クラシックおっかけ日記

指揮者アダム・フィッシャーのおっかけ記録、音楽の話、海外生活など

ヨナス・カウフマン、オペラ・フュア・アレをキャンセル

バイエルン国立歌劇場の新シーズンは9月17日のオペラ・フュア・アレで始まる。これはアンズバッハのカールスプラッツで開かれる野外公演で、ヴェルディの「ナブッコ」やワーグナーの「ローエングリン」など、今シーズンにプログラムに入っている作品のハイライトを演奏する。指揮は新GMDのウラジミール・ユロウスキー。

本来ならヨナス・カウフマンが歌うはずだったが、体調不良で直前にキャンセルしてしまった。代役はピョートル・ベチャワで相手役はメゾソプラノのエカテリーナ・ゼメンチュクが務める。このオペラ・フュア・アレはバイエルン放送のストリーミングで17日の午後7時(現地時間)から放送される。

バイエルン州のコロナルールでは、3G(ワクチン接種者、快復者、テスト陰性)に限って入場が認められる。ただし客席制限は無く、オーケストラや合唱団の配置も通常通り。だからチケットは全て販売することができる。でもまだ客足は鈍くチケットはたくさん残っているみたい。まだまだお客さんの方で慎重みたい。それはバイエルン国立歌劇場だけには限らないと思われる。

秋の来日オーケストラ公演

コロナ以前なら10月から11月にかけては海外オーケストラやオペラの引っ越し公演があって、クラシック音楽ファンはチケット争奪戦とお金の工面が大変だった。でも9月末まで非常事態宣言が続いている状態では、今年も昨年に続いて来日オーケストラ公演は激減でしょう。

そんな中でも昨年同様ウィーンフィルは来日公演があるらしい。指揮者はリッカルド・ムーティ。外国かる日本に入国する場合には14日間の隔離が義務付けられているが、ウィーンフィルは昨年同様免除される。バブル方式という事で、オリンピックやパラリンピックで選手、役員、報道陣など数万人の外国人の入国を許可しているのだから、ウィーンフィル以外のオーケストラの来日公演だって許可されたって良いと思うのだが。それにしてもウィーンフィルのロビー力は本当にすごい。

同じ時期に日本、中国、韓国の極東ツアーを計画していたベルリンフィルは、残念ながら今年も中止。その代わり、同じ時期に北欧の小都市を回るツアーを行う。スウェーデン以外の北欧諸国はコロナ対策もしっかりしていて感染者は少ないし、ワクチン接種も進んでいる。少なくともデンマークはマスク義務も含めてコロナの制約は無くなった。この週末には日帰りでコペンハーゲンに行くので、どんな状況か確かめてみよう。

ベルリンフィルの11月のツアーは16日がデンマークのアルフス、17日がスウェーデンだけどデンマークの対岸のマルメ、18日はデンマークのアルボーグ。指揮はキリル・ペトレンコでプログラムはメンデルスゾーンのスコットランドとショスタコーヴィッチの交響曲10番。

日本人音楽家の活躍

今週は偶然にもヨーロッパで活躍する日本人音楽家のニュースが続いたので、まとめて紹介する。

ARDコンクール
音楽業界ではとても高く評価されているARDコンクールが今年もミュンヘンで開かれた。今年はヴァイオリン、デュオ・ピアノ、ホルン、歌の4部門が開かれたが、そのヴァイオリン部門で日本人の岡本誠司が優勝した。第2位はロシアのドミトリ・スミルノフ、第3位はモルドバ/ルーマニアのアレキサンドラ・ティルス。岡本誠二は東京芸大卒業後、ベルリンのハンス・アイズラー音楽院に在籍しているとか。既に数々のコンクールで入賞歴があるらしい。

ヘルムート・ドイチュ歌曲コンクール
ウィーンで定期的に開催される歌曲のコンクールであるヘルムート・ドイチュ歌曲コンクールで、日本人テノールの尼子広志が優勝した。優勝賞金は1万ユーロ。加えてベルリンのドイツオペラとコンツェルトハウスで、ヘルムート・ドイチュの伴奏による演奏会が予定されている。

バーミンガム市響
サイモン・ラトルやミルガ・グラジニーテ=ティーラら無名の指揮者を監督に選び有名しているバーミンガム市響がグラジニーテ=ティーラの後任の監督に日本人指揮者の山田和樹が就任すると発表した。就任は2023年4月。山田はバーミンガム市響の首席客演指揮者で、オーケストラとは何度も共演している。

デンマークはついにコロナルールを撤廃

今度の日曜日にはコペンハーゲンに行く予定で、デンマークのコロナルールを調べてみた。デンマークはドイツの隣国だけど、ドイツから見ると信号システムで黄色に区分されている。黄色のエリアから帰国する場合は基本的に10日間の自主隔離が必要。入国後のテストで陰性が確認された場合は5日で隔離は終了。ただしワクチン接種かコロナからの快復の証明書を提示できるなら、自主隔離は免除される。

それではデンマーク側はドイツをどう見ているかと言えば、こちらも黄色地域。空港到着時に検査をするらしいが、ワクチン接種か快復証明がある、または48時間以内の抗体検査の結果が陰性なら、免除される。私はワクチン接種は6月半ばに完了しているから大丈夫みたい。

