貧困ビジネス

林田力 貧困ビジネスと東京都


東京都足立区舎人で貧困ビジネス反対運動が起きている。問題は「特定非営利活動法人やすらぎの里」(中野区弥生町)の無料低額宿泊所「やすらぎの里 舎人寮」である。この問題を取り上げている針谷みきお足立区議会議員のブログには以下の反対コメントが寄せられている(「貧困ビジネス進出をゆるさないー「やすらぎの里舎人」」『針谷みきおの一言』2013年3月14日)。

「このようなビジネスがあること、またその施設が舎人に作られようとしているなんて、びっくりしました」

「断固反対です」

「そんな施設ができては困ります」

「住民として何でも協力しますので断固建設を阻止しましょう」

「建物を作ったらあれよあれよという間に貧困ビジネスの寮になってしまいます」

住民は2013年5月29日に「無料低額宿泊所等の設置運営に関し、国において制度の整備を求める意見書提出についての陳情」を区議会に提出した。陳情は7月3日に採択された。

「やすらぎの里」(本部・東京都中野区)は2008年度決算で、施設入所者の生活保護費を元手に、年間6218万円もの利益(税引き前当期純利益)をあげている。赤旗が、さいたま市に対して行った行政情報公開請求で入手した決算資料による(今田真人「貧困ビジネス「やすらぎの里」生活保護費ピンハネ」しんぶん赤旗2010年6月16日)。

「やすらぎの里」は過去にも施設建設でトラブルになっている。2006年には大田区で虚偽の開設目的を説明されたと怒った地域住民の反対運動が起こり、宿泊所の開設が中止になっている。「大田区のやすらぎの里開設に反対する会」住民は「「やすらぎの里」開設・開業反対に関する請願」を東京都議会に提出した。

板橋区の施設建設でも住民に対して虚偽説明を繰り返した(田代正則「貧困ビジネスに批判 住民ら「悪質業者来るな」」しんぶん赤旗2009年10月11日)。

(1)近隣住民には「3階建ての老人施設」を建てると説明したが、途中で「5階建ての宿泊所」に変更した。

(2)路上での立ち話や住民側からの問い合わせしか行われていないのに、板橋区には、区の要綱で定められた住民説明会を開いたと報告した。

(3)宿泊所の部屋数も、住民には37室(1室14平方メートル)で1室1人と答え、区には81室(1室7平方メートル)の建設案を示した。
http://hayariki.net/poli/poverty.htm
2010年に起きた江東区の建築紛争でも「やすらぎの里」との関係が問題になった。建築紛争は山廣建設株式会社が施工するワンルームマンションに対するものである。住民の交渉相手と称した人物は山廣建設の専務取締役と名乗ったが、取締役どころが従業員でもなかった。

その後、その人物は住民向け説明会で「やすらぎの里」理事と説明した。「やすらぎの里」設立当時の代表者であった。「やすらぎの里」の設立当初の所在地は「中野区本町五丁目14番23号」であり、これは山廣建設株式会社の所在地と同一である。

大田区の「やすらぎの里」施設建設反対運動でも、「住民説明会で山廣建設株式会社なる名刺を事業代表者が差し出した」という(東京都議会厚生委員会、2006年9月15日)。

『貧困都政』貧困ビジネスの救い難さ

東急不動産だまし売り裁判―こうして勝った
東急不動産だまし売り裁判―こうして勝った [単行本]

永尾俊彦『貧困都政 日本一豊かな自治体の現実』(岩波書店、2011年)は貧困と格差が蔓延した東京都政の寒い実態に迫ったルポタージュである。『貧困都政』は冒頭で貧困ビジネスを取り上げる。築地市場移転問題やオリンピック招致の無駄遣いなど興味深いテーマが続くが、本書評では貧困ビジネスに的を絞る。

貧困ビジネスには貧困者を搾取する極悪非道の連中というイメージがある。この理解は一つの真実である。現実に石原都政でも宅建業法違反で業務停止処分を受けた悪質なゼロゼロ物件業者は存在した(東京都都市整備局「宅地建物取引業者に対する行政処分について」2010年6月8日)。これに対して『貧困都政』では貧困ビジネスが生まれる背景である行政の責任放棄にメスを入れる。資本主義に放任するのではなく、政治に反貧困の意識が求められる。

