徒然なるままに欧州・ドイツ特許実務

ドイツで働く日本人弁理士が、欧州・ドイツ特許実務に役立ちそうな情報を徒然なるままに書き記していきます。雑文・乱文にご容赦下さい。

日本から独・英・仏の特許庁への出願数の推移です。
JP-DE_GB_FR
使用したツール:


先日の記事「ドイツから日本特許庁への出願数(公報数)の推移2008~2017」では、基礎出願がドイツ出願の出願公開公報の数をドイツから日本への出願数と定義していました。しかしこのデータには欧州特許出願を基礎にしたドイツ企業からの出願が含まれなかったり、出願後公開前に取り下げた出願が含まれなかったりとドイツから日本特許庁への正確な出願数を示すものではありません。

このドイツから日本特許庁への正確な出願数はこれまで公開されていないと勝手に思っていたのですが、当該ブログの読者の方からWIPOの以下のサイトから各庁における出願人の国籍別の出願数のデータが得られるとの情報が得られました。


早速使ってみましたが。。。。便利すぎる。。。目からうろこが落ちました。こんな便利なツールがあったとは。。。

そこで上記ツールによって得られたデータを用いて「ドイツから日本特許庁への出願数の推移2008~2017」をアップデートしてみました。結果は以下の通りです。

DE-JP

貴重な情報を提供して下さった読者の方、誠にありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。





欧州・ドイツでは当業者が出願書面から直接的かつ一義的(英語:directly and unambiguously、ドイツ語:unmittelbar und eindeutig)に導き出せる範囲は優先権の認定および補正による新規事項追加の判断の際に重要になります。欧州特許庁はこの当業者が直接的かつ一義的に導き出せる範囲をかなり厳しく(狭く)判断することで有名ですが、ドイツではこの範囲がかなり緩やかに(広く)判断されます。今回は優先権の認定に際してこの範囲が驚くほど広く判断されたドイツ最高裁(BGH)の判決(事件名:Teilreflektierende Folie、ケース番号:X ZR 112/13)を紹介します。


本願クレーム1:

ステージ等の背景に画像を表示するための画像プロジェクタ(12)、反射面(18)および
平坦、透明そして部分的に反射するフィルム(20)の使用であって・・・
前記フィルム(20)は少なくとも3m×4mの面積を有する・・・使用。


基礎出願(L2)の内容:

図:
directly
クレームおよび明細書:
フィルムの寸法および面積に関する具体的な記載はなし。


論点:

クレーム1について優先権の主張の効果が認められるか?すなわちフィルム(20)は少なくとも3m×4mの面積を有するという特徴は基礎出願L2から直接的かつ一義的に導きだせると言えるか?


ドイツ最高裁の判断:

クレーム1について優先権の主張の効果を認める。すなわちフィルム(20)少なくとも3m×4mの面積を有するという特徴は基礎出願L2から直接的かつ一義的に導き出される。


判決文の抜粋:


寸法が記載されていないことは、出願時の書面が、3m×4mより小さい面積を含むサイズの異なるフィルムの使用を含むことを示唆している。

Das Fehlen von Maßangaben legt nahe, dass der Offenbarungsgehalt der ursprünglichen Anmeldeunterlagen die Verwendung von Folien unterschied-licher Größe umfasst und damit auch solcher, die eine kleinere Fläche als 3 m auf 4 m aufweisen.

したがって基礎出願L2は、具体的な寸法を特定せずとも、ステージの概念のみによって規定され、いずれにせよ通常のステージサイズを含む広い寸法範囲を間接的に開示する。

L2 offenbart damit mittelbar, ohne sich auf bestimmte Maßangaben festzulegen, eine breite Be-reichsangabe, die nur durch den Begriff der Bühne begrenzt wird und jedenfalls übliche Bühnengrößen umfasst.

フィルムの3m×4mという最小表面積は、当業者によって基礎出願L2から可能な実施形態として直接的かつ一義的に導き出されうる。

Eine Mindestfläche der Folie von 3 m auf 4 m kann der Fachmann der L2 unmittelbar und eindeutig als mögliche Ausführungsform der Erfindung entnehmen.


