クラシックおっかけ日記

指揮者アダム・フィッシャーのおっかけ記録、音楽の話、海外生活など

ハイドンフィルの「天地創造」演奏会

実は先週の土曜日、1月14日にはアイゼンシュタットのハイドンザールでニコラス・アルトシュテット指揮のハイドンフィルハーモニーによる「天地創造」の演奏会が開かれた。この演奏会はエステルハーツィー家がハイドンザールで主催する演奏会シリーズの幕開けで、ハイドンフィルの演奏会シリーズ以外にも有名なソリストや楽団が客演する。

エステルハーツィー家はハイドンの雇い主だったけれど、その後200年以上続いていて現在でもオーストリア有数の財閥だ。一族が所有していた財産は現在では個人ではなく企業として管理されているのだが、ハイドンフィルハーモニーはハイドンザールのレジデンス・オーケストラとしてエステルハーツィー・エステートの支援を受けることになった。

さすがに企業の支援があるとマーケティングには力が入るらしく、この演奏会は昨年ORFが始めたインターネットのストリーミングサービス「フィデリオ」で生中継された。「フィデリオ」側としてはまだ始めたばかりなのでライブ・コンテンツが不足している事情もあるのかもしれないが、アダム・フィッシャーの指揮するハイドンターゲでも映像収録は無いことを考えると、主催者であるエステルハーツィー家のマーケティング戦略の一環とも思われる。ブルゲンランド州のコンサート企画組織であるハイドンフェストシュピーレにはそんな影響力は無いだろう。だから「フィデリオ」の広告を見た人は、アルトシュテット指揮ハイドンフィルの「天地創造」は放送に値する素晴らしい演奏だと感じるかもしれない。

私はその演奏会は中継も観ることができなかったので批評記事を探したのだが、驚いたことに全く無い。生中継するほど注目される演奏会なら、新聞各紙が批評家を派遣してもおかしくないのに。批評は良いに越した事は無いが、悪い批評でも価値があると考えているから記事になる。もし何も批評が無ければ新聞各紙に無視されてしまった事になる。これはオーケストラにとっては良くない。

その辺の事情はオーケストラではなくてエステルハーツィー側にある。ブルゲンランド州はハイドンフェストシュピーレを創設して、30年近くに渡ってハイドンターゲはじめハイドンザールでの演奏会を開催してきた。ところがホールの持ち主であるエステルハーツィーはホールのリース契約の延長を拒否したのでハイドンターゲは別の場所を探す必要に迫られた。この紛争でハイドンフィルはエステルハーツィー側についたが、アダムは双方の和解を促すために中立の立場を取った。今年はデンマーク室内管を連れて新生ハイドンターゲに出演するが、来年以降は双方が和解しないかぎり出演しない意向だ。

そういう背景があるから、批評記事で好評すれば親エステルハーツィ、酷評すれば親ブルゲンランド州政府とみなされかねない。だから記事に取り上げないのかもしれない。オーストリア国内では公演の批評記事は重視されるから、演奏会の出来以外の要素で批評が掲載されないというのはオーケストラにとっては良くない。この不自然な状況の対立が早く解決して欲しいのだが、当分は意地の張り合いでどうしようもなさそう。

アダム・フィッシャーとウィーン国立歌劇場

アダム・フィッシャーは19歳になった時、ドイツ語も全く話せなかったのにウィーンに出てきてウィーン芸術大学で勉強を始めた。その時はほとんど毎日劇場に通い詰めて、一番上の舞台の見えない席から巨匠たちの作り出す音楽を聴いたのだそうだ。大学卒業後ウィーンのコレペティとしてピアノを弾きながら、先輩指揮者たちのリハーサルに参加した。その時に知り合った指揮者の一人がカール・ペームで、ピアノを弾いていたら「楽譜の黒い部分だけ音を出せばいい。白い部分まで弾けては言ってないだろう。」と厳しく叱られた。巨匠に嫌われたとその時はものすごく落ち込んだのだけれど、実はベームはアダムの事を評価していて、自身が病気になった時の代役としてミュンヘンに推薦してくれたのだとか。これがメジャーデビュー。

ミュンヘンでの評判も良く、すぐにウィーンからもデビューの話が舞い込んだ。デビュー公演は1980年9月13日の「オテロ」。当時31歳になったばかりで、実は息子さんが15日に生まれたので、終演後ミュンヘンに駆けつけて16日の2回目の本番には戻って来た。今も昔も本番の後に慌しく移動するのは変わらない。

最初の新制作が1982年4月の「売られた花嫁」で、ルチア・ポップやジークフリート・イェルサレムらが出演。これはビデオ収録されたので今でも観ることができる。以降新制作はグルベローバ主演のマスネの「マノン」、今でも多分レパートリーに残っている「カヴァレリア・ルスティカーナ」と「パリアッチ」、ドニゼッティの「マリア・シュトュラーダ」、ポンキエルリの「ジョコンダ」などの新制作を毎年のように担当した。この内の多くは映像収録されたので今でも若き日のアダムを観ることができる。当時は年末恒例の「こうもり」もやっていた。

1980年のデビューは実はアバドよりも1年早かったと思う。31歳でデビューして30代でウィーンの新制作を毎年のように担当していたわけだから、今ならドゥダメルやネルソンス以上に騒がれていたかもしれない。その頃日本にも客演しているのだが、当時は巨匠の時代で若手なんて相手にされなかった。

1990年以降は新制作ではなくレパートリー公演の担当が多くなった。定番の「オテロ」と「フィデリオ」に加えてドニゼッティなどのベルカントが主流。歌手にフレンドリーな指揮者なのでグルベローバらが主演する時によく呼ばれていた。