デンマークでは水際検査はあるが、いったん入国するとコロナルールは撤廃された。イベントでの間隔規制やマスク着用義務も無し。レストランでも同様で、普段の生活はコロナ以前と変わらない。おかげで19日の演奏会も普通通り。

ヨーロッパではコロナ前に戻ったのはデンマークだけ。ワクチン接種率が国民の7割近くに達しているからルールが緩和された。ただ感染者が増えたらまた規制を復活させるという条件は付いている。

今年の前半はイギリスとアメリカがワクチン接種ではEU諸国よりもずっと早く展開していた。EUは生産したワクチンの半分は他国への輸出に回したが、アメリカとイギリスは自国から輸出を禁止し、他国から反発が出ていた。現在ではEUの方がワクチンが行き渡っている。アメリカやイギリスはワクチンに対して懐疑的な人が多く、接種を拒否してコロナに感染しているらしい。だからいまだにアメリカとイギリスは1日にそれぞれ3万7千人、2万8千人の新規感染者が出ている。アメリカとイギリスの成功ストーリーはもう意味をなさない。

ドイツオペラのニーベルングの指環新制作

ベルリン・ドイツオペラのニーベルングの指環は、ゲッツフリードリッヒの演出のトンネルを使ったものが有名で、30年以上にわたって上演されてきた。この演出は1987年に日本に客演していて、ニーベルングの指環を短期間でサイクル上演したのはこれが最初だったはず。数年前にはベルリンでサイモン・ラトルが全曲を指揮したが、この時はたくさんの日本人愛好家がやって来たと記憶している。

その後数回上演されたが、さすがに古いのでお蔵入りとなった。ここ数年シュテファン・ヘアハイムの演出のリングを制作していて、いよいよ完結するとともにサイクルの上演を行う。今シーズンは11月に2サイクル、来年1月に1サイクルの予定。ニナ・ステンメがブリュンヒルデを歌う。指揮は音楽監督のドナルド・ランニクルズ。

第1サイクル、11月9日、10日、12日、14日
第2サイクル、11月16日、17日、19日、21日
第3サイクル、1月4日、5日、7日、9日
全てのサイクルが火、水、金、日のパターン。チケットは通し券が€ 840,– / € 640,– / € 440,– / € 240,– / € 200,–で9月23日午前9時(現地時間)からインターネットで受け付け開始。

4日間連続で劇場に通うとなると、休暇を取って旅行に出るならともかく、普段通り仕事をしているとなかなか難しい。平日の午後5時開演だと仕事を早く切り上げないといけないし。それでも近所のオペラ座でもあるし、第2サイクルなら何とか行けるかもしれない。ただ11月はおっかけも多いのでちょっと忙しくなるけど。

ドイツはワクチン・パスポートがあれば隔離が無いので日本からでも大丈夫だけど、現時点では帰国時に隔離が必要になる。来年の1月ならさすがに解除されているかもしれないけど、高額のチケットを購入するのはリスクがあるかもしれない。

9.11から20年

今日は世界中でアメリカでのテロ事件から20年を振り返っている。アメリカのテレビ局は当然としても、ドイツでも世界を震撼させた20年前の事件を振り返って、ドイツの視点からその後どうなったかを報道している。当時のテレビニュースを見て思ったのだが、まだテレビのフォーマットが4対3で今の横長の画面では両端に余白ができてしまう。そんな事からも20年の長さを感じる。

2001年9月11日には私は既にドイツに南部に移住して3か月ほどだった。例年通り9月にはアイゼンシュタットのハイドンターゲに行く予定で、この日の夜行でシュトゥットガルトからミュンヘン経由でウィーンに出て、そこからバスでアイゼンシュタットに向かった。テロのニュースを聞いたのは職場でだったが、帰ってから電車の時間まではCNNをつけていた。でも2機の飛行機がワールド・トレード・センターに突っ込んで、その後2つの塔は崩れてしまったこと、ペンタゴンに突っ込んだ飛行機もあり、こちらも被害が出ていたこと、さらにもう1機が墜落したらしいこと、アメリカ全土で飛行機の離陸が禁止され、連邦議会もウォール街の証券取引所も閉鎖されたこと等を繰り返し伝えていた。

アイゼンシュタットは田舎街なのでドイツ語以外のニュースはテレビや新聞などでも手に入りにくい。当時インターネットはあったが、まだまだホットスポットも少なくてホテルでもサービスは無かった。だから音楽祭にやって来た外国人はニュースに飢えていた。アメリカ人は信じられない様子で寡黙なのだが、雄弁だったのがイギリス人。

イギリスではハイドンの人気が高いので、毎年グループツアーで数十人がアイゼンシュタットにやってくる。こういう人はドイツ語は分からないし地元の事情にも疎いので、街のニューススタンドから英語の新聞を買ってくる事が出来ない。私が泊まっていたレストラン兼宿屋のテーブルで英語の新聞を読んでいたら、知らず知らずにイギリス人が集まり、午後から夜のコンサートまで何時間も新聞を読んで議論していた。

