浦沢直樹『MONSTER』はドイツを舞台としたサイコ・サスペンス漫画。人を殺すことを何とも思わない怪物的な人間をめぐる物語。日本人外科医が主人公。『ビッグコミックオリジナル』連載作品。アニメ化された。第1巻は『白い巨塔』のような病院の権力闘争が色濃い。医者としての仕事とは無関係な要素でポストが左右される不合理さが描かれる。

その後は冤罪という要素が加わる。ドイツ連邦捜査局のハインリッヒ・ルンゲ警部は驚異的な記憶力や犯人の気持ちになりきる推理力を有している。優秀な捜査官という設定なのだろうが、相手を追い詰めすぎて自殺に追いやり、警察署内の地位を失ってしまう。その後も犯人を示唆する発言で相手を追い詰めて刺されてしまう。他人の気持ちになりきることができるならば追い詰めすぎるとどうなるか想像できそうなものである。権力を持っている側の驕りを感じる。

さらに物語の主題の事件に対しては思い込みの主観捜査で冤罪を生み出している。愛媛県警の女子大生誤認逮捕と変わらない。日本人が描く優秀な捜査官となると、思い込み捜査による冤罪は避けられなくなるのだろうか。

ネオナチの流布や移民の増加という社会情勢が背景に描かれる。ネオナチの構成員はチンピラ・ヤンキー的である。日本でも暴走族がハーケンクロイツを掲げるなどヤンキーとナチスは親和性がある。本物のナチスはヤンキーとは対極の存在に思われる。本物のナチスならばヤンキーを軽蔑し、排除しようとするのではないかと思われるが、どうだろうか。少なくとも本作品のMonsterにとってネオナチは紛い物に過ぎないようである。ネオナチの期待に応えないことは納得の展開である。