本稿はブラウザゲーム「艦隊これくしょん」について述べる物で、アーケード版並びにコンシューマ版については一切触れない。

本題に入る前に、そも「ゲームとはいかなるものか」という定義の話をする。商品としてのエンターテイメント・コンピュータプログラムは大雑把に「ゲーム」としてくくられているが、その中には「ゲームとして成立していない」ものも含まれるからだ。

「ゲームとはプレイヤの行動を評価し、プレイヤから結果が見えない状態」を差す。

例えば、健常者にとって「二足歩行による100メートルの移動が出来るか」は「ゲームとして成立しない」が、「移動にかかるタイムを競う」場合ば「ゲームとして成立する」。

以上を踏まえて本文を読み進めてもらいたい。

艦これは運ゲーである、ということ


艦隊これくしょんのゲームフローを、戦闘(出撃)に限って以下の図に示す。
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プレイヤが行動できるのは(スキルを発揮できるのは)、角丸で囲った箇所のみである。戦闘の結果を支配するのはプログラムによる抽選であるので、艦これはパチスロと同じく「Game of chance」つまり、「運ゲー」であるといえる。
Game of chanceの場合、プレイヤが取れる行動は限られてくる。より確率の高いものにベットするか、試行回数を増やすかのどちらかだ。パチスロでいえば前者は「ゾーン攻略」であるし、後者はパチンコでいう所の「ボーダー収支」である。
艦これでの場合、コンディション値や運のパラメータを上げることで、高確率状態を任意に選択できる。
また、資源とバケツを溜めることで試行回数を上げることが可能となっている。

艦これにおけるプレイヤの評価


(コンピュータ)ゲームである以上、プレイヤは評価の対象となることを逃れることが出来ない。Free-to-Play(F2P)ゲーム、特にDMMのようなコンテンツプロバイダが胴元となっているF2Pゲームにおいて重視されるのはアクティブユーザの獲得であるので、当然、プレイヤの評価もログイン頻度に比例したものでなくてはならない。
つまり、毎日ログインしてデイリー任務を滞りなく消化し、資源と修復バケツを溜め込むといった行動を評価することこそが、艦これというF2Pゲームに課せられた役割である。
そういう視点で言えば、艦隊これくしょんというゲームそのものもまた、DAU獲得レースというゲームの評価にさらされているといえる。
艦これにおけるプレイヤの評価軸は「運ゲー」であるという点から鑑みるにきわめて合理的なもであり、またそれがプラットフォーマーの利益にも繋がる優れたデザインであると評価して良い。

艦これの報酬系


ゲームにおいてプレイヤのモチベーションを喚起するのは、何といっても報酬である。コンピュータゲームにおいてはゲーム内アイテムがそれにあたるのだが、報酬系は何も「ゲーム内部で」完結するものばかりではない。パチンコによって獲得できる景品は金銭に交換することが出来るし、スポーツ大会で優勝すれば大きな栄誉とそれに付帯する利得が得られる。
8~90年代の家庭用ゲーム機全盛期を振り返れば、「ゲームをいち早く攻略したプレイヤ」は、すぐさま中古品を売りに出せば大きな利得を得ることが出来た。こうしたゲーム外部の利得構造を抜きにプレイヤの行動原理を説明することは不可能だ。「昔は夢中でゲームをプレイする人間が多かった」のは、単にそれが利得に直結していたからであって、そのスキームが破綻すると同時に、国内のパッケージゲーム市場は凋落の一途を辿ったのである。

では、艦これの報酬系とはどのような構造になっているか。(イベント)マップをクリアすればレア艦や装備品が手に入るが、それはさほどの意味を持たない。難度によって得られる報酬が変更されるが、それとてゲーム結果を支配するような効果があるわけではないので、最低難度(丙作戦)を選択したとしても不利益を被ることはほとんどない。
ゲーム内で得られる報酬がさほど魅力的でないにもかかわらず、なぜ艦これがプレイヤのモチベーションを高く保てるのかといえば、報酬系がゲーム外部に存在するからである。

艦これのゲーム構造を再度見直してみよう。艦これはGame of chanceであり、一人プレイのゲーム、つまりゲーム理論的には「一人対自然」ゲームである。なぜ人為的に作成されたプログラムが「自然」なのか、というと、プレイヤに対して利害関係を持たず、だた決められた確率で抽選を行うだけであるのでこれは「自然」として扱われる。
プレイヤはプログラム内部でどのような抽選・選択が行われているかゲーム画面から直接うかがい知ることは出来ない。ただし、ゲーム結果から逆算して情報を得ることができるので、試行回数を上げればそれだけ勝率を上げることが可能だ。
全くの運次第と思われていたものでも、データを統計することで法則・規則性が判明する。艦これを取り巻く状況で最も興味深いのが、支援ソフトを利用した大規模な統計データベースの存在である。(もっとも、これと似たようなシステムはパチンコ市場において数十年以上前から広く使われている)
実際の所、艦これはGame of chance、運ゲーと呼ばれる要素をそぎ落とす方向に進化している。イベント海域における「ルート固定編成」「能動分岐」の導入はその最たる例だ。プレイヤのスキルによってゲーム結果が大きく左右されることになるが、これはゲーム構造を脅かす諸刃の剣といっても良い。
冒頭で「ゲームとはプレイヤから結果が見えない状態」であると定義したことを思い出してほしい。艦隊編成や分岐選択といったプレイヤの行動・スキルが完全にゲーム結果を支配した場合には、プレイヤから見える結果は固定的なものになるので、ゲームとしては成立しなくなる(加えていえば、世の中にはそのようなコンピュータ”似非”ゲームが腐るほど存在する)。艦これは戦闘結果が運ゲーであることで、辛うじてゲームとしての構造を維持しているに過ぎない。
これは、トランプでの神経衰弱とよく似ている。神経衰弱が「ゲームとして成立」しているのは、カードが裏返しにおいてあり、プレイヤは表の数字を知ることができないからだ。だが、繰り返しプレイすることによってカードの情報は徐々に明らかとなり、最後はすべてのカードの組み合わせを当てられてしまう。
仮に、まったく同じカードの並びで神経衰弱を繰り返したならば、それはもはやゲームとして成立しない。プレイヤーのスキル(記憶)は蓄積されてゆくからだ。
艦これも同じ「不完全情報ゲーム」としての性質を持っている。ただし「繰り返しプレイする」プレイヤは一人ではなく、何万人と存在し、互いに記憶・情報を交換している。