貧困ビジネスには貧困者を食い物にして暴利を貪るとイメージがある。しかし、『貧困都政』が取り上げた貧困ビジネスは「赤字か黒字かの境界線上をさまよっていたようで、少なくともボロもうけしていた形跡はない」とする(20頁)。ここに貧困ビジネスの救いがたい実態がある。貧困ビジネス自体が赤字か黒字かというギリギリのところにあるために、貧困者を劣悪なゼロゼロ物件に住まわせるという非人道的なことを平然とする。貧困ビジネスは「貧すれば鈍す」が実態である。

そして、この事実は貧困ビジネスとの闘いが不毛でないことを示している。貧困ビジネスは資金が続かなければ破綻するからである。現実に東京都から業務停止処分を受けたゼロゼロ物件業者は姑息にも名前や代表者名、免許番号を変えて営業を続けたが、それから一年で消滅した。さらに名前を変えて新たな営業を始める危険はあるが、貧困ビジネスへの批判を続けることが消費者運動の勝利をもたらす。
http://www.hayariki.net/10/26.htm

ワタミ渡邉美樹と吉野敏和の隠蔽体質

ブラック企業と批判される渡邉美樹(渡辺美樹)ワタミ会長であるが、隠蔽体質という点にも注目すべきである。カリスマ経営者ともてはやされる渡邉氏であるが、雑誌『週刊金曜日』上で痛烈に批判された(村上力「居酒屋ワタミが事故を隠蔽工作」『週刊金曜日』2010年11月5日号)。

東京都世田谷区の居酒屋「語らい処 坐・和民」三軒茶屋駅前店では2010年9月に20名の発症者を出すノロウイルス食中毒事故を起こして営業停止処分を受けた。しかし、一時閉店を知らせる店頭の張り紙は「設備改修および店内清掃」を理由とし、食中毒の事実に触れなかった。

記事はワタミの隠蔽工作を批判した上で、従業員に渡辺氏の個人崇拝を行っているなどとワタミの企業体質に踏み込む。渡邉氏は「何があってもウソはつかない。それは利益よりも大切だ」と語っていた(「社長の腐敗 「安易な道」を選ぶから不祥事が起こる」日経ベンチャー2007年12月1日)。そのカリスマ経営者の矛盾を暴露した力作記事である。

記事はカリスマ経営者の率いる企業の隠蔽工作ということで話題になったが、行政処分などの都合の悪い事実を隠す体質は日本の問題企業でありふれたものである。

たとえば賃貸仲介不動産業者・グリーンウッド(グリーンウッド新宿店、吉野敏和代表)の事例がある。グリーンウッドは賃貸借契約書に記載なく退室立会費を受領したなどとして宅地建物取引業法違反で東京都から業務停止処分を受けた(東京都都市整備局「宅地建物取引業者に対する行政処分について」2010年6月8日)。業務停止処分期間中はウェブサイト上での物件紹介も禁止される。ところが「住まいの貧困に取り組むネットワーク」によると、グリーンウッドは自社ウェブに以下の表示をしたという。

「只今 ホームページ調整中です。物件リストを6月19日には掲載いたしますので、今しばらくお待ち下さい。」

これに対して同ネットワークは「ふざけた記載」と怒りを顕わにする(住まいの貧困に取り組むネットワーク ブログ「シンエイエステートとグリーンウッドに対して東京都が行政処分」2010年6月8日)。

http://housingpoor.blog53.fc2.com/blog-entry-106.html

その後、グリーンウッドは別の免許番号・代表者でアトラス(東京都知事(1)第93815号、中西真琴)としてゼロゼロ物件の営業を続けるという卑怯な態度に出た。当然のことながら、消費者の批判はなくならず、アトラスは遅くとも2013年3月には廃業した。これは消費者運動の勝利である。

東京都の報道発表資料によると、グリーンウッドは資本金0円で、東証一部上場のワタミとは比較にならない。それでも行政処分隠しという点で同レベルの活動をしていることは興味深い。ワタミの隠蔽工作をカリスマ経営故の異常性を捉えるならば視点を誤ることになる。革新的な経営者というよりも、日本企業の醜い点を巧妙に活用したというイメージが近い。都合の悪い事実を隠蔽する醜い日本の悪徳不動産業者と同レベルである。
http://www.hayariki.net/10/8.htm
この視点は立候補者評価としては非常に重要である。渡邉氏にはブラック企業批判がなされているが、カリスマ経営者故の異常性と位置付けてしまうならば、型破りの候補者を求める有権者に逆に魅力的に映ってしまう。反対に隠蔽体質の日本企業と変わらないと位置付けることで、つまらない保守系候補の一人としてカリスマ性を奪うことができる(林田力「都知事選出馬の渡辺美樹・ワタミ会長の経営の評価」PJニュース2011年2月21日)。
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