【命視点】

 新しい家族が増えてから、生活が変わるかと思ってたらほとんど変化らしい変化は訪れなかった。
その時に、ふと何気ない言葉が萌黄の上司である瞳魅さんから、言葉が投げかけられてきた。

「アルバムとかないのかしら?」

 小さい時の思い出のことだろうか。私は子供の頃から普通の子供と違う生活を
送っていたために写真などは一切持っていない。でも、昔のお父さんの写真なら
大事にしまってはあるが・・・。かなりボロボロで変色もしているけど。

「ないですよ~。所謂普通の生活なんて萌黄のとこに来るまではしたことがないです」
「あ・・・」

 まるで地雷を踏んだとばかりに戸惑う瞳魅さんに私は微笑みながら視線を向けた。

「大丈夫です、気にしてませんよ」

 いつも堂々と、凛としていてクールでかっこいい印象の瞳魅さんがこういうことで戸惑うことにも
新鮮さを感じて一緒に過ごすのも悪くはないと思えた。でも、時々、私に向けてくる
目がとても、純粋じゃない何かな時もあって、身の危険を覚えるけど。

「まぁ、父の写真ならありますけどね・・・」
「へぇ、見せて見せて」

 大事そうに胸元から取り出した写真を私の後ろから覗きこむ様に見る瞳魅さん。
しばらく、そうやって見やってると、ある違和感を覚えたのか瞳魅さんは私の隣に移動した。

「ちょっと、いいかしら・・・。その写真・・・なんか重なってない?」
「え・・・?」

 写真を横に水平にしてみると、確かに二枚重なっているように見えた。
瞳魅さんが貸してと言って私は写真を手渡すと大事に少しずつ時間をかけて剥がしていく。
剥がれるということはやはり重なっていたのだ。長い時間をかけてくっついてしまったようだ。

 ペリッ

 静かに開かれた写真の先には、ずっと重なっていたせいか、父の写真よりも幾分か色が
落ちずに綺麗に残っていた。そこには嬉しそうに父の膝の上に座って足をバタバタさせている
幼い頃の私の姿があった。

「おぉ・・・これは」

 驚いたような、感動したような、色々混ざったような声を瞳魅さんが出している隣で
私は胸が熱くなるような思いがして、胸元の服をギュッと握りしめる。
あぁ、そうか。色々辛い思いもしたけど、私は幸せだったことがわかって嬉しかったのかもしれない。

「・・・!?命さん、どうしたの」

 私へと視線を戻した瞳魅さんは驚いた私を見つめていた。なぜか、私の目からはポロポロと
涙が落ちていき、自分の膝元が濡れていった。悲しいとか、そういうのじゃなくて。
何だか知らないけど、勝手に溢れてきたのだ。

「だ、大丈夫です」

 その時にタイミングが悪く、萌黄が部屋の中に入ってきて、私と瞳魅さんが二人で
いることに驚いて睨みをきかせていた。

「なに、命ちゃんを泣かせてんの!あんたは・・・!」
「ち、違うんです。これは・・・」

 私が萌黄に説明をする前に瞳魅さんが萌黄に駆け寄って何やら話をしているようだが
私の耳にはよく聞こえなかった。話は大して時間を要せず終了し、二人で同時に私を見た後
すぐに部屋の外を出て走りだした。

 一瞬だけ、何故走るのかがわからなかった私だけど、すぐに写真を持ち出されたことに
気付いて二人のあとを追いかけた。

「ま、待ってください・・・!」
「だ~め、貴重な命ちゃんの幼少時の写真を永久保存するためにパソコンに取り込むんだから!」
「いくら嫌がってもこればかりは譲れないわ」

 私としても本気で嫌なわけじゃなく、保存とか色んな人に見せられるのが恥ずかしいだけだった。
賑やかに、休日の時間が流れていく。私たちの様子を見て呆れていた小学生のマナカちゃんも
いざ、揉めてる内容を知ると積極的に見ようとするので家中が騒がしくなった。

 今日も摩宮家は平和であった・・・。