ウィーンのレパートリーがドイツ物に変わったのは今世紀に入ってから。1999年の9月に「フィデリオ」の公演があったのだが、とても良い公演だったので終演後に当時の支配人だったホーレンダー氏がやって来て、リング・サイクルと「薔薇の騎士」をたのまれた。ワーグナーやシュトラウスはウィーンでは重要なプログラムだから、アダムはとても喜んで契約書を見せてくれた。リングの本番はバイロイトよりも後になったけれど、契約したのはずっと前だったわけ。その点ホーレンダー氏は先見の明がある。

21世紀に入ってからはリングや「パルジファル」、「薔薇の騎士」、「フィデリオ」に加えてモーツァルトの作品を頼まれた。支配人がメイエールに代わってからは、当時のGMDウェルザーメストが病気で倒れた時に穴埋めをしている。辞任してからはペーター・シュナイダーとともにドイツオペラの担当者として支配人から頼りにされている。だから感謝の印として名誉会員に推薦したのだとか。

手元のデータによれば、アダムは過去にウィーン国立歌劇場で26演目を指揮していて、トップ10は以下の通り。
1. G. Verdi Opera "Otello" 49
2. L.V Beethoven Opera "Fidelio"; Op.72c 44
3. R. Strauss Opera "Der Rosenkavalier" 28
4. R. Leoncavallo Opera "I Pagliacci" 26
5. P. Mascagni Opera "Cavalleria Rusticana" 26
6. J. Massenet Opera "Manon" 18
7. W.A Mozart Opera "Le Nozze di Figaro"; KV.492 17
8. F. Smetana Opera "Die Verkaufte Braut" 17
9. G. Donizetti Opera "Maria Sturada" 14
10. W.A Mozart Opera "Die Zauberflote"; KV.620 11

11位の「ドン・ジョバンニ」は来週3公演あるので順位は変わる。

アダム・フィッシャー、ウィーン国立歌劇場の名誉会員に

ウィーン国立歌劇場は長年の功労を称え、アダム・フィッシャーを名誉会員の称号を贈ることを発表した。授与式は26日のドン・ジョバンニ公演の後。アダム自身は最近色々な賞を貰うので、「なんだか引退勧告を受けているような気がする」なんて言っていたのだけれど、ウィーン国立歌劇場への長年の貢献が認められてファンとしてはとても嬉しい。

名誉会員というのはウィーン国立歌劇場に貢献のあった芸術家や個人に与えられる称号の最上位。支配人が推薦し、従業員委員会と国立歌劇場連盟の承認により決定される。完全な名誉職で名誉会員になっても証明書以外はもらえなかったのだが、2004年から特注の指輪を贈答するのでリングトレーガーとも呼ばれている。だからアダムも指輪のサイズを測ったのだとか。

名誉会員は指揮者だけでなく歌手やオーケストラのメンバーも対象になり、元コンマスのライナー・キュッヒルやチェロ首席だったフランツ・バルトロメイも称号を受けている。亡くなった指揮者ではカラヤンやバーンスタイン、マゼールなどが名を連ね、現存する指揮者は小澤征爾、ペーター・シュナイダー、リッカルド・ムーティ、ズビン・メータ。

アダム・フィッシャーは学生時代にはほとんど毎日劇場に通ったし、コレペティとしての経験も含めるとウィーン国立歌劇場との関係は40年を超える。公演回数はウィーン以外へのツァーも含めて325回。ウィーン国立歌劇場のやり方を熟知していてリハーサルが少なくても質の良い公演ができるので、劇場関係者からはとても信頼されている。

26日の授賞式では感謝のスピーチをしなくてはいけないので、アダムはいま構想を練っている。

モーツァルトの罠

土曜日のリハーサルが終った後、アダムと一緒に対岸のニューハウン地区まで橋を渡って歩いて戻って来た。その時に聞いた面白いお話。

世の中にオーケストラはたくさんあるが、それぞれ異なった特徴がある。良いオーケストラは表現の幅があるので色々なタイプの演奏が可能だし、指揮者も経験が豊かな人はオーケストラの特徴を生かす解釈ができる。

指揮者が頑固だったり経験が少なかったりすると、指揮者の音楽をオーケストラに強制する事になる。その場合はどのオーケストラでも同じような演奏になり、オーケストラの良さが出ない。逆にオーケストラの主張が強すぎると指揮者のアイディアは関係なくなり、楽員にとってはいつもと同じ演奏でつまらない。普通はこの両極端の間のどこかに落ち着くわけだけれど、オーケストラにとっても同じ曲を演奏する機会は少ないから、それほど問題にはならない。

でもモーツァルトはちょっと違う。オーケストラの奏者でモーツァルトを演奏した事が無い人はまずいない。どの団体でも様々なスタイルの演奏を引き出しの中に持っていて色々試してみたい。でもアーノンクールらの古楽ブームにより、モーツァルトは古楽団体のレパートリーになってしまった。現代楽器のフルサイズ・オーケストラはマーラーやブルックナーなど大編成の後期ロマン派の作品が主流で、メインのプログラムにモーツァルトを持ってくることは難しくなっている。

現代楽器のオーケストラも自分達の持ち味を発揮したモーツァルトを演奏したいのだが、そのためには経験豊かなモーツァルト指揮者が必要だ。でも現代楽器のモーツァルトは1980年から90年頃のエレガントな演奏が主体で、古楽器のようなきびきびした演奏ができる指揮者は余りいない。アダム・フィッシャーはデンマーク室内管との録音で、現代楽器のモーツァルト指揮者として評価を上げた。だからウィーンフィルはじめ現代楽器のオーケストラからモーツァルトを依頼されることが増えたのだとか。色々なオーケストラから必要とされるという事は良い事なんだけど、モーツァルトに囚われてそれ以外の作品を演奏するチャンスが少なくなるのが問題。

