対抗言論の法理は、言論に対しては言論で対抗することを求める理論である。社会的評価を低下させる言論に対しても、まず反論によって自らの評価低下を回復すべきである。表現活動に対して安易に侮辱や名誉毀損による民事責任、刑事責任が成立するとすれば、表現の自由の保障が阻害され、自由な表現活動に対する萎縮効果が生じるためである。
「表現の自由の観点からは、名誉棄損に対する救済方法は、表現者に対して法的制裁を科す前に、まず反論・「対抗言論」により名誉回復を図ることを求めるべきではなかろうか」(高橋和之「パソコン通信と名誉棄損」ジュリスト1120号81頁)
「本人が自らの責任において、公共の議論の対象となるような立場に身を置いたときには、表現の自由のために場合によっては名誉を犠牲にすることを要求しても、必ずしも不公正とは言えない」。犯罪行為の場合も「行為者が自らの責任で引き起こしたものであり、本人にある程度の『犠牲』を要求しても不公正とはいえなかろう」(高橋和之・松井茂樹編『インターネットと法 第3版』有斐閣、2004年、59頁)
「オンラインでの名誉棄損には、対抗言論(more speech)の考え方がより典型的に妥当しうることに注意が必要である」「オンラインの場合には、被害者がそこへのアクセスをもつ限り、加害者と被害者はメディアに関しては全く平等な立場に立つ」(高橋和之・松井茂樹編『インターネットと法 第3版』有斐閣、2004年、63頁)
東京地判平成15年12月24日 「本件投稿には「バカ息子」「アホ」「無能恫喝社長」「小心者」「無能力者」などと穏当を欠く表現が含まれているほか、タイトルも「大証の末路」とされ、「結論、大証の役目は終焉した。社員のみんなしっかり割増退職金もらえよ。」日本に証券取引所はひとつでいい」「これで大証の終焉がいよいよ早まった。金融庁も監視委員会も遠慮はいらないよ。また何度も検査に入ればいい。新しいビルも兵どもの夢の跡」などと原告大証の破綻を期待するかのような表現がされているものの、…公共の利害に関する事項を記載しているのであり、上記の表現は、原告大証の破綻を期待するかのような部分も、その問題点を強調し、関係者に危機感を伝える意図で用いられたと考える余地もある。これに、…本件投稿者は、原告大証の運営の改善を図ることを目的としたのであり、原告らの名誉を毀損する意図はなかったと回答メールに記載していることも併せ考えると、本件投稿に公益目的が欠けることが明らかであるとはいえないと考えるのが相当である。」