前置きが長くなった。報酬の話に戻そう。

艦これは「一人対自然ゲーム」であることはすでに述べた。そして、出撃マップの攻略に限れば各プレイヤの利害は互いに隔絶されており直接的なライバル関係にあるわけではない。
※ランキング報酬という点では利害関係にあるといえようが、自分がどのような戦略を選択したとしてもそれで相手の行動を直接左右することができないので、ランキング上位を目指すすべてのプレイヤにとって最善策は「限界まで出撃を繰り返す」事しかあり得ない。よって、ここではその対立を無視することとする。
プレイヤは艦これという不完全情報ゲームをプレイするとき、ただやみくもにカードをめくる〜出撃するわけではない。なぜならば、ネットを検索すれば自分よりも先行しているプレイヤの膨大な情報にアクセスすることができるからだ。
中級以下の艦これプレイヤーは、より有益な情報を求めてネットをさ迷うことになるが、それはいち早くゲームを攻略した上級者によってもたらされる。

つまり上級者は、攻略によって自らが得た情報を公開することで、これら中級者以下の羨望を集めることができ、そしてネット時代においてはそれはアクセス数、PVに換算され、栄誉以上の利得を上級者にもたらすのだ。

艦これがもし「運ゲー」ではなく、艦隊編成・装備やレベリングといった「スキル〜情報〜記憶」によって結果が固定されてしまうような脆弱なゲームであれば、攻略情報の公開はネタバレとして忌避の対象になるだろう。なぜならばプレイヤが望むのは「(心地よい)ゲームプレイ」であって、その条件を満たすためには「結果がわからない状態」でなければならないからだ。また、プレイヤ同士が直接的な利害関係にあった場合、当然のことながら上級者は情報を独占しようと試みるだろう。

艦これ上級者にとって、報酬系はゲーム外部に存在する。そしてその「情報に価値がある」からこそ、上級者のモチベーションを高く保つことができるといっても良い。中級以下のプレイヤでもゲーム画面から簡単に推測できるような情報であれば、わざわざ攻略サイトを読みに行ったりはしないからだ。

アーリーアダプタ、上級者に対するゲーム外の報酬系の存在こそが、艦これというブラウザゲームが強いソーシャル性を持ち、ブームが長続きしている所以である。そして、上級者のモチベーションを高く保つために、艦これは中級者が根をあげてしまうほど「高難度で、ゲームとして不親切」であらねばならないのだ。

これは一見、初心者並びに中級者を省みない施策の様に思えるだろう。だが、攻略に有益な情報が自由に流通している状況の方が結果的には「易しい」のである。無駄な資源を浪費することなく、常に最善手を選択できるのだから。

艦隊これくしょんというゲームをどう評価すべきか


艦これの運営サイドのバランス感覚が優れているのは、情報の価値を高める〜難度を上げるといった上方修正を行った際に、プレイヤの不満が蓄積しやすい「運ゲー」の要素を可能な限り排除したことにある。攻略まとめサイトなどで2015年夏イベント海域の攻略記事を参照してほしい。ほとんどすべての海域で「ルートを固定する編成」が存在し、抽選による分岐を行っていないことがわかるだろう。先にも述べたがこれはゲーム構造において諸刃の剣である。必ず同じルートを通り、同じ編成の敵と遭遇するならば、結果は自ずと収束されてゆくからだ。

それでも、戦闘結果が抽選によって決定される以上「ゲームをクリアできない」といった不満が出るリスクを完全に避けることはできない。上級者と違い「ゲーム外報酬」を得られない中級以下のプレイヤーにとってはなおさらであろう。だがそれも、今回のイベントに伴うバージョンアップによってダメージ回復アイテムを追加装備できるギミックが追加されてしまった。
これによって艦これは「運ゲー」の要素がまたひとつ減り、一見するとユーザに対して易しくなったように見える。が、断言しても良いが、次のイベントにおいては「これを装備している」ことを前提とし、更なるギミックの複雑化・高難度化が施されることは必須である。なぜそうならなければならないか、という理由についてはすでに十分すぎるほど述べた。

艦これがこの先ゲームとして破綻するときが訪れるとすれば、ゲームの構造を理解しようとせず「運ゲー」であることを異常なまでに忌避した近視眼的なプレイヤたち自らが招いたものだと断じても良い。

今回2015年夏イベントをクリアできたプレイヤも、徒に他のプレイヤを挑発して苛立たせることなく「たまたま運が良かった」と謙虚に受け止めておくことが、結果として艦これのゲーム構造・バランスを保ち、サービスが長続きすることに繋がると留意しておいてほしい。

艦これが「良くできたゲーム」であるのはそれが「運ゲー」だからであり、だからこそプレイヤはネタバレといった些末な事に気を煩わされることなく、自由に情報を交換し、互いに語り合えるのだから。