アダム曰く、「1970年代にグラーツでオペレッタを振ったんだけど、指揮の大先輩が終演後にやって来て、『面白いオペレッタなんて振っちゃダメだ。オペレッタで成功するとオペレッタばかり頼まれて、それ以外の作品を指揮する機会がなくなる。』って言うんだよ。彼はとても良い指揮者でチャイコフスキーとか振りたがったんだけど、なかなかそのチャンスが回ってこなくてね。僕も最近モーツァルトばかり頼まれるから、その気持ちはわかるなぁ。」

一般のファンから見ると、確かに大型のオーケストラでマーラーやブルックナーなどを演奏すると巨匠扱いされやすいが、モーツァルトはいくら良い演奏をしてもまず名指揮者とは言われない。大型の現代楽器オーケストラの本流とはみなされていないからかもしれない。

とにかくアダムはしばらくはモーツァルトの仕事が多いらしい。とりあえず来週からはウィーン国立歌劇場で「ドン・ジョバンニ」がある。

No.354、 2017年1月15日、デンマーク室内管、マーラー4番他

2017年最初のおっかけはデンマーク室内管の日曜午後の演奏会。

Danmarks UnderholdningsOrkester
Dirigent: Adam Fischer
Violin: Daniel Lozakovich
Soprano: Anne Sophie Hjort Ullner

Ludwig van Beethoven: Violinkoncert
Gustav Mahler: Symfoni nr. 4


前半はベートーベンのヴァイオリン協奏曲。このオーケストラはアダムの過激なベートーベンに慣れているのだけれど、今回は15歳のソリストの音楽性に合わせた演奏。第一楽章などゆっくり目なので最初のリハーサルではオーケストラが飛び出すミスを連発。スタジオでのリハーサルは第一楽章のテンポが遅くてちょっと退屈な感じもした。第2楽章との差も乏しいし。でもソリストの音色はとてもきれいだ。

ところがコンサートの会場では印象が異なった。テンポはリハーサルと変わらないのだけれど、残響が長いので音がよく響く。とても澄んだ音の出せるソリストだからゆっくり演奏して響かせた方が良い。でもわずか16歳なのに、音色でベートーベンを聴かせるというのはなかなかすごい。

リハーサルではカデンツァは演奏しないから、技巧より音色で勝負するタイプかと思ったら、クライスラー作のカデンツァも楽々とひく。若い天才ヴァイオリニストといえば指が良く回る技巧的な部分をアピールする人が多いけど、ロザコヴィッチは技巧ではなく音楽性を前面に出しているところがすごい。今後もこの美しい音色を保って音楽性を広げて欲しい有望なヴァイオリニストだ。

お客さんのスタンディング・オペーションに応えてアンコールはバッハの無伴奏のソナタ。バッハはもう少し内面の経験が必要かもしれない。

20分間の休憩の後はマーラーの交響曲第4番。今シーズンはハイドンフィル、デュッセルドルフ響に続いて3回目。ハイドンフィルは大型オケのメンバー主体だしハイドンザールはマーラーには小さすぎるので、フォルテの部分は音が大きすぎて、小さい音で演奏させるのにとても苦労していたのだが、デンマーク室内管は普段は室内楽を演奏している音楽家が多いので、フォルテになるとちょっとパワー不足になる。だから逆に、「フォルテはもっと大きく」としきりに注意していた。反面ピアノの部分の音色は美しく、マーラーの室内楽的な部分を表現するには適している。ハイドンフィルとデンマーク室内管は通常の編成はほとんど同じなんだけど、それぞれ持ち味が異なる。3楽章のフォルテッシモなどもう少しパワーの欲しい部分もあったけど、第2楽章のホルンとヴァイオリン、木管の掛け合いなど、とても美しかった。

デンマーク室内管はもともとはポップス歌手の伴奏やテレビ番組のテーマソングを担当する団体で、日本に例えれば紅白歌合戦の伴奏をするようなオーケストラだった。そんな団体が徐々に実力をつけ、国際的に定評のある指揮者の下マーラーの交響曲を演奏できるまで成長した。だからオーケストラの団員たちはアダムの指揮でマーラーの交響曲を演奏できたことをとても喜んでいたし、管楽器のベル・アップなど一生懸命やっていたのが良くわかった。

音楽家の生活

昨日のコペンハーゲンは意外に天気が良く、帰りの飛行機も定刻出発。ベルリンに着いたら雪が降っていた。アダムはコンサートが終るとすぐにメトロで空港に向かい、何とか間に合ったそうだ。今日は10時からウィーンでドン・ジョバンニのリハーサルがある。アダムはもう67歳なんだけど、よくそんな体力があるとつくづく感心する。

本番の前には、「ソリストのアンコールが長いと飛行機に間に合わなくなるけど、だからと言ってアンコールは短くしてほしいなんて言ったら失礼だし。」と悩んでいた。本番ではお母さんが隣にいたのでさりげなく聞いてみたら、「実は私たちも今日の夕方の便で発つので、後半のマーラーは残念ながら聴けません。」なんて言っていた。国際的に活躍するクラシックの音楽家は本当に移動が多い。

この演奏会のソリスト、ダニエル・ロザコヴィッチはスウェーデン生まれの16歳。お母さんが中国人なのか、アジア系の顔つきでもっと小さく見える。11歳くらいから演奏会に出ていて、オーケストラとの共演歴もたくさんあるのだとか。お母さんに言わせると、「指揮者というのは『こう演奏しろ』と厳しく注文をつける人も多いんだけど、アダム・フィッシャーさんは助けてくれるんです。それにオーケストラもとても良い楽団ですね。」と好感を持った模様。

ダニエル・ロザコヴィッチ君は昨年15歳でドイチェ・グラモフォンと契約したし、将来はアンネ・ゾフィー・ムターのように成功すると期待されている。日本でもそのうち名前が売れてくるでしょう。