P9150081ニュースに興味があったのはオーケストラのメンバーも同じ。事件の数日後に発効されたニューズウィークの号外を持っていたら、ビオラ奏者が休憩時間に読みたいので貸してくれという。だからこの写真では譜面台に楽譜と並んで煙に包まれたツインタワーが表紙が見える。

アダム・フィッシャーも72歳

本日はアダム・フィッシャーの誕生日。1949年生まれなので今年で72歳になった。小澤征爾やズビンメータ、ダニエル・バレンボイム、リッカルド・ムーティなどの華々しい人気指揮者よりは数年年下で、サイモン・ラトル、クリスチャン・ティーレマン、フランツ・ウェルザーメスト、ファビオ・ルイジらよりは少し年上になる。

アダムが若い頃はカラヤンなど巨匠指揮者が重視されていたが、中堅になると今度は30代の若い指揮者が人気になった。今は若手女性指揮者が話題の中心だ。指揮者としての実力を理解できるのはその指揮者に接したオーケストラの楽員だけで、評論家や愛好家は本番という限られた場しか見る事が出来ない。だから人気なんて当てにならない。

アダム・フィッシャーはウィーン音楽院を3年で卒業し、グラーツで働き始めた時は22歳になったばかりだった。だから同僚の中では年下という状況が多かったらしい。どこのオーケストラもベテラン奏者はいるし、アダムが創立したオーストリア・ハンガリー・ハイドンフィルハーモニーは同年代の友人がしていた。でも60歳を過ぎた頃、客演するオーケストラの楽員たちが自分よりもずっと若い事を実感して、ちょっとショックを受けていた。客演する楽団がユース・オーケストラに見えるのだとか。

ここ1年はコロナのためおっかけはできなかったが、規制が緩和されたので19日のデンマーク室内管の演奏会には行く予定。その話をしたら、「えっ、コペンハーゲンに来るの?実はちょっと話があってね、…」と事情を説明しだした。

A「サッカーのヨーロッパ選手権って知ってる?ヨーロッパのチームが競う有名な大会だけど。」
私(デンマークは参加していたけど、何かオーケストラと関係あるのかな?)
A「最後はイングランドとイタリアがペナルティ合戦になったんだけどね。サッカー好きの孫がその一つ一つを再現したのを僕はキーパーをやってPKを防いだんだよ。」
私(なんでコペンハーゲンからサッカーの話になるんだろう?)
A「キーパーって結構大変で、孫のPKを防ぐためにジャンプしたりしてね。僕は無事ゴールを防いたんだけど、手をぶつけて左手の指を折っちゃったんだよね。」
私「えーっ!コペンハーゲンのブログラムにはピアノソロがあるじゃない。大丈夫なの?」
A「ヴァイオリンだったら動きが激しいから難しいけど、ピアノはそれほどじゃないから大丈夫。もう2か月以上前だし、専門医を訪ねてしっかりリハビリもやったから。」

結局以前ほど上手く弾けないかもしれないという懺悔だったのか。お客さんのほとんどは「以前」はしらないけど、私は聴いたことがあるから気にしているみたい。それにしても12歳の孫とのサッカーは年相応に程々に。

ズビン・メータ、フィレンツェの公演を延期

フィレンツェ歌劇場のペレイラ支配人はソーシャルメディアで9月10日に予定されていたズビン・メータ指揮のベートーベン交響曲シリーズの第1回公演は、10月15日に延期すると発表した。理由はメータが病気で入院してしまったから。

メータは8月にアメリカで手術したので、「コジ・ファン・トゥッテ」のリハーサルの始まる7月20日にフィレンツェに行く予定を28日に延期した。これによりリハーサルが出来なくなったのでペレイラ支配人はいろいろなコネを使ってアダム・フィッシャーを呼び出した。

コジの公演を指揮しないことになったので、メータは次の「トラヴィアータ」のリハーサルを始めた。これはダヴィデ・リヴモア演出で、9月17日から10月5日まで上演する予定。さらにベートーベン交響曲シリーズの最初の演奏会として、3番と5番のリハーサルを始めた。ところがリハーサル中に手術の傷跡が痛み出したとの事。

メータは過去に1年半近くガンの手術で活動ができなかった。2019年の後半にやっと活動を再開したが、ついつい仕事に熱中して自身の健康を犠牲にしてしまったとの事。大事を取って入院したものの、「トラヴィアータ」は指揮するつもりだそうだ。「トラヴィアータ」はナディーネ・シエッラ、フランチェスコ・メリ、父ジェロモン役にはプラシド・ドミンゴとレオ・ヌッチが交代で歌うことになっている。

ベルリンフィルのUN難民支援演奏会

アフガニスタンのニュースなど、難民支援を訴える団体の活動がドイツ国内で活性化している。音楽団体として最先端を行くベルリンフィルハーモニーは難民支援のチャリティコンサートを開く。指揮は音楽監督のキリル・ペトレンコで演目はストラヴィンスキーの「火の鳥」組曲。ロシアの伝説である火の鳥の物語で、祖国を追われた難民たちを勇気づけるというのが選曲理由。

