January 27, 2009

眠りの森の寝太郎

世界は今日も明日も整然とやってきて
人と人の間を苦しそうに泳ぎながら
終には泡と消えた人魚の話



『また御前か。懲りずに良く来るものだのう』

木馬鹿にした台詞で人魚を迎え入れた
其の声の主はまだ姿を消す前の義父上である

人魚は人魚で毎晩現れては
毎晩の様に小馬鹿にされていた

何時もの様に何時もの場所で
何時もの如く変わらない夜

私は其の会話を右から左へ送りながら
口元を吊り上げて聴いていた気がする

様子として苛めている風に見えて、
あれは可愛がっていたのかもしれないが
実の所はもう聞けぬ事だし

人魚の方も構われて嬉しかったのかもしれない


”人魚が恋をした様だ”と伝え聞いたのは
仕官していた国を去ってから数ヵ月後の事

聞いたのは傭兵を飯の種にしていた友人より…
だった気がするが、さてどうだったか
其れはさて置き

そうか、と言葉そのままに飲み込んで
私は何時しか人魚の事など忘れてしまっていた


其れからまた更に数ヵ月後
偶々立寄った骨董屋で手に取った
とても古びた手記に目を奪われた


……
………

『あれれ、珍しく読書ですかッ?』

翼帝城塞の屋上で一人、城主はだらんと足を投げながら
木製の小さな椅子に腰掛けて本を読んでいた

其処へ日光浴にでも来たのか
掃除をしない自室から逃げ出してきたのか
一昨年拾った天使が背後から声を掛けてきた

『嗚呼、本は御前様の様に五月蝿くも無いし
 何よりも言葉足らずじゃねぇからな』

『ひぃっ!ヒドイ!』

ぴょんと膝下を曲げて飛び跳ねながら怒る様子は
乙女の可愛いと云うより、間抜け度合い全快である

『ま、しかし…』

城主は文句を零す様に続ける。

『この本は知識を得るには少々言葉足らずだ。』

『じゃアタシにも読めますかねッ!』

『んん、御前様にピッタリじゃねぇの?』

ふふんと小馬鹿にしながら鼻息を拭いた
が、天使は特に気にする風でも無く言葉を改めた

『アタシそろそろ引っ越す事にしたんですヨ』

『そりゃ城が静かになって丁度云いな』と城主は返し
『ヒドイ!』と尚もぴょんぴょんする姿を見て
やっぱり御前様にピッタリだ、と思い直す

溜息を付きながらばさりと適当に本を閉じると
下手から天使目掛けて投げて渡した

屋上の階段から降りる際に振り向いて
『引越し先に向かう途中にでも読むと良い』
そう云ってから少し眉を曲げた

『聞いてるのかベネ太…、…?』

天使は城主の言葉が届かなかったのか
本を小脇に抱えながら快晴の青空を見上げたまま
時折異国から吹く風に髪を揺らしている

恋しいのは青空か
青空が抱く遠い遠い海原なのか



ま、別段に
私の知った事ではないのだがね



世界は今日も明日も整然とやってきて
人と人の間を苦しそうに泳ぎながら

恋をして 苦しんで それから…
終には泡と消えた人魚の話

泡は想いと一緒に天空へ舞い上がり
露に想いの深さを馴染ませながら
想いの重さゆえ天使となって舞い降りた

この話が完結するのは、まだ暫く後の様だ

hauni0201 at 20:07|PermalinkComments(0)TrackBack(0)日記 
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