ところでアダムは4月のウィーンフィルの定期で同じ16歳の中国人ヴァイオリニストZiyu Heと共演する。こちらはバルトークの協奏曲。

冬のコペンハーゲン

コペンハーゲンに来ている。天気予報ではベルリンも雪が10センチ近く積もるという話だったので、朝の飛行機は遅れるのではないかと心配したが、朝起きたときには全然積もっていない。ショーネフェルド空港までの電車も時間通りで、自宅を朝5時半に出たらコペンハーゲンの空港には8時半ごろに着いてしまった。

リハーサルは午前10時始まりなんだけど、場所はオペラ座のリハーサル室だとか。行った事が無い場所だし入口がわからない。だからアダムの泊まっているホテルで待ち合わせて一緒に行くことになった。アダムのホテルはオペラ座からは遠くないんだけど、運河の反対側だから徒歩で橋を渡って15分くらいかかるという。指揮者がリハーサルに行くときは車が迎えに来そうなイメージがあるが、それは日本とアメリカくらいでヨーロッパはそんなことは無い。アダムはコペンハーゲンではいつもメトロを使って普通に通勤する。

指揮者という仕事に移動はつきものなので、雪の心配がある冬は問題が出る。アダムは月曜日からウィーンでドン・ジョバンニのリハーサルが始まるので、日曜午後の演奏会の後ウィーンに飛ぶはずだった。ところがその飛行機がキャンセルされてしまい、ベルリン経由の乗り継ぎに変更しなければならない。

アダム「その便は19時50分発だから19時までには空港に行かないといけない。ホールから空港まではメトロで30分かかるから18時30分には出ないといけない。コンサートが始まるのは16時でベートーベンのヴァイオリン協奏曲が45分、マーラーは1時間で休憩が20分。ほとんどギリギリなの。でもね、今回のソリストは15歳でお母さんが来てるんだけど、アンコールを何曲もやられると困るんだよね。飛行機に間に合わなくなっちゃう。」

24年近く前の日本公演でライナー・ホネックが終演後成田に直行するという一件があったけど、国際的に活躍する音楽家はよくあることで、アダムも何度もやっているのでもう驚かない。冬のヨーロッパの交通手段は特に不安定なので、連日長距離移動でコンサートをまとめて聴く方は、余裕を持ったスケジュールを立てることをお勧めします。

デンマークのオーケストラの苦境

今度の日曜日にはコペンハーゲンで、アダム・フィッシャー指揮のデンマーク室内管の演奏会がある。今回はなぜか日曜日の朝の便が無かったので、土曜日の早朝に発ち、コペンハーゲンで1泊する予定。今週末はベルリンでも雪模様らしいので、さらに北のコペンハーゲンは寒そうだ。

デンマークは日本とは馴染みが薄いけれど、北欧の裕福な国というイメージがある。でもここのオーケストラは苦境に面している。アダムが98年からGMDを勤めているデンマーク室内管は元々放送局所属の室内オーケストラだったのだが、2年前に突然放送局が解散させてしまった。この事件はデンマークの音楽業界では「終わりの始まり」とも言われていたらしいのだが、2年経った今その予言は当たっている。

人口約55万人の首都コペンハーゲンにはフルサイズのプロオケはデンマーク放送響、コペンハーゲンフィル、オペラ座所属の王立オーケストラの3つがあるが、まずコペンハーゲンフィルが補助金カットで窮地に追い込まれた。そして今度は王立オーケストラがサイズを縮小するため4分の1の音楽家を解雇すると発表した。オペラ座の芸術監督スヴェン・ミュラーはこれに反対して辞めてしまったが、オーケストラのメンバーは解雇に反対する代わりに全員が10パーセントの賃金カットを了承すると発表した。

芸術監督が政府の方針に反対して辞任したというと、気骨のある人物みたいに考える人もいるかもしれないが、トップが辞任すると残された音楽家を守る人がいなくなる。だからそれは無責任だ。

デンマーク室内管は放送局からは解雇されたけど、アダムはウィーンフィルやメトロポリタンオペラから反対する声明を取ってきて新聞に自費で意見広告を出すなど、阻止するために必死にがんばった。その後もデンマーク国内の財団に働きかけて、何とか活動が続けられるように支援獲得に奔走した。その結果今後3年間のプロジェクトは続けられるし、政府からもわずかだけど補助金を得られることになり、今後のビジネス展開にも希望が待てる状態になった。でも王立オーケストラはトップがいないから大変そう。

デンマーク王立オーケストラは1448年に創立された世界最古の楽団で、デンマーク王立オペラで演奏している。ミヒャエル・ショーンヴァルトに続いて、日本でも知られている指揮者ヤークフ・フルシャが2013年から首席指揮者に就任するはずだったのだが、当時の芸術監督だったキース・ウォーナーが補助金削減に反対して辞任したので、ウォーナーに賛同するという名目でフルシャは契約を破棄してしまった。その後ミヒャエル・ボーダーが首席指揮者になると発表があったがそれも成らず、ロシア人のアレクサンダー・ヴェデルニコフが任命されたが、未だに就任していない。ウォーナーの後釜にはスヴェン・ミュラーが芸術監督になったのだけれど、そのミュラーも辞任し、オーケストラを守る人は誰もいなくなってしまった。

歴史のあるオーケストラだし有名な人が芸術監督や首席指揮者に名前を連ねているが、苦境に陥るとさっさと放り出してしまう。無責任だとは思うが、国際的に活躍する人は経歴にプラスにならないところに構ってはいられないのかもしれない。そういう業界の常識から考えるとアダムは不器用ではあるが、デンマーク室内管のメンバーはアダム・フィッシャーがトップに立って奔走した事を心から感謝している。

オーケストラの立場にたって苦境を救おうとする指揮者は他にもいるのだが、そういう人はエージェントから見ると利益にならないので売り込まない。だから日本には名前が知られることは少ない。本当はそういう人こそオーケストラから信頼されて良い演奏ができると思うのだけど。