演奏会は9月19日午後2時からで、場所はもちろんフィルハーモニーの大ホール。チケットは18歳以下は10ユーロ、大人は20ユーロ。それ以外に寄付のついたチケットが30ユーロ、50ユーロ、70ユーロの3種類ある。それぞれ10ユーロ、30ユーロ、50ユーロが国連の難民支援組織に寄付される。国連難民支援は国連の組織のパートナーとして40年以上難民支援に取り組んでいる団体。

演奏会以外にも当日は難民の経験を語るワークショップも企画されている。それから画家のラインハルト・クライストが演奏会の様子を本番中に描き、その絵をオークションで販売する。売り上げも難民支援に寄付される。

ブカレストのエネスク音楽祭

日本では東欧のクラシック音楽シーンはあまり報道されない。その中でもルーマニアとなるとどんなオーケストラがあるかも知られていないかもしれないけれど、ブカレストで開かれるエネスク音楽祭は注目に値する。何しろ出演するオーケストラが凄い。東欧では地元のルーマニア国立ユースオーケストラやハンガリー国立フィルハーモニーなどもあるが、イギリスからはロンドン交響楽団、ロンドン・フィルハーモニック、ロイヤル・フィルハーモニック、フィルハーモニア等、アムステルダム・コンツェルトヘボウやマーラー室内管、ベルリン放送響等々。ベルリンでやっているフェストヴォッヘと並ぶ。その理由は元ウィーン国立歌劇場支配人のイオアン・ホーレンダー氏が芸術監督として、客演団体やソリストを招聘しているから。

アダム・フィッシャーも依頼がかかって今日はバーゼル室内管との演奏会があった。ブカレストまでは行けないが、最近はどこも期間限定でストリーミングがみられるのがありがたい。プログラムはクララ・シューマンのピアノ協奏曲とメンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」。

クララ・シューマンのピアノ協奏曲はピアニストが作曲した作品という感じで、ピアノ中心。それほど素晴らしい曲という印象は無いけど、もっと良く聞かないとわからない。ソリストはアレクサンドラ・ドライエスク。ルーマニア生まれの英国人なんだそうだ。

後半のスコットランドは古楽器を使った室内楽の演奏。この曲は2年前にロンドンのプロムスでエンライトメント管と演奏している。その時も放送されたのだが、ロイヤル・アルバートホールだから大きくて古楽アンサンブルの良さがあまり出ていなかった。今回は会場が小さいのでバランスも良く、素晴らしい演奏。第1楽章の終盤などまるでスコットランドの海を船で旅しているような気分になる。

この演奏を聴いてメンデルスゾーンが二管編成で書いたのかがよくわかった。バーゼル室内管の弦楽器は第一ヴァイオリンが8人くらいの小さな編成でガット弦だから弦楽器の音が小さい。たから管楽器が2本でも十分で、その点フルサイズのオーケストラとはバランスが良い。特に2楽章が圧巻。

<< 9月7日追記 >>
音楽祭の映像は公演後12時間のみ公開。だから既に昨日の演奏会はアクセスできません。

エヴァ・ワーグナー・パスキエが意識不明の重体

今年のバイロイト音楽祭は客席は半分以下に縮小されたが、全公演つつがなく終了し、チケットは売り切れだった模様。昨年制作する予定だったリングはワルキューレのみ数回公演し、正式なプレミアは来年の予定。音楽祭が終わって一息ついている事務局もビックリするニュースが飛び込んできた。作曲家のひ孫で現総監督カタリナの異母姉であるエヴァ・ワーグナー・パスキエがイザール河でおぼれているのを発見された。救助の結果息は吹き返したが、意識不明で病院に運ばれたとの事。ドイツの大衆紙ビルドが報道した。

エヴァ・ワーグナー・パスキエはイザール河の近くに住んでいて、よく河畔を散歩していた。現在76歳の彼女は健康を害していて、何度も目の手術をして良く見えないことは知られている。だから誤って川に落ちた可能性はある。

ミュンヘン警察は日曜日に川に落ちた人が救助され、病院に収容されたことは確認している。刑事事件の捜査も行っているが、現時点では故意を示す証拠は見つかっていない。事故か自殺の可能性が高いとの事。

エヴァ・ワーグナー・パスキエはウォルフガング・ワーグナーの娘で1970年代にはウォルフガングの片腕としてバイロイト音楽祭の運営を助けていた。その後ウォルフガングが最初の妻と離婚し、エヴァの1歳年上の同僚と再婚したことをきっかけに父との関係が悪化し、バイロイトの運営から退いた。その後もオペラの仕事は続け、ロンドンのロイヤルオペラやパリのバスティーユ、エクサン・プロヴァンス音楽祭などにも関係している。

2007年にウォルフガングの2番目の妻グドゥルンが死去した後、再び関係が改善し、2008年にはエヴァと33歳年下の妹カタリナが共同で運営するという事で、従妹のニケ・ワーグナーを退けてバイロイト音楽祭の監督になった。

ところが二人の人気の最後の年2015年には関係が悪化。噂ではエヴァは祝祭歌劇場に立ち入り禁止を言い渡された。その理由は一説によれば当時の音楽監督だったティーレマンとの対立と言われている。その年リングはキリル・ペトレンコが指揮したが、「本来ならキャンセルしたいところだが、出演者や制作などの多くの人に対して申し訳ないので、公演を指揮する。」と声明を出した。インタビューにも答えないペトレンコがそんな時するのは本当に稀だった。

