東急大井町線等々力駅(東京都世田谷区)を地下化して、急行の通過待ち駅にする計画が地元住民の反対運動によって阻止された。工事によって「等々力渓谷」の湧水が枯渇する恐れがあるためである。等々力渓谷では岩肌から湧水が見えて、湿地が生まれ、複雑な生態系を作り出している。
等々力駅地下に大きなコンクリートの地下構造物が出来れば、地下水の流れが遮断されて、湧水が枯渇するのは目に見えている。自然の心臓部分にナイフを突き刺すようなものである。地盤沈下や地滑りが起こりやすくなるといった防災上の問題点もある。地下水の流れは未知の部分も多く確実な答えがない以上、水の保全を最優先に考えるべきである。
地元住民らは2003年8月24日に300人以上の署名を集めて「等々力駅地下化工事に反対する会」(成田康裕代表)を結成した。設立総会では周辺住民約45人が出席、今後も反対運動を展開していくことで一致した(「東急の駅 地下化で今秋着工 住民反発『井戸水止まる』」2003年8月26日)。
成田代表は「これまでもお願いをしているが、(東急電鉄側には)住民と話し合う場をつくってほしい」と話す(「等々力渓谷守れ 駅地下化工事で枯渇懸念」産経新聞2004年11月2日)。「大井町線とその周辺環境を愛する住民グループ」も活動している。
反対運動参加者は交換性のない等々力渓谷の自然環境を、一企業の思惑で変えられてしまうことに大きな怒りを抱いている。住民へのアンケート調査では大井町線に急行が必要ないと答えた人87.3%と圧倒的多数を占める。一方、大井町線に急行が必要と答えた人は僅か3.6%である(「大井町線とその周辺環境を愛する住民グループ」実施、2004年)。
等々力駅地下化工事反対の署名は莫大な数に膨れ上がった。何故、それだけ多くの反対署名が集まるのか、多くの人々がその事業に疑問の声を上げているのか、東急電鉄は真剣に考える必要がある。住民側は二子玉川のグループなどとも連携しながら、法的措置や世田谷区長選・区議選への候補者擁立を含め、反対運動を強化・拡大していった。
東急大井町線急行化の真の狙いは、混雑の緩和などではなく、沿線の開発に他ならない。混雑率云々というものは人口が増加していた時代の発想である。バブル崩壊後の建設不況打開のために鉄道が利用され、新たな環境破壊を引き起すのは時代錯誤である。
大井町線急行運転開始予定は2007年度であるが、杜撰とも言える不十分な事前調査のため、ポイントとなる箇所において工事着工に至らず数年が経過している。「地下化だ!」「踏切解消だ!!」「地上の空きスペースの有効活用だ」と主張されているが、地上走行案が再燃している。どちらにしても、遅れを取り戻すための、無理な計画、度重なる変更、短縮される工事期間が沿線住民や利用者に利益をもたらすとは考えにくい。
http://www.hayariki.net/3/15.htm
世田谷区は、この計画に対して住民から寄せられた周辺環境へ不安の声を受け、第三者的な立場から指導・助言する機関の設置を東急電鉄に指導した。これを受け、「等々力駅地下化工事技術検討委員会」が設置された。
環境破壊に対する懸念、東急電鉄に対する不信感を抱いた住民・利用者の多くの声を受け設置された委員会であるが、公正中立な第三者による委員会は表向きのものでしかない。主催は東急電鉄で、委員らへの報酬の支払いも東急である。過去も現在もお金で結ばれた強い絆の元で果たして「公正中立」が存在しうるであろうか。東急電鉄や行政の責任逃れの場として都合よく利用されているに過ぎない。
反対運動側の住民がオブザーバーとしてメンバーに名を連ねているため、形式的には公平そうな雰囲気を醸し出しているが、オブザーバーには一切権限は与えられていない。実際の運営はオブザーバーの目の届かないところでなされている。
委員会の運営に対しては複数件の意見書が提出されており、不満があることがうかがえる(水みち研究グループ「技術検討委員会進行方法に関する提言について」、等々力駅地下化工事に反対する会「技術検討委員会における規約及び運営方法に関する申入書および追加申入書」)。