エルブフィルハーモニーのオープニング

本日、ハンブルグでエルブ・フィルハーモニーのオープニング・セレモニーとコンサートが開かれた。ハンブルグのハーフェン・シティの倉庫跡地に作られた現代風の建築はとても斬新で、ランドマークとしてはシドニーのオペラハウスを凌ぐとも言われている。ホテルや高級アパートの上にホールが王冠のように乗ったような構造で、日本みたいに地震があったら、ホールの部分だけエルベ河に落っこちるんじゃないかと思うようなデザイン。

ホールに行くためにはまず長いエレベータを上がる必要があるらしい。東京の芸術劇場の昔のエスカレータを想像してしまうが、オープンスペースではないので怖くはないみたい。エスカレータを出るとホールの入り口で、チケットが無くてもここまでは来られるらしい。ここからはハンブルグの港を行き来する船がよく見えそう。

本日のオープニングにはメルケル首相ら有名人がたくさんやって来たようだ。北ドイツ放送は午後6時半からオープニング式典とコンサートの模様を中継している。できる前には膨れ上がった予算で大スキャンダルだったけれど、今日を境にハンブルグ市民の誇りとなったみたい。シカゴ響とムーティーが数日後に客演するし、NDRエルブフィルハーモニーも人気があるけれど、それ以外の団体も含めて今シーズンの終わりまで、全ての演奏会のチケットは売り切れだそうだ。中にはジャンルも含めてどんな演奏会になるかわからないミステリー・コンサートもあるんだけど、建物への関心が高いのでそれも売り切れ。

来シーズンにハンブルグ訪問を計画させている方は、チケットの手配は早めにする事をお勧めします。

ウィーンフィルとニューヨークフィル

ウィーンフィルとニューヨークフィルは共に今年で創立175年を迎えるのだが、この二つの団体がジョイントでイベントを開く事を発表した。

その内容は双方のオーケストラの歴史を示す品々の展示で、まず2月23日から3月10日まで、ニューヨークのオーストリア文化協会で開かれる。その後3月に展示品はウィーンに向かい、ウィーンフィルの創立記念日である3月28日から、ウィーンのハウス・デア・ムジークで開かれる。そして翌日の29日にはウィーンのコンツェルトハウスでニューヨークフィルの公演が予定されている。

そういえば、ウィーンフィルの今年のニューイヤー・コンサートの映像がすでに出回っているみたい。今日めざまし代わりのラジオで放送していた。やっぱりニューイヤー・コンサートは生ものみたいに廃れが早いのか。

ベルリンの国立歌劇場とドイツオペラの業績

ベルリンの国立歌劇場とドイツオペラが2016年の経営業績を公表した。

現在ウンター・デン・リンデンの劇場が改装中でシラー劇場に間借りしている国立歌劇場の有料入場率は88パーセント。去年は86パーセントだから少し改善したけれど、2年前は89パーセントだったから例年通りといえるかもしれない。年間312公演を行い、観客動員数は184,938 人だった。それに加えてシュターツカペレ・ベルリンは世界ツアーを行い、51,150の聴衆を動員した。また"Staatsoper fur alle"という野外コンサートは40,000人を動員した。

国立バレエの入場率は83.4パーセントで昨年より2.5パーセント上昇。108公演に124,559 人を導入した。売り切れになった人気演目は「白鳥の湖」は「くるみ割り人形」など。

国立歌劇場よりも規模が大きく、2千人近い収容人数を誇るドイツオペラは年間346公演を行い、そのうち178公演が大ホールによるものだった。前年は291公演だったから50公演以上増えている。充実したのは子供向けオペラなど将来の聴衆育成プログラムで、その結果 248,000 人の聴衆を動員した。でも公演数が増えたこともあり、入場率は前年の77パーセントから72パーセントに減った。

もうひとつのオペラハウス、コーミッシェ・オーパーも最近好調で、ベルリンのオペラハウスはどこもがんばっている。

あと3日

2017年の最初の週末はドイツは寒波到来で大混乱。道路が凍りついて鏡のようになっているとかで、各地で事故が相次いだ。車だけでなく、歩行者も滑って大変だ。日曜日は店はほとんど閉まっているし、今日はあきらめて家にいた。

日曜日の朝はドイツの地方局で時々クラシックの番組を放送する。過去に録画したものの再放送が中心だけど、中には興味深いプログラムもある。たまたま北ドイツ放送を見ていたら、「あと3日」なんて予告が出た。何の話かとおもったら、あのエルブフィルハーモニーのオープニングまでいよいよ3日に迫ったという事だ。

エルブ・フィルハーモニーの印象的な建物は、シドニーのオペラハウスを凌ぐとも言われていて、下層部分はウェスティンホテルも入っているし、高級コンドミニアムもある。。コンサートホールは大ホールが2100席で小ホールは400席。

着工開始は2007年だけど、杜撰な計画で工期は伸び伸びになり、費用も増加。ハンブルグ市民の怒りを買って、一時期は「ワルハラ城」なんていわれていた。その後ベルリンの空港が輪をかけた劣悪プロジェクトとなっていつ完成するか見込みが立たない状態だから、多少は怒りの矛先が変わったかも知れないけど、やっと完成してオープニングにこぎつけた。ベルリンの国立歌劇場も問題が多かったけど、エルブフィルハーモニーに比べるとまだましだ。だって国立歌劇場が工事を始めた時はすでにエルブフィルハーモニーはスキャンダルの最中だった。でも国立歌劇場だってこの秋に本当にオープンできるのかはわからない。

オープニング公演は現地時間で水曜日の18時半から。ドイツ連邦大統領やメルケル首相も参加する模様。開幕公演のチケットは発売されず、抽選で1000名のハンブルグ市民を招待するのだとか。

