【志摩子】

 夏、毎年鋭く差し込むような暑さをただ我慢しながら
実家のお寺での用事だけをこなしていた。
ただそれだけの色のない季節。
昔まではそうだったわ。

 でも今は・・・。

 部屋に篭る熱気を冷房を使って部屋を冷やしながら
朝ごはんの準備をする私。

 乃梨子は昨日夜遅くまで課題をしていたせいかぐっすり部屋で
眠っている。少しでも寝かせてあげるために
私にできることはしないと、そう思って動いていた。

 実家でもよくしていたことだから何の問題もなく
むしろ早すぎるくらい時間をあまり使わずにできてしまった。
朝は軽くあっさりと。

 細く切った山芋とオクラに出汁のきいたつゆをかけて。
納豆とわかめのお味噌汁を用意してテーブルの上に乗せた。
後は乃梨子を起こすだけ。

 だけど普段は相手がずっと寝ているという状況がなかったため
起こす作業が慣れてないせいか意識すると少し緊張している
自分がいた。

「相手が乃梨子なのに何を緊張しているのかしら」

 少し胸の辺りがドキドキしつつも部屋を覗いて小さく寝息を立てる
乃梨子の耳元で囁くように声をかけた。

「朝ごはんできたのだけど、起きれる?」
「・・・!!」

 私の言葉にすぐに起き上がって耳を手で軽く抑えながら
顔を赤く染めていた。

「志摩子さん、耳元で囁くのは反則だよお・・・」
「ごめんなさい」

 言葉とは逆に乃梨子の可愛い反応を見れて私は笑みを
浮かべていた。

 その後、二人で食事を済ませると。
満足そうにしながら近くにあったソファに座った後、
私に手招きをするので近づいていくと
手の届く距離に来たらぐいっと引き寄せられて一気に
顔の近くまで倒れるようにして近づいていた。

「もう、危ないでしょう」
「へへっ、ごめんね。志摩子さん」

「もう・・・」

 悪びれもなく爽やかな笑顔を浮かべて謝る乃梨子。
そんな表情を見せられたら怒りにくくなるではないか。

 乃梨子の上に少し乗るような形で私は乃梨子の胸元に
顔を寄せて彼女の温もりを感じていた。

 乃梨子はというとソファの前にあるテレビをリモコンで
適当につけてから私の頭に乃梨子も顔を寄せてきていた。
涼しい部屋に二人で寄せ合っていると少しずつうとうとと眠気が
少しずつ来るのを感じる。

 これだけ誰かに心を完全に許して落ち着ける時間を過ごせるのって
どれくらいぶりだろう。乃梨子とこういう関係になるまではそう・・・。
おそらくは私が何者かわかる前に実の親だと思っていた両親に
甘えていたときだったろうか。

 そんな半分眠気に負けそうになっている私の耳に聞こえてきて
私は乃梨子の顔をそっと見てみると先に寝たのは私ではなく
乃梨子の方で寝息を立ててるのが聞こえてきたから
私はテレビから出てくる音を音楽代わりに寝ていた乃梨子の
さらさらしている髪の毛を弄り始めた。

 まずは額にかかる髪の毛を上げておでこを露出させると
うっすらと汗が滲んで光ってるように見える額に軽く口づけをした。
少ししょっぱくて乃梨子の匂いがする。

 私の口づけに軽くピクッと動いて反応をする乃梨子。
まだ起きる気配はないので一度離れて今度は乃梨子の隣へと
移動をした。動きやすいように少し間を空けるようにして。

 だらしなく放り出された腕をそっと引き寄せて
下着姿の乃梨子の露出した肩にそっと口付けをする。

「んんっ」

 ちゅっ

「んふっ・・・」
「乃梨子の声かわいい・・・」

 乃梨子は声を出しながら私から腕を放して背中を向けるように
ごろんっと寝転がると私は更に構って欲しい猫みたいに
乃梨子の正面側に移動すると力の入っていない腕を
そっと上げて露になった脇を見て近づいて匂いを嗅ぐ。

 他の部分と違って濃厚に感じる乃梨子の匂い。
それに対して私はより胸のドキドキが強くなっていっているのを感じていた。

「ん・・・」

 その綺麗にしてある脇を私は舌を這わせて脇から下へ胸の横側まで
舐めると乃梨子の声がより強くいやらしく私の耳に届いた。

「し、志摩子さん、や、やめ・・・」

 私は視線を乃梨子の顔の方へ戻すと、少し涙目になって顔を真っ赤に
させている乃梨子が見えた。

「あ、ごめんなさい。起こしちゃって」
「いやいや、いくらなんでもこの状況じゃ眠れないって!」

「そうよね・・・」
「・・・そのね、志摩子さんにそんなことされるとなんていうか・・・
もやもやするっていうか・・・」

 反省の言葉を口にする私に少し間を空ける乃梨子が次に口にしたのは。

「ねぇ、志摩子さん・・・続き・・・」
「え?」

「続き、部屋でしない? ここじゃちょっと」

 否定じゃなくて、こんなことをした私に対して受け入れてくれる乃梨子の言葉に
私はついつい笑みが漏れてしまって。

「えぇ、そうしましょう」

 それから二人でベッドの上でしばらくの間、二人の時間を過ごして
幸せな気持ちで一日を終えた。

 二人が一日中一緒の時間を作れるのってそんなになかったから。
こういう時間を過ごせるというのはとても幸せなことだった。

「乃梨子」
「うん?」

 カーテンを閉め切って、明りをつけないでベッドの上で私は乃梨子に
抱きしめられ、包まれている中で小さな声で乃梨子に伝えた。

「私、今とても幸せよ」
「うん・・・私も」

 こうやって自分をさらけ出して言いたいことが言えて幸せを噛みしめる日が
来るなんて思いもしなかった。

 本当に嬉しくて、嬉しくて。何度も何度も乃梨子を求めていくことだろう。
これからも、ずっと。きっとこの私の愛情は重いものだろうけれど。
あの時の木の下でロザリオを受け取ってくれたように。
きっと私の愛もずっと支えてくれるとそう信じていた。

「乃梨子、大好きよ」

 暖かすぎて、私にはもったいなさすぎて、
思わず泣きそうになってしまうくらいに私は今幸せに生きている。

お終い