼はアナウンサーとしての才能がとてもある子だった。

声質もいい。

実況も鍛えればいつかはきっと上手になったろう。

アナウンス室的には彼が離れたことは痛手だったし、残念だった。

でも、このままでは、彼に将来がないこともそれは仕方のないことだった。

それくらい、制作現場では彼の事件は有名だった。

 

 

現在、W君はニューヨーク支局で、MBAの資格を取るため、勉強をしながら、

傍らで人事の仕事をしている。

 

 

そんな彼は…

 

 

ニューヨークでも、やはり、

まり変わっていなかった。

 

 

 

言ってることが間違ってるとか、合ってる、ではない。

 

 

 

自分よりも立場が弱かったり、

性格的に大人しい人間に対して、

ちょっと、横柄な態度をとるところが治っていなかった。

 

 

 

彼は、僕がお世話になっている日系の不動産会社に連絡を取り、

こう言ったそうだ。

 

 

 

「長谷川の家についてだが、値下げ交渉が全然できていないのではないか?

 

 ニューヨークの不動産は値下げ交渉をするのが常識

 

 その程度の値下げ交渉も出来ないのであれば、

 

 御社との付き合い方も考えてゆかないといけないですね

 

 

なんと、W君の要求は

一か月につき、500ドル(5万円近く)もの値下げをさせろ、というものだったらしい。

 

 

一月に500ドルって!!

 

 

ヤクザですか?!

下がるわけないし、そんな金額…。

 

 

 

そうして、

前回のブログの最後のコメントが届くのである。

「すいません、あの家の契約ですが…出来ないかもしれません…」


そう。すでに書いたとおり、

ニューヨークの日本人社会において、

フジテレビに逆らうことは中小の会社には死を意味する(らしい。良く知らないが)。

 

 

 

値下げ交渉が出来ない以上、

このまま、契約するわけにはいかない…と言う。

 

 

 

 

ちょっと待ってくれ。

だから、家族が来るまであと3日なんだってば!!

 

 

 

 

 

相当にあせる。

W君に翌日、いの一番に言う。

 

 

「できればあの家で契約したいんだが…」

 

 

忘れもしない。

W君は自信満々にこう言った。

 

 

「何言ってるんですか?長谷川さん(笑)。
 ニューヨークではね、文句を言わなかったら、それで負け、の社会なんですよ!」

 

 

…僕、ニューヨークに来て、まだ1週間とかだし。

そう言われたら、そうなんですか、と言うしかないし。

 

 

というか、よく考えたら、W君の言ってることの方が正しいじゃないか。
アメリカは自己責任の国。主張することは当然の権利だ。

 

それに、方法はどうあれ、

W君は僕のためにどれだけ頑張ってくれているだろう…。

 

 

 

その不動産会社の女性が英語が下手だとか、

キャパが狭くて二つのことが出来ないタイプ、とか

笑いながら馬鹿にしてたのは少し気になったが、

急な赴任直後の僕なんて、今はまだみんなに甘えることしかできない。

 

 

 

任せよう。

 

 

 

すると、その翌日だった。

不動産業者から連絡が入る。

まさかの連絡だった。

 

 

 

 

「長谷川さん、弊社の社長がFCIのWさんに呼びだされ、

 

 クレームを入れられました」