ダウンロードもできるソフトMediathekView

数年前からドイツでは聴取料が必須になったこともあり、ネットでテレビを観る環境が整ってきた。どこの局でもメディアテークというライブラリがあり、放送を見損なった人のために1週間程度は番組をネットで観ることができる。でもどんな番組があるかわからないという方のために、MediathekViewというソフトがある。コメントで紹介したけれど、結構好評のようなので記事として紹介しよう。

このソフトはウィンドウズかマック向けのバージョンが出ている。残念ながらメニューやヘルプはドイツ語なのが問題だが、基本的には使い方は簡単。知り合いの方からの情報によれば日本からでもソフト自体は使えるようだ。
基本的にこのソフトができることはドイツのテレビ局サイトから番組表を読み取って、ネットで視聴できるものをリストアップし、ワンクリックで観ることができるし、なんとダウンロードしてオフラインで見ることもできる。どのくらい番組を遡れるかはソフトウェアではなくて各局のポリシーだから番組ごとに異なるけれど、だいたい1週間は大丈夫みたい。ただ現時点ではZDFは国外へのアクセスを制限している。他の局もやっているかもしれないけど。

インストール手順
ソフトのダウンロードはここからできる。ZIPファイルをダウンロードして適当なディレクトリに解凍するだけ。とくにインストールは必要ない。ただこのソフトにはビデオ・プレーヤーが付いていないので、ビデオファイルを観ることができるメディア・プレーヤーが必要。ソフトウェアを解凍したら、MediathekView__start.exeというファイルをクリックすると起動する。最初に起動した時にどこに在住しているか聞いてくるので選択する。

立ち上がるとこのソフトはドイツ語圏のテレビ局の番組表を読み込むのでネットの状況によってはしばらく時間がかかる。このソフトはクラシック音楽には限っていないので、番組表の量はものすごい。だからいかにして目的の番組を探し出すかがカギ。左側にあるのがフィルターで、上から放送局、テーマ、タイトル。その下は自由サーチでラジオポタンの"irgentwo"というのは番組情報のどこかという意味。だから時間がかかる。

試しに"Philharmonie"というキーワードを入れると、ハンブルグのエルブ・フィルハーモニーに関する情報番組の合間に演奏会のライブもいくつか混じっている。それもデュイスブルグ・フィルハーモニーとかエッセン・フィルハーモニーなど日本には馴染みの少ないオーケストラの映像。それから"Mahler"と入力したらシャイー指揮ゲヴァントハウス管ののマーラー9番が見つかった。

観たい番組の列の右向きの緑の三角アイコンをクリックするとメディア・プレーヤーが立ち上がって再生が始まる。下向きの三角アイコンはダウンロード。ファイル形式はテレビ局次第だけど、ローカルディスクに書き込まれるのでオフラインでも見られる。ダウンロードの途中経過を知りたい場合は、一番左のタブの"Download"をクリックすれば、経過と残り時間が表示される。

どの程度日本で使えるかはわからないけれど、日本のクラシック音楽ファンには有効でしょう。





寒波到来

冬とは言っても今までは比較的暖かく、ベルリンでも氷点下になることは稀だったのだが、今日は雪がふったし風が強かった。その関係で明日は気温が下がるらしい。ドイツは北側は平地だが南には山があり高さが高いので、冬は南の方が気温が低い事が多いのだが、予報ではシュヴァルツバルド地方の明日の最高気温はマイナス10度で、夜は下手をするとマイナス25度まで下がるかもしれない。マイナス25度というのはフィンランドのラップランド地方並みだとか。

ベルリンの明日の予想は最低気温がマイナス10度で最高気温はマイナス3度。シュヴァルツバルドに比べればましだが、それでも寒そうだ。週末は外出は控えた方がよさそうだ。

ところで昨日紹介したドレスデンのリングだけど、日程は
第一サイクルが2018年1月13日、14日、18日、20日でだい2サイクルが1月29日、30日、2月1日、2月4日と発表になっている。「ラインの黄金」と「ワルキューレ」は連続で上演するけれど、その後は休息日を入れて1週間で完結する日程のようだ。キャストはアルベルト・ドーメン、ペトラ・ラング、クリスティナ・マイヤー、アンドレアス・シャーガー、ゲルハルト・ジーゲル、クルト・シュトライト、ゲオルグ・ツェッペクフェルド等。演出は2001年から04年にかけて制作したヴィリー・デッカーのもの。

日程を見ると、第一サイクルは週末が3公演なので地元の人向けで、第二サイクルは平日主体だから、遠くから来るワグネリアン向けという気がする。ドイツ国内ではリングは毎年どこかの劇場が上演するけど、1週間以内で完結させると世界中からワグネリアンがやって来る。熱狂的な愛好家は劇場を一杯にするには十分の数がいるようで、ベルリン・ドイツオペラのサイクルは公演の2年前に発売と同時に売り切れてしまった。

ブダペストは毎年4日間で完結するリングを上演しているが、ここにも大挙して愛好家がやって来る。そのうち何人かと話す機会があったのだが、過去に100サイクル以上リングを観た人が何人もいた。彼らはきっとドレスデンにも行くでしょう。

ティーレマンとシュターツカペレ

クリスチャン・ティーレマンは11月にも来日したし、日本でも人気の高い指揮者であることはたしか。全波をオーバーでのフェストコンツェルトのテレビ放送もヨーロッパで98万人が観たそうで、クラシック番組としてはかなりのヒットだった。ティーレマンは2020年までシュターツカペレの首席指揮者だけど、その延長契約がこじれているのだそうだ。

ドイツの大衆紙ビルドの報道によれば、シュターツカペレの内部の人の話として、「ティーレマンはツアーで1日ずつ休養日をとる事を条件にしている。リハーサルが少なくなって負担が減ると喜ぶ団員もいることは確かだが、かなり厳しい反対がある。」

