錦織圭選手の快挙にメディアは大はしゃぎです。

皆さんも気付いてらっしゃるでしょうが、実はここ1・2週間、かなりの「ネタ枯れ」が続いていました。
「ネタ枯れ」って言うのは「視聴率の取れる(販売部数の伸びそうな)大きなニュースがない」っていう状態のことを指す業界用語です。情報番組・新聞各紙にとって「ネタ枯れ」ってのは直接のダメージになります。

そういう時、どうするかっていうと、方法は一つしかなくて
「大したことのないニュースを散々煽り続ける」
んですよね。皆さんもなんだか違和感、感じてたでしょ?内閣改造からのデング熱報道。特にデング熱。あんな長い時間やらなくていいよってね(笑)。

デング熱に関しては、もちろん国内での感染が70年ぶりという事で、十分なニュースです。でも、これもみなさんがご存じの通り、そもそもデング熱は「人→人感染」をしませんし、代々木公園周辺にあの時期に行ってない人にとってはまず、「まったく関係ないどうでもいいニュース」です。

でも、んなことを正直に全部言っちゃうと視聴率も伸びないし、販売部数も伸びないので徹底的に怖いBGMと共に煽ってるだけです。蚊が人の血を吸ってる映像をこするだけこすってね。そんなニュースが先週はずーーっと続きました。

そんな苦しい情報番組、新聞記者の皆さんを救うべくして現れた、我らがヒーロー、錦織圭君!

テレビはもはや狂ったように錦織フィーバー。もちろん、単純に「視聴率の匂いがするからこすってるだけ」が正体なんですが、まぁいつもやってる範囲です。さすがにチキンラーメンの袋まで延々やってるのはどうかと思うけれど。錦織選手もおもちゃにされてちょっと可哀想ですが、それにしても、これは快挙!

懐かしい2年半前、僕は錦織選手を育んだアメリカフロリダにあるIMGアカデミーに取材に行きました。

え?錦織選手ですか?ええ、日本になんて住んでませんよ?国籍が日本ってだけで、そもそも在住はほぼアメリカフロリダ州です。「日本人が~」「日本人初めての快挙で~」とか言ってますけど、本人、人生の半分はアメリカですから、本人の中ではそんなに「日本人、日本人」って思ってない可能性すらあるかも知れないですね。

正直に言うと、現場を取材してしまったので、僕の中ではずっとテレビでやってる「日本人が~」っていう、昨日からの報道に違和感を感じてしまっています。何故なら

錦織圭は、日本ではこのままではつぶされるから

アメリカに渡った選手だからです。
錦織選手は元々テニスの天才的な才能の持ち主で、小学校で日本で優勝しています。それまでの優勝選手と違って、ダントツの強さだったんだそうです。しかし、皆さんご存じの通りで、日本ではある一つの才能に特化することをあまり良しとはしません。特に「年功序列」という完全に間違った文化が根ざしてしまっているので、錦織選手が天才であればあるほど、先輩方のいじめの対象になりますし、ヘタクソなコーチが上から目線でアーダコーダ言いはじめることは容易に想像がつきます。そのコーチ、錦織選手より、100倍くらい才能がなくても年上ってだけで、日本ではいう事を聞かなければいけないのです。世界的にはんなアホな、の価値観ですが。

「日本の選手は世界に出なければ才能は最大限までは伸ばせない」

そう判断したのは錦織選手の最大の恩人である日本テニス協会会長を務める盛田さんという人物です。錦織選手の才能を見抜いた盛田さんは世界最高のテニスアカデミーであるIMGアカデミーに奨学金をもってテニス留学させるのです。

アメリカフロリダ州にある、天才的テニスコーチ・ニック・ボロテリ―さん(←見た目は普通のおじいちゃん)が経営するIMGアカデミーには、世界の最高峰のテニスプレイヤーが拠点を置き、日夜練習に励んでいます。

