1. 独立クレームに無駄な特徴が含まれていないか?

 欧州特許庁では独立クレームの特徴を削除することは極めて困難です。例えば独立クレームが「A+B+C」という特徴を有していた場合、ここから特徴「C」を削除することは、例えば明細書に「Cは必須の特徴ではない」ぐらいの記載がないと認められません(ガイドラインH-V, 3.1)。独立クレームの特徴についてわざわざ明細書に「必須の特徴ではない」と記載することは極めて稀ですので、実際は独立クレームの特徴を削除することは不可能と考えておくべきです。

また分割出願でも同様の基準が適用されます。したがって出願時の独立クレームよりも広い範囲で権利化することは欧州特許庁では実質不可能です

このため欧州特許出願時またはPCT出願時に独立クレームの特徴が課題を解決するための最低限となっているかを検討し、課題の解決に必須でない特徴、事業に必要のない特徴は徹底的に省くをことお勧めします。


2. 1カテゴリー・1独立クレームとなっているか?

欧州特許庁ではEPC規則43条(2)の規定により原則1つカテゴリー(物、方法、使用)について1つの独立クレームしか許可されません。この1カテゴリー・1独立クレーム違反している場合は調査報告発行前にどの独立クレームを調査対象として選択するかを問うOAが発行され(EPC規則62a条(1))、選択しなかった独立クレームについては原則分割をしなければ権利化できません(EPC規則62a条(2))。このため1カテゴリー・1独立クレームに違反してしまうと権利化手続きが著しく非効率になります。

一方で私の経験上、1カテゴリー・1独立クレームに違反していても、出願時に複数の独立クレームを上位概念化した1つの総括独立クレームを作成することが可能だった場合がほとんどです。

したがって欧州特許出願時またはPCT出願時には無理してでも1カテゴリー・1独立クレームとすることをお勧めします。

なお「回路」と「その回路を含む装置」のように前のクレームの構成を全て含む形の独立クレームは1カテゴリー・1独立クレームの原則には違反しません(ガイドラインF-IV, 3.2)。

また欧州特許出願時またはPCT出願後に複数の独立クレームを上位概念化した1つの総括独立クレームを追加する補正は欧州特許庁では通常新規事項の追加に該当し許可されません。


 3. 従属クレームはマルチ従属クレームとなっているか?

 新規事項の追加の判断が厳しい欧州では単従属クレーム同士の組合せであっても新規事項の追加と判断される場合がります。

例えば  
  クレーム1:A
  クレーム2(クレーム1のみに従属):A+B
  クレーム3(クレーム1のみに従属):A+C
という場合にクレーム2および3をサポートとして
  クレーム1:A+B+C
という補正をする場合は、当初クレームにはA+B+Cの組合せが開示されていないので新規事項の追加と判断されるリスクがあります。

 しかしこの問題は最初からクレーム3をマルチ従属クレームにしておけば防げていたことになりますので、欧州特許出願時またはPCT出願時に従属クレームを技術的な矛盾が発生しない範囲でできるだけマルチ従属クレームとすることで補正の自由度を向上させることができます。さらに欧州ではマルチクレームに追加費用は発生せず、マルチのマルチも問題ありません。

なお欧州特許出願またはPCT出願後に単従属クレームをマルチ従属クレームに変更することは上記例と同様の理由で新規事項の追加と判断されるリスクがあります。


4. 従属クレームの数に過不足は無いか?

欧州特許庁の調査部門は独立クレームおよび従属クレームの特徴を調査することが義務付けられています(ガイドラインB-III, 3.7)。一方で明細書のみに記載されされている特徴については調査することが義務付けられていません(T1679/10)。

このため例えば出願が1つの独立クレームしか含まない場合は:   

  第1OAで文献1が引用され新規性が否定される
  ↓
  明細書から特徴Aを追加して文献1に対して新規性を確保
  ↓
   第2OAで文献2が引用され新規性が否定される
  ↓
   明細書から特徴Bを追加して文献2に対して新規性を確保
  ↓
   第3OAで文献3が引用され新規性が否定される
  ↓
   明細書から特徴Cを追加して文献3に対して新規性を確保
   ↓
   第4OAでようやく特許性が認められる

というように引用文献が小出しにされ権利化手続が極めて非経済的になる恐れがあります。 一方、上記例で特徴A、BおよびCに関する従属クレームを予め出願時に準備しておけば最初のOAで審査官が特徴Cに関して特許性を認めることを確認できます。このため調査してほしい特徴は予め従属クレームに明記しておくことをお勧めします。

他方でクレーム数が16以上になると1クレームごとに235ユーロの追加費用が発生してしまいますので、コストパフォーマンスの観点からクレームの数は15以内に抑えることが好ましいです。


5. 明細書を参照しなくとも明確なクレームとなっているか?


日本での審査と異なり欧州特許庁での審査ではクレーム中の用語の解釈に明細書は参照されず、クレームのみ記載でクレーム中の用語が不明確な場合は、クレームのみの記載で意味が明瞭になるよう、クレームの補正が求められます(EPO GL F-IV, 4.2)。同様に新規性の判断でもクレームの解釈のために明細書が参照されません。

このため明細書中の定義がなければ不明確な用語をクレームに追加することは予め避けておいた方が好ましいです。


6. クレームの各特徴に附番は付したか?

欧州特許庁ではEPC規則43条(7)の規定によりクレーム内の各特徴の後には括弧に入れられた対応する図面内の符号を挿入ことが好ましいとされています。しかし特に機械系の発明では8割以上の確率で審査官によりクレーム内に符号を挿入することが求められます。このため予め依頼時に符号が挿入されたクレームを用意しておくことが好ましいです。

 また依頼時に符号が挿入されたクレームが欧州代理人の手元にあれば、図面とクレームとを対比するだけで短時間で大まかに発明を把握することができるので、その後のOA対応の際の代理人の作業時間を減らす効果も見込まれます。

ちなみに複数の実施形態が存在し、1つの特徴の対して複数の符号が存在する場合は、最も重要な実施形態(通常は第1実施形態)の符号をクレームに挿入するだけで足ります(ガイドラインF-IV, 4.19)。また符号はクレームを限定するとは解釈されません(EPC規則43条(7))。


まとめ

上記6点を守れば欧州特許庁での権利化業務をかなりスムーズにすることができます。さらに優先権確保の観点からは、1、2および3の項目は基礎出願の作成時、すなわち日本出願のドラフト時にも留意することをお勧めします