鳥越俊太郎&取材班『桶川女子大生ストーカー殺人事件』(メディアファクトリー、2000年)は埼玉県警の警察不祥事として悪名高い桶川ストーカー殺人事件を追及したノンフィクションである。全国的に警察批判が起きた事件である。

事件の真相は鳥越俊太郎がキャスターを務める報道番組「ザ・スクープ」(テレビ朝日)が明らかにした。これで埼玉県警の腐敗が日本中に知れ渡った。本書は、その取材ドキュメントである。警察への質問状提出、その回答と当事者取材との食い違いが明らかになる。その後の警察不祥事とも共通する警察の隠蔽体質が明らかになる。

桶川ストーカー殺人事件は1999年にJR高崎線桶川駅で発生した女子大生刺殺事件である。警察の杜撰な対応や嘘によって被害者や家族が心痛に苦しむことになる。真実を歪めて調書を作成する実態も指摘する。市民にとって「悪魔は遠くまで探しに行く必要がなかったということ。それは想像上のものではなく、現実に存在した」(エドヴィージ・ダンティカ著、山本伸訳『デュー・ブレーカー』五月書房新社、2018年、200頁)。

この事件はストーカー規制法成立の端緒となった。しかし、典型的な個人によるストーカー犯罪とは様相が異なる。集団的な嫌がらせ、攻撃である。後に社会問題になる半グレ集団の犯罪に重なる。逆恨みした半グレが個人を攻撃した問題と捉え直すべきではないか。そのような典型的なストーカー犯罪と異なる半グレ犯罪に対応できているか。

埼玉県警は執拗なストーカー行為に全く動こうとしなかった。埼玉県警は半グレの味方ではないかと思わせる対応であった。この事件は民事不介入を金科玉条にした警察の消極主義が批判される傾向にあるが、戦前の警察国家の反省は重要である。批判されるべきは半グレの味方をするような埼玉県警のスタンスではないか。

この事件で問題になった埼玉県警は風通しの悪い組織の典型である。「上司の意見に合わせる」「文句を言わず黙って従う」「面倒な情報は上司に伝えない」(「【図解】コレ1枚でわかる「風通しの悪い組織」と「風通しの良い組織」」ITソリューション塾2015年7月23日)

「ザ・スクープ」が桶川ストーカー殺人事件を世に知らしめた功績は大きい。そこは高く評価するが、マスメディアという権力が警察権力と対峙したようにも見える。「マスメディアで取り上げられたから」という話になると、隠蔽された警察不祥事が大手を振る社会になってしまう。その意味では、その前から事件を調べ、殺人犯を捜し当て、警察の腐敗を暴いた一人の週刊誌記者の功績がより大きい。その犯罪ノンフィクションをまず読むべきである(清水潔『桶川ストーカー殺人事件 遺言』新潮文庫)。

『桶川ストーカー殺人事件 遺言』は埼玉県さいたま市浦和区の須原屋ではポップ広告でプッシュされていた。埼玉県警の不祥事であり、埼玉県民ならば読むべしと。読んでいて埼玉県警の傲慢さや責任逃れ体質に腹が立って仕方がない書籍である。精神衛生上良くないが、埼玉県民は知る必要がある。

閑話休題。本書の著者の鳥越俊太郎は2016年東京都知事選挙では失墜した。しかし、本書では良い仕事をしている。2016年都知事選挙の鳥越候補の失墜は、若年層や現役世代のリベラル離れ、リベラル嫌悪を象徴する出来事であった。その意味では戦後民主主義を守るという若年層や現役世代に響かない話よりも、桶川ストーカー殺人事件の追及のような具体的な社会問題に取り組むことが立て直しの処方箋になるだろう。