バイロイト音楽祭はドイツ連邦が支援する数少ない芸術団体だし、毎年オープニングに来る有名人が話題になる。だからこの一件もタブロイド紙のネタになっている。

日本もついにハイリスク地域に

デルタ株の影響でドイツも感染第4波の最中。一旦人口十万人当たりの過去7日間の感染者が一桁まで下がったのに、7月以降徐々に増えている。最近は1日あたり1万から1万5千人の新規感染者が出ていて、重症者も少しずつ増えている。

ヨーロッパでもイギリスなどコロナルールを撤廃したが、ワクチンに未接種の人を中心に感染が拡大している。現状では1日につき4万人以上が感染している。でも重症化が少ないのはワクチンのおかげ。アメリカもワクチンに反対する人が多く、接種率は頭打ちになっている。そのため新規感染者はまだ多く、15万人以上。

それに比べるとEU諸国はまだ全ての規制を撤廃していないので、そこまで新規感染者は多くない。EU諸国はドイツの3Gルールと同様の規制を設けていて、サッカーの試合やコンサートなど人の集まるイベントやレストランでの室内での食事にはワクチン接種証明、快復証明、過去48時間以内のテスト陰性証明が必要。これは政府の規定だけど、場合によってはテスト陰性の結果を認めないところもある。「感染が拡大すれば全部がロックダウンになるから、それよりはワクチン懐疑派のお客さんに制限を付け、残りの人々は通常通りの方がよほど良い。」というのは2Gのみに限定したハンブルグのバーの経営者の言葉。

日本をはじめアジア諸国は今まではコロナ対策は有効だったけど、感染力の強いデルタ株で状況は一変した。ここしばらくは新規感染者数は日本の方がドイツよりも多かったので、ついにドイツは日本をハイリスク地域に指定した。日本からドイツに入国する場合、9月5日午前0時以降はデジタル入国登録が必要。フォームはこちら。また各種証明書の提示が必要になる。

それから、ハイリスク地域から入国する人は原則10日間の隔離が必要。ただし5日目の検査で陰性が確認されたらその時点で隔離を終了できる。ただしワクチン接種が完了してから2週間以上経過している人は、隔離は免除される。

日本からドイツに来る方は、ワクチン接種と入国登録などの準備をお忘れなく。

ベルリン・コンツェルトハウス管の次期シェフ

2023/24シーズンから、現在のクリストフ・エッシェンバッハに代わってヨアナ・マルヴィッツがベルリン・コンツェルトハウス管の首席指揮者に就任する。任期は5年間。マルヴィッツは過去既に2つのプロジェクトを指揮していて、ArteとRBBで放送されている。エッシェンバッハは23/24シーズン以降は首席指揮者から退くが、客演する可能性はある。

マルヴィッツは2020年にザルツブルグ音楽祭で「コジ・ファン・トゥッテ」を指揮して注目を集めた。新制作とそれに続く全公演を女性が指揮したのは、100年のザルツブルグ音楽祭で初めて。マルヴィッツは2018−19シーズンからニュルンベルグ州立劇場の監督を務めていて、2019年には最優秀指揮者に選ばれている。

ハイデルベルグでのカペルマイスターを務めた後、マルヴィッツは2014/15シーズンからエアフルトの歌劇場のGMDに就任した。当時はヨーロッパの劇場の中での最年少のGMDだった。エアフルトではオーケストラのアカデミーを設立するとともに、エアフルト歌劇場のレジデンス作曲家を任命するプログラムを設立するなど、若手の育成に業績を残している。

最近は女性指揮者が注目を集めているが、ヨアナ・マルヴィッツはその中でも成功している。ベルリンのコンツェルトハウス管はベルリンフィル、シュターツカペレに続いてベルリンでは3番目のオーケストラとみられている。エッシェンバッハの後を継ぐのはなかなか大変だけど、頑張ってもらいたい。

コロナルール緩和による客席増

ワクチン接種率は春先はイスラエル、イギリス、アメリカの3か国が優勢だった。EUは製造したワクチンの半分は外国に輸出していたが、イギリスやアメリカはワクチンの輸出を禁止して自国優先にした。そのためEU内のワクチン供給量が不足して問題になっていた。

所が現在ではヨーロッパ諸国が盛り返し、ほとんどの国が接種率ではイスラエル、イギリス、アメリカを抜いている。現時点ではワクチンの供給量は十分だけど、ワクチンに疑問を持つ人がたくさんいてこれらの人々が感染を広げている。イギリスやアメリカは接種率の増加に従ってコロナルールを撤廃したが、EU諸国ではイベントに行くのもワクチン接種証明、快復証明、48時間以内の陰性証明が必要で、さらにテストは有料にするなど、未接種だと生活の不具合が大きくなるようなルールを設定した。これが効して接種率では先行した国を抜き去った。

そのルールが徹底化されたので、ドイツの劇場も販売できるチケット数が増えた。ドレスデンのゼンパーオーパーは当初の350人に加えて120人収容できるようになった。劇場の客席数は約1300なので、40%まで収容できる。それから休憩も可能だし、劇場内のレストランも運営できる。

