額賀澪『獣に道は選べない』(新潮文庫、2019年)は人間に化けて東京で生活する化け猫・谷中千歳を主人公とした青春小説。『猫と狸と恋する歌舞伎町』の続編である。前作のタイトルはメルヘンチックである。これに対して本作品のタイトルは哲学的で重たい。話の内容も、この重たいテーマを扱う。

千歳のような変化能力を持つ化け猫は、猫の社会では忌み嫌われている。千歳は家族からも疎外され、人間に化けて大学生として生活していた。ドーナツ屋でアルバイトしていた愛宕椿に出会って付き合うことになった。

ところが、彼女の正体は化け狸で、父親は新宿歌舞伎町を根城にする化け狸の互助会の任侠団体・愛宕組の組長であった。千歳は愛宕組に拉致され、無理やり加入させられる。これが前作の話である。化け狸は多摩の野山に暮らしていたが、開発で住めなくなり、人間に化けて都会生活を送っていた。アニメ映画『平成狸合戦ぽんぽこ』のその後の世界である。

本書は千歳を拉致した実行者の化け狸で、千歳の監視役にもなっている諏訪との話が中心である。諏訪は比較的最近になって都市生活を始めた狸である。人間への変化は上手くなく、不器用である。都市で生まれ育った狸からは「山臭い」と馬鹿にされる。狸の世界でも都会と田舎の差別が生じるとは興味深い。

狸はインフルエンザにかかると人間に化けられなくなる。そのためにインフルエンザの流行には気を使っている。そうであるならば危険ドラッグなどの依存性薬物を摂取した場合も問題だろう。任侠団体であるが、依存性薬物のシノギは御法度だろう。

千歳は大叔父から「お前の人生はお前にしか決められない」との言葉をもらっている。この言葉を座右の銘にするならば、愛宕組に拉致され、無理矢理に加入させられ、いいように使われている現状は不本意なものである。「頼んでいるように見せかけて実は選択肢を奪っている」(237頁)。自己決定権の侵害である。

これに対して歌舞伎町の化け狸は「自分の道は選べない」と主張する。これは「お前の人生はお前にしか決められない」と相反するが、本書では矛盾しないとする。選べないから、その道が正しい道になるように試行錯誤しながら歩いていく。たった一つの選択肢を正解とするようにする(238頁)。

物語としては上手にまとめたと感じる。本書の英語タイトルは「The Only Way of the Beast」である。獣の道は一つだけという意味になり、一つの道を正しいものにしていくという本書のテーマにより近づく。

しかし、日本の現実を考えると、強いられたり、誘導されたりした道から撤退するという選択肢がもっと尊重された方が良いと思う。主人公も谷中という逃げ場所があることが救いになった(136頁)。そのような場所を持つことも必要だろう。