ハト豆エッセイ

本業の仕事で専門職として留学生に日本語を教えていますが、この間、上級クラスで比較的大きなテストが行われました。問題の中に日本語で短作文を作る問題があり、韓国の学生が「蜚蠊」という漢字を使っていました。採点しながら、教師間で「この漢字、何なんでしょうね」「何でまたこんな難しい漢字をテストで使っているんでしょうか」「文法的にはこの文作りの問題はクリヤしていますが、この漢字は・・・・」「マニアックな字を書きますねえ」などさまざまな話が飛び交います。「蜚蠊」は早い話が「ごきぶり」「ゴキブリ」です。

ゴキブリは昆虫とはいえあまり歓迎されていないようで。日本語学校の教室でもたまに小さな茶色いゴキブリの姿が。「あれー」「きゃー」などと女子学生たちが口にします。教師が処理しようとすると、その前に同じクラスの男子学生がティッシュペーパーでさっとゴキブリを捕まえてゴミ箱にポイと。その男子学生はちょいとしたヒーローに。こうした教室の日常のひとこまや留学生たちの反応からも、ゴキブリは日本だけではなく学生たちの母国でも嫌われている事情が垣間見えるようです。

女子学生たちに悲鳴をあげさせたこの茶色い小さなゴキブリはチャバネゴキブリです。東南アジアが原産国と言われ、冬でも冷暖房完備のビルなどで生息し、殺虫剤にも抵抗性を持つとも。飲食店厨房内に多いと言われるのもこのチャバネゴキブリです。この他に、日本には大型の黒くて光沢のあるボディの黒いゴキブリも。クロゴキブリです。一般家庭からゴミ置き場やマンホールのふたまで多様なところでお目にかかります。お目にかかりたくないものですが・・・・。おまけに、ヤマトゴキブリ、ワモンゴキブリ、キョウトゴキブリ、トビイロゴキブリなどまで日本にいらっしゃるようです。

忌み嫌われ、不衛生の象徴ともなり、悪い意味での「しぶとさ」の代名詞となっているゴキブリたち。日本人も多くはゴキブリをよしとしていませんが、調査によると日本人以上にアメリカ人も嫌っているとのデータも出そろっているようです。しかし、世界的には害虫扱いばかりされているわけではなく、ペットや食用にされているところもあるそうな。

ゴキブリは約3億年前、古生代から絶滅せずに生き残った「生きている化石」と言える存在。そうしたことから「人類滅亡後はゴキブリが地球を支配する」とも言われていますが、地球温暖化等、環境問題のさらなる進行で人類の未来、「蜚蠊」(ゴキブリ)さんたちの未来、地球の未来はどうなるんでしょうか。
(みえこ)

「草臥(くたびれ)て宿かるころや藤の花」とは江戸期を代表する俳人・松尾芭蕉の俳句です。一日の旅に歩き疲れて、そろそろ今夜の宿を求めようと旅籠(はたご)を探すたそがれの時間帯。晩春の暮れゆく中に、淡い紫のフジの花が垂れ下がるように咲き、フジの花の重たくゆったりとした香りに気づき、空を見上げる。そこはかとなく旅愁と春の愁いが漂っている。そんな句の意でしょうか。フジの花は旅ゆく芭蕉の心をも引き付けてやまない魅力ある花だったようです。

「いやー、きれいだねえ」「極楽・極楽」などとフジの花の下で主人の母が口にします。

ゴールデンウイークに母を車いすに乗せて栃木県の某花のパークに車で連れて行った時のことです。パークの広大な敷地にさまざまな花々が植栽され、開花し、来園者を迎えてくれていました。この時期はフジを中心にツツジ、シャクナゲやオオデマリなどがまさに花盛りに。紫色、さくら色(薄紅色)、黄色、白のフジの花が咲き、来園者の目を楽しませています。これらのフジは夕方から夜にライトアップされ、昼間とは違った幽玄の世界を醸し出しています。

アメリカの代表的放送局CNNが選んだ「世界の夢の旅行先10か所」の一つに日本から唯一この花のパークが入っています。来園するお客様には日本人ばかりでなく中国をはじめ多くの外国人観光客が訪れています。スカーフをかぶった女性もまじえたインドネシアの人たちのグループも。外国人の皆さんはさくら色(薄紅色)のフジを好まれる方々が多いという話です。何だかフジの花のカラーのお好みもお国柄が出るのでしょうか。

