小山鉄郎『白川静さんに学ぶ これが日本語』(論創社、2019年)は日本語の体系的なつながりを紹介する書籍である。白川静さんは国文学者にして漢字学の泰斗である。

本書は「ものしりともののけ」のように二つの日本語を紹介する章で構成される。日本語の繊細さや奥深さを感じさせる。本書には「内」「外」意識のように日本人論で散々論じられた内容がある(90頁)。一方で新鮮な説明がある。

「あざやかとあざむく」では「あまりに鮮やかに欺かれると、怒りを忘れて恐れ入りましたと思ってしまうこともありますね」と語る(46頁)。私自身は欺かれると腹が立つ。欺かれた怒りを忘れることはない。本書のように恐れ入ったと感じることは全くない。

しかし、これは日本人論として深いところを突いている。日本人には、だまされる方が悪いという発想がある。その場しのぎの口約束で誤魔化すことへの罪悪感が薄い。「終わり良ければ全て良し」や結果オーライの発想も強い。公正さ(フェア)を求めるグローバルな価値観から乖離している。それは鮮やかと欺くをつながりのあるものとする思想に源流があると考えれば納得できる。

「和」の説明も興味深い。一般に「和」は日本人の美徳と捉えられる。これに対して本書は「講和して戦争をやめ、平和の状態にもどすということは、別の味方をすると戦争に勝てなかったということです」とする。それ故に「本来不本意なことをしのんで、心を休めるという受身的な意味のある語」となる(45頁)。和を好む日本人は権利意識に欠け、隷属意識が強いとの見方も成り立つ。令和という新元号が始まる時期に考えさせられる。