松尾雅彦『スマート・テロワール 農村消滅論からの大転換』(学芸出版社、2014年)はカルビー元社長による日本の農業の提言である。スマート・テロワールは地域内で完結した自給圏を意味する。地域の農作物を地域の工場で加工し、新鮮なうちに地域の消費者に届ける。流通コストが抑えられ、味も価格も良いものが提供できると主張する。

私は脱中央集権化という方向性は全面的に支持する。全体最適で仕様を統一して生産性を上げて大量生産するという発想は昭和のものである。一方で今や意欲のある農家ほど地理的な枠組みを超えて、遠方の都市部の消費者や飲食店と直接取引する傾向がある。しかも、そのような意欲のある農家に農協が取引制限をするなどの村社会的な実情も残っている。地域の自給圏という発想が地域を超えて新しいことを行いたい農家の阻害要因として働く可能性も考えられる。

実際、著者の成功例は契約栽培によって市場価格の30%オフを実現したことである。農家が需要者の要望に直接応えることで、需要者の求めるものを低コストで供給することに成功した。地域自給圏を絡ませる必要はない。

本書は具体的な提言として、耕作放棄地や有効活用されていない水田を畑や放牧地に転換すべきとする。水田に偏重する「瑞穂の国」幻想への批判であり、パラダイムシフトを目指すものである。米の需要が減り、米以外の食物の需要が増えているならば、それに応じた供給をすることは産業人として当たり前のことである。その当たり前の市場原理が機能しないところに補助金漬けの農政の病理がある。

一方で水田は保水力があり、連作しても土壌が痩せないという環境面のメリットがある。だから需要ということで水田を畑や牧草地に転換して良いかという思いはある。勿論、耕作放棄されて荒れるよりは良いだろう。私は消費者として「ご飯派」となり、米の需要にささやかながら貢献している。