ティーレマンの前任であるファビオ・ルイジやジュゼッペ・シノーポリはもっとたくさん公演を指揮していたから、ティーレマンの要求には反感を持つ団員もいる。それにツアーの休日を1日増やすと、100人近い楽員の宿泊しが余分にかかる。それがオーケストラの出費になるとはかぎらないが、いづれにしても楽団のコストが高くなり、招聘元が敬遠する要因になる。もしサントリーホールの公演で1日休日が増えたとして、招聘元が楽員全員の一泊分のホテル・オークラの宿泊費をチケット代に上乗せさせたら、ファンだってやっぱり考えるでしょう。値段が高すぎてチケットが売れなければ、招聘元だってシュターツカペレに消極的になる。

シュターツカペレの内部では、既に次のGMDとしてウェルザー=メストの名前が挙がっているのだとか。クリーブランドとの契約は2022年までだけど、ウィーンとクリーブランドを掛け持ちした時期もあるのだから、可能だろうという話。もっともティーレマン本人、シュターツカペレのマネージャー双方ともビルド紙の質問にはノーコメントだけど。

因みに来年1月にはゼンパーオーパーはティーレマン指揮のリングを2サイクル計画しているとの事。チケット発売は1月25日らしいので、興味のある方はお忘れなく。

ところで、フランス人指揮者ジョルジュ・プレートルが亡くなったそうだ。享年92歳。いよいよ巨匠の時代は遠くなっていく。

ベルリン・ブランデンブルグ空港はまた延期?

ベルリンの人はもうあきれて言葉も無いのだが、ベルリン・ブランデンブルグ空港の開港がまたまた延期になりそう。当初の予定では5年位前には開港しているはずだったのに、トラブルが続出。既に完成していた施設も使われない状態で放置され、保守や改修が必要になったところもあった。一旦作った施設も安全基準を満たしていないので再度壊して作り直すなど、とにかくプロジェクト・マネージメントの失敗例として今後の教材になるそうなほど、何がどうなっているのかわからないプロジェクトだ。去年の発表では2017年の11月には開港する予定という事だったのだが、どうもそれも無理そうで2018年にずれ込むとか。

空港の計画は延期されても、空港の需要は高くなりつつある。ヨーロッパでも有数の大都市だからベルリン乗り入れを計画している航空会社は多く、今後14年間に3割以上増加するという予測もある。そうなると新空港は開港と同時にストレステストにさらされるようなもので、大丈夫なのだろうか。

計画では新空港が開港した後は市内に近いテーゲル空港は廃止されるはずなんだけど、今の状況ではそれに反対する人も多数いるのが現実。それにしても、日本からの直行便が来るようになると便利なんだけど。

ジルベスター・ニューイヤーコンサート

大晦日からお正月にかけてはクラシック番組がたくさんあった。

12月30日はZDFによるゼンパーオーパーのフェストコンツェルト。ティーレマン指揮のシュターツカペレ・ドレスデンの演奏で、ソロはヴァイオリンのニコライ・ズナイダー。曲目はブルッフのヴァイオリン協奏曲やチャイコフスキーのロメオとジュリエット幻想序曲、ロッシーニのウィリアム・テル序曲など。

フェストコンツェルトという事で軽めのプログラムにしたのだろうけれど、シュターツカペレの重い音には合っていないような。ズナイダーのソロでクライスラーの「愛の挨拶」や「美しきローズマリン」などを演奏したのだけれど、3拍子がドイツ流に厳格だから今ひとつのりが良くない。どうせならもっとオーケストラの良さの出る曲をやれば良いとは思うのだが、この演奏会はオペラ座の主催だからオーケストラには決定権が無いのでしょう。普段オペラには縁の無い地元政治家などもくる社交の場だから、そんな事言っても始まらないか。

31日にはARDでベルリンフィルのジルベスター・コンサート。こちらはまだ見ていないけれど、オンデマンドで見られるので暇があったら観るかもしれない。

元旦には恒例のウィーンフィルのニューイヤー・コンサート。ORFの制作だけど、ドイツではZDFが放送した。今年の指揮者はグスタヴォ・ドゥダメル。若いからもっと溌剌とした公演を期待したけど、世界各国に生中継されるから伝統を破るような事はできないか。本来ニューイヤーコンサートはもっと軽いノリだと思うのだけれど、最近はやたら格式ぶって面白さが足りない。

ドイツでは数年前から公共放送の受信料の支払いが義務化されたこともあり、テレビは無いがパソコンを持っている人向けにもインターネットの放送が充実している。だから上記の3つのプログラムはオンデマンドで見ることが出来る。見逃した方のために一応リンクを張っておきます。ドレスデンは1月31日まで、残りは7日間はアクセス可能。ただし日本で観られるかどうかは不明。

ベルリンのニューイヤー

大晦日から新年にかけての大騒ぎも終わり、2日からは通常通り仕事が始まる。余っていた有給休暇を4日ほど使い、24日から9連休だったのだけれど、遠出する事も無くベルリンにいた。昨夜は案の定花火がうるさかった。

大晦日は午後4時過ぎに暗くなると爆竹の音が鳴り響き、11時を過ぎると気の早い人々は花火を上げている。さすがに警備の厳しいブランデンブルグ門前には行く気がしなかったが、せっかくだから夜11時半ごろから散歩に出かけた。車の通りは大分少ないのだが、交差点や駐車場などの広場で花火を打ち上げる人がたくさんいて、とてもうるさい。花火はきれいだが、音を出すだけの爆竹を歩きながら歩道に投げる人もいて、注意しないと怪我をしそうだ。

特に目的も無く歩いていたのだが、普段人通りの多いクーダムからブライトシャイドプラッツに向かった。テロ事件の現場に何度も行くのは別に野次馬したいわけではなく、買い物の通り道なので。既にクリスマス市は閉まっているのだが、小屋はまだ撤去されていない。クリスマス用のお菓子が売れ残っている店や、グリューワインと焼きソーセージの屋台はまだ営業していて、人だかりが出来ている。人込みの中で花火を上げる常識はずれはさすがにいないが、広場を挟むブダペスターシュトラーセとクーダムは新年の前に既に盛り上がっている。

