古今書院『地理』2018年8月号は「北海道 暮らしと産業のいま」を特集する。巻頭のカラーページでは大阪北部地震を報告する(池田碩「大阪北部地震の被災地を歩く」)。西日本豪雨災害が直後に起きたために忘れられがちであるが、ブロック塀倒壊のような重要な教訓がある。タイムリーにアップデートできない月刊誌だから逆に目の前の事象に流されずに取り組める。目の前の火を消すことばかりに集中しがちな日本社会では特に意味がある。

津波防災の記事が興味深い(橋本雄一「津波防災と自治体・住民の対応」)。北海道を対象とした研究であるが、内容に普遍性がある。津波対策として津波避難ビルが注目されている。しかし、シミュレーションの結果、避難ビルの階段入口で15分から30分程度滞留し、津波到達予想時間である地震発生後30分以内に多くの住民が避難ビル内の安全圏まで到達できない可能性があると指摘された(67頁)。住環境を破壊する超高層マンション建設に対して、津波避難ビルになると正当化する主張があるが、本当に近隣住民の役に立つのか吟味を要する。

田中總太郎「コルドバの歴史地区」はイスラム支配下で繁栄したスペインのコルドバを紹介する。ここではイスラムを、ギリシア・ローマ文化を現代に伝える架け橋と評価する(95頁)。イスラムを当時の先進文明と再評価する歴史観に立っている。

アニメ『Fate/Zero』ではアレキサンダー大王をアラビア語・ペルシア語発音のイスカンダルと称している。アラビア語・ペルシア語発音であることを踏まえれば、アレキサンダーが自分をイスカンダルと称することはあり得ず、単にイスカンダルの響きの新鮮さから採用されたものと思っていた。しかし、イスラムがギリシア文化を伝えたと考えれば現代に復活したアレキサンダー大王がイスカンダルを自称することはあり得るように思えた。

五十嵐和也「グローバル」ではグローバルな課題を生徒にとって実感のある題材や地域にまで落とし込んだ授業を目指す(115頁)。生徒にとってグローバルな課題は自分達の地域とは関係が薄く、学習意欲が低くなるという問題意識に立っている。過去の地理教育の記事でも生徒は自分に身近な内容の教科に関心を持つと指摘されている(佐々木智章「「地理総合」と「地理探求」」『地理』2017年10月号102頁)。社会全体をどうこうしようという上から目線の傲慢さはない。ステレオタイプな若者批判は最近の若者は社会への関心が乏しいとされるが、むしろ地に足着いた健全さを感じた。

「グローバル」で紹介された具体的な取り組みとして、農業の外国人労働者の話が印象に残った。消費者の多くは輸入農作物よりも国産農作物を好むが、国産農作物が外国人実習生の労働に依存している実態はあまり知られていない(118頁)。国内産業に見えるようなものでも外国抜きには成り立たなくなっている。