テニスコートは全部で52面(←当時。今は知らない)。
ほぼすべてのテニスコートにハイビジョンの監視カメラを設置。そして、その練習映像を24時間録画。特別室に行けば、自身の練習風景を何度でも繰り返し再生しチェックが出来るほか、特別なアクセスキーをもってアクセスすれば、世界中からその映像がリアルタイムで見られるため、コーチが世界の裏側にいても、リアルタイムでコーチングすることも可能です。

充実した寮の設備に、食事環境。レストランはプールサイドにあり、食事は食べ放題。フロリダにあるせいか、オレンジジュースは飲み放題で考えられないほど甘いです。これはテニスと関係ないですが。

朝から最低限の語学教育などを受けた後、1日のほとんどを徹底的にテニス漬けにして過ごすことが出来るほか、世界最新の筋トレマシンと、世界一のトレーナーたちの管理下によって怪我のしない肉体を作り上げることが可能です。

何より、一緒に励んでるメンバーがとんでもない。

アンドレ・アガシはいるわ、シャラポワはそこら辺で普通にラリーしてるわ、セリーナとビーナスのウイリアムズ姉妹も当然このアカデミーで練習に励んでいます。世界最高峰のプレーヤーたちが、日常的にラリーの相手になる訳です。
さらに「世界一のガット貼り職人」(ラケットのガットを選手それぞれに合わせて調整しきる職人さん)がアカデミー内にいるので、ラケットの調整もしてもらえます。




そんな環境だから錦織選手は強くなったのです。世界最高峰って、理由がちゃんとあるのです。




彼を中学生時代から知っているアカデミーの創始者ニックコーチにインタビューをしたときに、印象に残っていることがあります。

「僕は褒めることしかほぼしないよ。スタイルなんてものは人それぞれ違う。自由に楽しんでやれればそれでいいのさ」

僕も中学時代にテニス部だったので、ニックにコーチをしてもらいました。わずか30分ほどだったのに、何回褒められたか。20~30回はポジティブな言葉をかけてもらったことを覚えています。褒められている中に、実は細かく
「素晴らしい!こう動いたら、君の魅力が出るぞ!」
「君の素晴らしさはこうするともっとよくなるぞ!」
褒められてるのに、結果としては助言となる言葉が入ってきます。

アガシやシャラポワを育てた人は、一見するとただの人の良さそうなおじいちゃんでした。でも、一つだけ特徴をあげるとすれば、「ほめ上手で認め上手」でした。実はそれと同じ条件で育った人がアメリカの同じく東海岸にいます。

イチロー選手です。

イチロー選手の振り子打法と呼ばれる打法は元々批判の的でした。「直せ」「変な打ち方をするな!」注意され続けたそうですが、オリックス時代の、かの仰木監督が
「自由に打たせてやれ」
とコーチたちに命じ、あの快進撃が始まった事はあまりにも有名なエピソードです。イチロー選手が錦織選手の快進撃をとても喜んでいるそうですが、なんだか気持ち的に通じるところがあるのかも知れません。
エアケイ!なんて、昔は絶対に日本だと怒られてたでしょうしね。「変わったことするな!」って。

僕はその現場を3日間にわたり取材したものですから、なんだか錦織選手の快進撃を

「日本人として嬉しい~」
「日本人だから~」

と話すテレビに違和感を感じてしまっています。錦織選手は

「アメリカのフロリダで育ったからここまで来た」

のです。IMGアカデミーだから決勝まで来ているのだと断言できます。逆に言うと、それは

「日本では(いい所までは行っても)ここまで来られなかった可能性が高い」

とも言えるのです。事実、日本人はこれ程のテニス人口がいながら、4大大会で今まで決勝まで行けた人物は一人もいないのです。

国籍は確かに日本人ですが、錦織選手はフロリダのIMGアカデミーがはぐくんだ天才です。
その才能を見出し、可能な限り早い段階でフロリダに送り込んだ盛田さんの力です。
いつの日か、日本育ちの、日本人がちゃんと世界の大舞台でも活躍できる、そんな時が来ることを祈りたいです。