ベルリンのオープンエア・イベントの「オーパー・フュア・アレ」は今年はコロナ前と同様2公演ある。歌劇場前のベーベルプラッツにスクリーンを設置して開くイベントは昨年の倍の4000人まで観客を入れることができる。公演は9月18日が「フィガロの結婚」で19日はシュターツカペレのコンサート。「ナブッコ」や「タンホイザー」の合唱とシューマンの交響曲第2番。入場は無料だけど、ネットや対面などでチケットの入手が必要。

それからバイエルン国立歌劇場は新シーズンは客席全部を利用できるようになった。バイエルン州大統領のマーカス・ゼーダーが8月31日に発表した新ルールに従ったもので、もちろん各種証明書が必要な3Gルールだけど、コロナ以前と同様にお客さんを入れられるのは劇場にとってはうれしい。ただ10月分のチケットは9月1日から発売されるはずだったのだが、チケット販売増加に対応するために数日延期になった。

以上のようにヨーロッパでは新シーズンからいよいよ本格的に再開する。日本に帰国した際の自主隔離が緩和されれば、日本からのオペラ・コンサート・ツアーも可能になる。ただしワクチン接種が完了していることが条件だけど。

フンボルトフォーラムに行ってみた

デルタ株の感染は広がっているが、ワクチン接種が広がっているので接種完了者はほぼ制限なしで行動できるようになった。ベルリンの博物館や美術館も開いているし、最近は観光客も増えている。先週の土曜日には最近オープンしたフンボルトフォーラムに行ってみた。

ベルリンの中心部の博物館島にはもともと王宮があったのだが、第2次大戦で破壊されてしまった。終戦後東ドイツ政府はこの建物を撤去して、跡地にコンサートホールやレストランが入った市民の娯楽施設として共和国宮殿を建設した。東西が統合されると共和国宮殿は閉鎖され、アスベストを使っているという理由で建物は撤去されることになった。その後に建ったのかベルリン宮殿。歴史的な外観を復元しているようで建物は風格がある。ただしその前の広場はまだ工事中。パサージュになっている部分にはレストランもあるのだが、ワクチン証明か回復証明が無いと中に入れてもらえない。

オープンしたのは7月後半で、最初の100日は入場無料。ただし展示は常設のフンボルトラボとベルリンに関する展示「ベルリン・グローバル」。さらに地下の遺構シュロッスケラー等でまだ少ない。入場制限もあるのであらかじめ入場時間を予約する必要がある。

まず1階のフンボルトラボに行った。どうやらフンボルト大学の研究成果を展示しているらしく、コンピュータ博物館にはIBMの初代のパソコンやアップルのマッキントッシュなどが展示してある。面白かったのは言語学者が集めた1930年代の各地のドイツ語の録音を集めたコーナー。現在ポーランドになっている地方やベルリン、ホッホドイツを話すニーダーザクセンなどいろいろな会話の録音が聞ける。ベルリンでもgの発音がヒと超えるし、今とは全然異なっている。フンボルトラボは小さいので30分くらいで見回ってしまった。

その後には同じく1階のベルリン・グローバルという展示。これはベルリンの街に関する展示で、入口で腕につけるベルトをもらう。その後に自分の名前や言語を登録すると、展示の前に来るとその言語で説明が表示される。ただ日本語は対応が少ないので、多くの解説が英語で表示された。

展示内容はベルリンの歴史上大きな事件や19世紀からの服装の変遷、東ベルリン時代の生活を表したものもあった。「東ベルリンの匂い」という香料が置いてあったが、とてもかび臭い。「共和国宮殿」時代の再現なのか、ミラーボールとキラキラの床でダンスができる部分もあった。ただし定員は2名のみ。

それ以外は戦争に関する展示もあり、終戦直後のベルリンのブランデンブルグ門からウンター・デン・リンデンを上空から撮った映像があった。建物は全て破壊されていて瓦礫の山で、今の状況からは想像もできない。ベルリン・グローバルはインタラクティブな展示もあり、ざっと見て回って1時間くらい。しっかり解説を読むならもっと時間がかかる。

展示はまだごく一部で、2階3階部分には9月から民俗学博物館とアジア美術館がオープンするらしい。周辺にはたくさんの博物館があるから、現時点では観光客が時間を割いてわざわざ訪ねるほどのことは無いかもしれない。今後オープンするセクション次第。

ドイツの国政選挙まであと4週間

今年はドイツではいろいろな選挙があったが、その山場が9月26日のドイツ議会の選挙。既に郵便投票は受け付けていて、選挙戦もたけなわ。そうはいっても日本のように候補者が選挙カーに乗って名前を連呼するわけではない。道端の電柱や大通りの中央分離帯には各党や地元の候補者のポスターが貼ってあるくらい。

ドイツの伝統的な選挙活動は、市の立つ広場などの人通りの多いところにテーブルと日傘を並べたような質素なブースを作り、通りかかる人に話しかけたり、政党のパンフレットを渡したりする。週末に買い物に出かけると、各政党のブースが並んでいるところに出くわしたりする。

