ハドリー・キャントリル著、高橋祥友訳『火星からの侵略 パニックの心理学的研究』(金剛出版、2017年)はラジオドラマ『宇宙戦争』によるパニックを研究した書籍である。戦間期の米国で『宇宙戦争』がラジオ放送され、パニックを引き起こした話は有名である。多くのリスナーが現実に火星人が攻めてきたと受け止めてパニックになった。しかし、有名な割には細部まで知られていない。

本書は冒頭で、そのラジオドラマの脚本を掲載する。脚本を読んでみるとラジオドラマは巧みである。本物の臨時ニュースのような構成になっている。

この事件はラジオというマスメディアが発達したために起きたものである。情報社会を象徴する事件である。しかし、21世紀の高度情報化社会では起こりにくいものと感じる。それは他のチャンネルやメディアで確認することができるためである。

一つの放送局で臨時ニュースをしていても、他の放送局でしていなければパニックにはならないだろう。本書の研究でも他局の番組を確認した人がパニックに陥らなかった。情報の多様性、選択肢の多さが大切であると感じた。

現代はフェイクニュースが問題になっている。その対策は信頼できるメディアを絞り込むのではなく、多様なメディアに接することが大切だろう。

本書で認識したことに『宇宙戦争』がハロウィンに放送された点がある。制作側にはハロウィンのイタズラ感覚があった。現代日本でもハロウィンでばか騒ぎする人々と、それに眉をひそめる人々のギャップは存在する(63頁)。この放送が大きな問題になったところには、ハロウィンのイタズラ感覚への意識のギャップもあるのではないか。

本書はラジオの短所として時間の柔軟性に乏しいことを指摘する(99頁)。放送時間にラジオを聴いていなければならない。紙媒体のように好きな時間に読むことができない。この短所はTVにも該当する。

これだけでは古い紙媒体が新しい放送媒体を叩いているだけになりかねないが、より新しいインターネットは時間の柔軟性が高くなっている。YouTubeのようなオンデマンド配信ならば短所を克服できる。より受け手(消費者)本位のメディアが普及すればパニックは起きにくくなるだろう。少し話を脱線するが、この時間の柔軟性は仕事において電話よりもメールを求める心理と重なる。電話は相手の時間を拘束することになるためである。