DE_to_JP
ドイツから日本特許庁への出願数=ドイツ出願が基礎出願の日本特許出願の公報件数

参考サイト:
https://worldwide.espacenet.com/advancedSearch?locale=en_EP


最近日本人技術スタッフの採用活動をしていると多くの方がまずは日本の弁理士資格を取得してから次のステップとして海外での就職を検討されているんだなと感じます。また最近大手企業を退職されて弁理士として独立された方も「弁理士資格をとって海外で働くという選択」という記事で海外で活躍するための前提として日本の弁理士資格の必要性を説明されています。

実際に私もそうですが日本での実務経験を積んだ後に海外で就職された方々には日本の弁理士資格を有している方が多いので、日本の弁理士資格取得→海外就職というのは成功率の高いキャリアパスであったことは確かだと思います。

しかし私の個人的な見解では少なくとも現在のドイツでは日本人が特許技術者として就職する上で日本の弁理士資格の必要性はそれほど高くないと思います。理由は以下の通りです。


1.日本の弁理士資格を活用する場面が無い

ドイツの事務所で働く日本人に一番求められるのは日本のクライアントの対応です。そして当然ながらドイツの事務所は日本のクライアントの欧州・ドイツでの手続きを代理します。したがって日本のクライアント対応に求められるのは欧州・ドイツの手続きに関する知識です。このため日本のクライアントの対応には日本の弁理士としての知識およびノウハウはあまり必要なく、むしろ欧州・ドイツの手続きに関する知識およびノウハウが求められます。

また、一昔前のようにドイツ企業が日本に沢山出願していた時代(全盛期の2002年には1万件以上!)は、ドイツ企業向けに日本の特許実務に関する情報およびそれを伝える日本の弁理士資格保持者の需要はあったと思います。しかしドイツ企業が日本への出願を減らした今日(2017年には4000件程度)ではそういった需要も少なくなってしまいました。


2.日本の弁理士資格によって就職がしやすくなるということが無い

ドイツの事務所が日本人の技術者を採用する際に最優先で検討するのは、①英語またはドイツ語でのスムーズな意思疎通が可能か、②募集要項の技術分野のバックグラウンドがあるか、そして③実務経験があるか3つです。日本の弁理士資格の有無はこの3つの要件よりもかなり重要度が下がると思います。


3.日本の弁理士資格があってもあまり給与に反映されない

日本の弁理士資格があってもドイツではなんら代理権がないので、法的には普通の特許技術者と変わりません。また上述のようにドイツにおいて日本の弁理士資格の需要が減少したことにより、ドイツの事務所にとっても日本の弁理士資格にお金を出すインセンティブも減少しました。このためドイツの事務所が日本人技術者の給与を決定する際には現在では日本の弁理士資格はほとんど考慮されないと思います。


4.いずれにせよ一人前になるにはトレーニングが必要

日本の弁理士資格があっても無くても日本人が欧州・ドイツで特許技術者として一人前に業務がこなせるようになるには時間とトレーニングを要します。個人的な経験から日本の弁理士資格があるからといってこのトレーニングが楽になるということはありません。


5.日本の弁理士資格がなくとも活躍されている方がいる

さらに日本の弁理士資格を有せずとも日本のクライアントから高い評価を得ている欧州在住の日本人実務家の方々もいらっしゃいます。このことから日本のクライアントから評価されるためには日本の弁理士資格は必須でないと考えられます。


まとめ

海外で技術者として就職することを検討されている方は、上述の理由から日本の弁理士資格はマイナスにはならないけど大してプラスにもならないもの程度に考えておいた方が良いと思います。

一方で日本の弁理士試験は近年難化しているようなので、日本の弁理士資格取得にはそれなりの時間とエネルギーの投資が必要です。

このため海外で働くことを目標されていてまだ日本の弁理士資格をお持ちでない方にとっては、日本の弁理士資格の取得に時間とエネルギーを費やすよりも、その分早期に海外就職し、語学および現地でのトレーイングに時間とエネルギーを費やした方が投資効率の観点から好ましいかと思います。

とういう訳で毎度毎度強引ですが、日本弁理士資格を取ったら海外で働いてみようと現在お考えの方々、直ぐにでもドイツで働いてみませんか?

ドイツで働くのもアリかなと思われた方は以下の記事もご参照下さい。




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