今年の選挙は16年首相を務めたアンゲラ・メルケルが引退することを明言しているので、次の首相の座をめぐって駆け引きが繰り返されている。ドイツのテレビ局は毎週「この次の日曜日に選挙があったらどの政党に投票するか」という質問を無作為に抽出した一般市民に質問し、その推移を記録しているのだが、先週はなんとメルケル首相のCDUと連立を組むSPDが22%で、それを追う緑の党は20%と伯仲している。ドイツの場合は一つの党が過半数を取ることはまず考えられないので連立政権になるが、その組み合わせも微妙。アンケートの結果が選挙結果だとしたら、2党による連立だけでは過半数には満たない。そうなるとそれぞれ約10パーセントの支持率である左派党(Linke)か自由民主党(FDP)を連立に加える必要がある。極右のAfDも12%くらいの支持はあるが、誰も連立を組みたがらない。

現在は三つ巴の争いになっていることもあり、この三つの党が首相候補を選出している。CDUは現ノルトライン・ヴェストファーレン州大統領のアルミン・ラシェット、SPDは現財務大臣で副首相のオラフ・ショルツ、緑の党からは現代表のアナリナ・べアボックというメンバー。昨日は1回目の3候補による討論会が開かれた。先日の洪水の被害は甚大でまだ記憶に新しいし、以上気温やハリケーン・イダの被害など、環境保護には待ったなしの状況になっている。だから緑の党が好調なのだが、残念ながら代表のベアボックは今一つ支持者を掴み切れていない。それに比べるとSPDのオラフ・ショルツは実績もあるし、財務大臣として洪水被災者の支援やコロナ対策もしっかりやっていることが評価されて支持率が急伸している。

まだあと4週間あるからどうなるかはわからない。

Brexitのスローガン「グローバル・ブリテン」

先日のBrexitに関する記事の続き。ジョンソン首相がBREXIT後のイギリスは「グローバル・ブリテン」を目指すと主張している。その意味するところは明確ではないが、世界と取引をし影響力を行使できる英国のことらしい。まずその第一弾としてオーストラリアの通商条約を締結した。イギリスは日本とも条約を結んだが、これはほとんど日本とEUの通商条約をコピーなので新たな条約とは言えない。EUとオーストラリアは条約が無く、イギリスが締結した条約は「グローバル・ブリテン」の最初の一歩だ。ただしオーストラリアとの貿易はEUとの貿易量とは比べ物にならないし、オーストラリア産の牛肉のイギリスへの輸出が容易になり、イギリスの農家を厳しい競争にさらす。だからBrexitで打撃を受けている農業に対する追い打ちになりかねない。今後ニュージーランドや南米諸国などの通商条約もオーストリアとの条約が基本になる可能性があり、農業関係者は不満が大きい。

それでは政治的な影響はどうか。アフガニスタン情勢に関して国会で詰め寄られたジョンソン首相は、「アメリカが主導してきたアフガニスタン戦争をアメリカの戦力無しで戦う事は不可能で、アメリカが撤退する以上イギリスも撤退する以外に手段が無い」とはっきり説明している。ジョンソン首相はG7のバーチャル会議を開いてアメリカに撤退期限延長を依頼したが、バイデン大統領はそれを拒否。「グローバル・ブリテン」なんて言っても、結局何もできないことが露見してしまった。

EUを代表してBrexitの交渉をしたフランス人のバルニエ交渉官は、「ドイツはEUのメンバーでEUのルールを守っているが世界でからは注目されている。イギリスだってEUのメンバーであってもグローバルになれないはずはない。『グローバル・ブリテン』なんてBrexit派の意味の無いスローガンだ。」と言っている。

実際アフガニスタンの対応ではイギリス政府のドタバタが際立っている。タリバーンがカブールを掌握した時には首相と外相並びに対応省庁の首席官僚3人が休暇中で緊急対応ができなかった。特にクレタ島での休暇中だった外相は事前にアフガニスタン外相からの緊急連絡があったのに休暇を理由に受けなかったし、政府の緊急対策会議にも帰国が間に合わなかった。外務大臣不在の間は防衛大臣が中心になってアフガン在住英国人の脱出を進めたが、まず大使館員を隣国に脱出させたので、イギリスのために働いたアフガン人が査証を求めても対応できる人がいなくなった。いくら何でも緊急派兵された一兵卒に査証の発行は任せらせない。そこでいったん退避した大使館職員を再びカブールの空港に戻し、ここで査証の発行手続きを行った。現在はイギリスもドイツも撤退作業は終了し、アメリカが31日まで継続する。

ドイツだってカブール陥落は寝耳に水で、失敗はたくさんあった。それでもこの1週間で何人ものアフガニスタン人をドイツ国内に入国させているし、4万人規模の難民を受け入れるとしている。ドイツのマース外相は事態の安定を図るためにまずトルコ外相にカブールの空港の再建について話し合っているし、明日からアフガニスタンの隣国であるタジキスタン、ウズベキスタン、パキスタン、カタールを訪問して難民の援助を要請する。一方イギリスのラーブ外相は休暇を切り上げなかったことに対して批判が噴出していて厳しい状況だ。「グローバル・ブリテン」の掛け声だけでは実現は難しい。

