天王寺大著、渡辺みちお画『白竜HADOU(5)』(ニチブンコミックス、2017年)は「神の調合師」編の続きである。「神の調合師」編は日本人技術者の海外企業への引き抜きを扱う。

白竜は韓国企業のエージェントとなり、引き抜きを進める側で動く。日本人技術者の海外流出は「国益」という観点では好ましくないとされるが、個々の技術者にとっての幸福が重要である。滅私奉公を要求するようなものであってはならない。白竜はシノギのために行動するが、正義感を持っており、巨悪を叩く結果になることが本作品の魅力である。

この話に登場する企業経営者や官僚は、この上なく卑劣である。海外企業への引き抜きと正義感は見事に両立する。冤罪をつくる悪徳警官を暴力で脅す白竜が勧善懲悪のヒーローに見える。

企業経営者や官僚の愚かなところは、技術者が人間であることを理解していない。モチベーションによって能力を発揮する。無理やり会社に縛り付けて働かせたところで、業績が上げられるものではない。困難な状況でも頑張って最善の結果を出すという昭和の価値観は時代遅れである。

企業経営者は社内での自己の支配権確立しか頭にないため、刃向うものに容赦しないという強硬姿勢は、まだ理解できる。彼にとっては優れた燃料電池の完成は二の次だろう。しかし、官僚が悪徳警官を使って技術者を傷つけることは愚かである。それでは燃料電池の国際競争に勝てるものも勝てなくなる。

本書の韓国企業は明らかにサムスンをモデルとしているが、白竜に対して真摯に対応している。これまでの話で多くの日本企業の経営者が白竜に無礼な態度をとったこととは対照的である。白竜に無礼な態度をとり、痛い目に遭った経営者もいる。また、本書の韓国企業は日本市場の官僚主導体質も批判している。この点も引き抜きに感情移入したくなる。