サクラを堪能したら、青葉若葉の季節がめぐってきて、花もフジの花が享受できる時期になってきます。フジは北アメリカ、東アジア、日本に自生し、中国ではシナフジ、欧米ではアメリカフジが。日本では、フジ(ノダフジ)、ヤマフジ(ノフジ)の固有種が。ヤマフジ(ノフジ)は日本の本州西部以南の山地には自生しています。

ゴールデンウイーク終盤の頃に埼玉県秩父周辺を回っていたら、山地の樹間にはヤマフジ、シロバナヤマフジの花が房状に垂れ下り、野性味と同時に素朴な美を感じました。藤棚、パーゴラに艶やかに花開く植栽されたフジ(ノダフジ)の派手さ、華やかさとはひと味違うものがありました。フジは家具類などの細工に古来利用されていますが、若芽や花を和え物、天ぷらでも食から楽しめます。いやはや、フジの花の世界は奥が深いです。皆さんもフジの世界にはまってみませんか。
(みえこ)


桜大好きの日本人も多くの皆さんがとりわけソメイヨシノを愛してやまないようです。桜の開花宣言とやらも気象庁職員さんが某神社の標本木にその時期に張り付きながらなされます。そのニュースを皆さんも「きょうもだめだった」「もう少しかな」「あ、やっと開花宣言だあ」と一喜一憂しつつ見ています。数ある桜の品種の中でもソメイヨシノがあくまで開花宣言の判断基準です。ソメイヨシノでなくてはという皆さんの思いが強いです。

十月桜、河津桜、安行桜、寒緋桜などの早咲きの種類に、白い花のオオシマザクラ、ヤマザクラ、サトザクラなどがあります。桜はピンクが当たり前でしょという皆さんの固定観念をひっくり返す黄色いウコンの桜、緑色の花びらの御衣黄(ぎょいこう)もあれば、ベニシダレ、ヤエベニシダレなどのしだれ桜が足元近くまで伸びる枝先に心躍ります。しだれ桜はソメイヨシノより例年開花が1週間ほど早いというのもうれしいものです。ソメイヨシノの後には関山、普賢象などの八重桜も花を咲かせてくれます。

ソメイヨシノはオオシマザクラとエドヒガンの交雑種で、江戸末期から明治初期にかけて江戸の染井村の造園師や植木職人たちによって作り出されたそうです。オオシマザクラとエドヒガンが交雑してできた単一の樹を始源とするクローンなので、日本全国のソメイヨシノが実は元をたどれば1本の樹がルーツになっているというわけです。

現在、ソメイヨシノは危機的状況にあると言われます。ヤマザクラやエドヒガンなどには数百年の古木がある一方で、ソメイヨシノは寿命60年説が。21世紀に入ってソメイヨシノの危機が言われ始め、第2次世界大戦後に一斉に植栽された全国のソメイヨシノが寿命を迎えようとしている話もあります。

ソメイヨシノはクローンの宿命で病気に対する耐性があまりない上に、てんぐ巣病の発生が多く、コフキサルノコシカケ、ナラタケモドキなどのキノコにやられて樹勢を弱めています。てんぐ巣病の病害は見た目からも分かりやすいですが、キノコによるものは外側からは分かりにくいものがあります。おまけに、中国や韓国から入り込んだ外来種のクビアカツヤカミキリによる害虫の影響も懸念されています。地球温暖化やヒートアイランド現象による環境悪化もソメイヨシノの樹勢低下に拍車をかけているようです。

ソメイヨシノは公園や街路樹に植栽されており、皆さんの目を楽しませてくれています。しかし、立ち枯れ、幹の空洞化、樹勢の弱体化などの現象から全国で見られます。このままでは日本全国のソメイヨシノの花見の名所がある日突然一斉に危機を迎える寂しい悲しい現実味を帯びた話も。東京では花見の名所によっては基金を既に始め、ソメイヨシノの植え替え計画に着手しているところもあるようです。植え替えるなら、てんぐ巣病により強く同じ時期に開花が楽しめるジンダイアケボノに切り替えていく動きも始まっているようです。ソメイヨシノの運命は・・・。
(みえこ)

このページのトップヘ