ここでは特別なカウントダウンはないけれど、新年になると同時にオイローパセンターの上からプロ仕様の花火が打ち上げられた。
neujahr2017
これはテロ事件の現場から30メートルくらいのところ。現場には未だに蝋燭の火が絶えないけれど、日常生活は続く。

オイローパセンターの花火は10分ほどで終了。後はそれに見入っていた人々が残っている花火を楽しんでいた。午前2時過ぎまで花火の音は聞こえていた。

あけましておめでとうございます

あけましておめでとうございます。とは言ってもドイツはまだ数時間残っている。外は気の早い人が花火を打ち上げているようで音が聴こえるのだけれど、12時に近くなるともっとすごくなるだろう。

ベルリンはテロ事件にもかかわらず、ブランデンブルグ門周辺を通行止めにして巨大なパーティー会場と化している。ベルリンの中央にあるティアガルテン全体を14キロにも及ぶ柵で囲み、中に入る事ができるのはわずか6箇所。セキュリティはとても厳しくて荷物は全てあけてチェックをするという事だ。だからテレビのニュースでは、「荷物は極力持ち込まず、お財布にわずかなお金だけ持ってきてください」と繰り返している。

ブランデンブルグ門の前はサッカーのパブリック・ビューイングなどの会場になるので、大きなイベントには慣れている。セキュリティも厳しいから他の場所よりも安全だという話。一番危ないのは若者の集まる広場で、テロよりももっと怖いのが花火。ドイツでは花火を販売できるのがクリスマスから大晦日までで、花火を打ち上げるのは大晦日の日没から元旦までと決められている。だから多くの人が大晦日の夜に花火をやる。中には酔っ払っている人も多いし、花火が出来るような広場はどこも人で一杯だ。本来立てかけて離れて打ち上げる花火を、人が持って打ち上げることもある。それも空ではなくて群集に向かって。だからドイツ全国で毎年数人の死傷者が出る。

ベルリンに引っ越してからこれで4度目の年越しだけど、実はいつも旅行に出ていて今回が始めてだ。その理由はアダムが毎年1月1日にニューイヤー・コンサートでハイドンの「天地創造」を演奏するのでおっかけているから。今年は2日が月曜日で仕事始めなので行かなかった。

2017年の最初のおっかけは1月15日のコペンハーゲン。デンマーク室内管とデュッセルドルフ響の演奏会は、格安航空便を使って日曜日に日帰りできそう。という事で2017年もよろしくお願いします。

オーケストラとは何なのか

ニューヨーク・タイムスの記事で気になったことは、ダブリン・フィルハーモニーの一件で音楽監督の「オーケストラとはそれを主宰する組織の事であって、音楽家は入れ替わる」という言葉。確かに野球やサッカーのチームだっていつも同じ人が出場するわけではない。オーケストラなんて100人以上必要な曲もあるから、全て所属の楽員でまかなうことは不可能だ。それではフリーランスは楽員の何割くらいなら許せるのだろうか。

曲目によって編成が異なるし、マンドリンやギター、ドラムなど普段オーケストラで使われない楽器が必要な曲を演奏するならエキストラが必要だ。それにタンホイザーみたいに舞台裏のホルン16本なんて指定されている曲もあるから、エキストラを呼ぶのは当然だ。オーケストラに所属する音楽家の話では、ツアーに行きたくない人もいるので半分近くがエキストラということもあるそうだ。

オーケストラにとって、ツアーはエキストラや楽員の弟子の若手などに経験を付けさせる良い機会でもある。本拠地の演奏会だと楽員の顔を知っている人もいるけれど、ツアーならその可能性は減る。オーケストラ・マネージメントとしては、楽団のスタイルを知っているエキストラは多いに越した事は無い。だからツアーだとエキストラ比率はさらに高くなる。

実際に去年経験したことなのだが、ハイドンフィルハーモニーは今年初めからアルトシュテットが正式に音楽監督になったのだが、9月のハイドンターゲではアダム・フィッシャー指揮の演奏会の合間に1回だけアルトシュテット指揮の演奏会があった。その時のメンバーは半数以上が知らない人。オーケストラの名前は同じだし、マネージャーも同じなのだが、アルトシュテットが指揮するときとアダム・フィッシャーが指揮するときは実体は別みたい。それでもそれに気が付くお客さんなんてほとんどいない。

別の例では、ルツェルン祝祭管の一件がある。ルツェルン祝祭管はアバドが創設したプロジェクト・オーケストラで日本にも何度か来ているはず。現在はシャイーが引き継いでいるけれど、シャイーが監督を務めるゲヴァントハウス管のコンマス始め何人か参加していた。ところがシャイーはゲヴァントハウスを辞めたので、ルツェルン祝祭管のメンバーもゲヴァントハウス中心からシャイーが関係する別団体のスカラ座オーケストラ中心に変わったという話。

以上はフルタイムではないプロジェクト・オーケストラの例だけど、フルタイムのオーケストラだってわからない。震災後のバイエルン国立歌劇場は3分の1が日本行きを拒否して有給休暇を取ったとドイツでは報道されていた。日本でもネット上では「ドレスデンなどからエキストラがたくさん入っていた」という噂があったけど、どうだったか調査した報道なんて見かけなかった。CAMI同様「楽団内部の事情だからこちらは知らない」という立場なのかもしれない。日本側が気にしないなら都合の悪い事実を言う必要はない。

ウィーンフィルやベルリンフィルはメンバーも有名人だから、エキストラがたくさんいれば日本のお客さんでも気づくとは思うが、それ以外のオーケストラの正式メンバー比率など公表されない。それでも日本の人は信じるからとても高いチケットを買うのだろう。この点に関しては、音楽業界内部の人と日本の聴衆との間にはかなり意識の差を感じる。
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