劇場支配人の手腕

8月も後半に入り、いよいよ各地の劇場で新シーズンが始まる。イタリアの歌劇場は伝統的にシーズンは12月始まりだけど、夏休み明けの公演は大切だ。今年は特にコロナ危機でお客さんを入れた公演ができなかったから、芸術団体は気合が入っている。

アダム・フィッシャーは8月28日から始まるフィレンツェ歌劇場の「コジ・ファン・トゥッテ」が夏休み明けの最初の仕事。それを前に電話で話したらとても機嫌が良い。なにしろ前回オペラを指揮したのは2019年11月から12月のハンブルグでの「ドン・ジョバンニ」だから、20か月ぶり。プロになってからそんなことは経験がないから、この公演があって良かったと喜んでいた。でも夏に今年の予定を聞いたときにはフィレンツェの事は何も言っていなかったのに。

A「メータがキャンセルしたから。このプロダクションは4月にメータの指揮でリハーサルをやっていて、ゲネプロをストリーミング放送した物なんだ。メータの指揮で夏休み明けにお客さんを入れて上演するはずだったんだけど、病気で指揮できなくなっちゃったんだよ。だからリハーサルも短くて2日しかなかった。」

他人のプロダクションをわずかなリハーサルで引き受けるのはリスクも高く、実力と経験が無いと務まらない。でもその割には「代役指揮者」のイメージがつくから名声を気にする「スター指揮者」はやりたがらない。アダム・フィッシャーは人が良いので頻繁に駆り出されるが、劇場支配人にしてみるとこういう人はありがたい。有名歌手が出演する良い劇場は、伴奏する指揮者がしっかりしていることが条件で、急なキャンセルでもレベルが下がらないという事は劇場にとって大切な事なのだ。ただそれを実行するのは簡単ではない。

A「フィレンツェは先ず僕のエージェントに連絡してきたんだけど、エージェントは無理だと断ったんだよね。だって9月の初めからハンブルグで『後宮からの誘拐』のリハーサルが始まるし、6日のエネスク音楽祭のリハーサルがバーゼルであるから。でもペレイラ支配人は僕が知らないうちにバーゼルに連絡してリハーサルを短くし、ハンブルグのリハーサルも欠席の許可を取って来たんだよね。本来ならフィレンツェの公演最終公演は9月5日だったんだけど、バーゼルでのリハーサルに間に合うように全公演を2日前倒しにして。だからリハーサルの期間が短くなっちゃった。そこまでして呼んでくれるのはありがたいけど。」

この「コジ・ファン・トゥッテ」はコロナ明けで注目の公演だし、トーマス・ハンプソンが初めてドン・アルフォンソ役を歌う。有名な作品だから指揮できる他の指揮者を探すのは難しくないだろうが、歌手から信頼されていないとキャストがキャンセルすることも有るので、なんとしても実績のあるアダムに頼みたかったのか。それにしてもこれだけの事を短期間にアレンジできる交渉力と決断力はすごい。だからこそスイスの中規模の劇場であるチューリッヒオペラを、トップレベルの歌手が出演する一流劇場に伸し上げたのだろう。

A「ペレイラ支配人は意思を通すためには何でもやるからね。チューリッヒとニューヨークの移動にコンコルドまで手配したものね。他の支配人はそこまでやらないよ。」

バッティストーニと東フィルがオープスクラシックを受賞

オープス・クラシック2021の受賞者が発表された。オープス・クラシックは優秀な作品を残したクラシックの音楽家や団体などを表彰するドイツの音楽賞。レコード会社などがノミネートする作品を9人の審査員が審査して決定する。審査員はコンサートホールの支配人やクラシック・レーベルの代表、音楽ジャーナリスト、ドイツのテレビ局ZDFの役員、楽譜出版社などで構成されている。ドイツ国内で発売された録音作品が審査の対象になる。

もともとはポップス部門も含めたエコー賞だったのだが、2018年のポップスの選考をめぐって辞退する人が続出し、クラシック専門の賞として2018年秋から始まった。毎年10月にベルリンのコンツェルトハウスで授賞式があり、ZDFがテレビで放送する。アダム・フィッシャーは2019年にデュッセルドルフ響とのマーラー3番、2020年にはデンマーク室内管のベートーベン交響曲全集が「管弦楽演奏、19世紀作品」部門、カウフマンを伴奏したアルバム「ウィーン」が「ボーダーレスなクラシック音楽」部門で受賞している。

今年はアダムの受賞は無かったけど、最優秀歌手にソニア・ヨンチェーヴァやビオトル・ベチャワなど有名音楽家が選ばれている。アダム・フィッシャーが指揮したスカラ座の「魔笛」でデビューしたエジプト人ソプラノ、ファトマ・サイードが新人賞に選ばれている。

録音を対象にした賞だから日本の団体が受賞しても不思議はないのだが、今回はアンドレア・バッティストーニと東京フィルハーモニーが「管弦楽演奏、20−21世紀作品」で受賞している。過去にはパーヴォ・ヤルヴィとN響の録音がノミネートされていたのは気づいたのだが、東フィルが受賞。ただどの録音が対象になったのかは該当サイトには書いていないのでわからない。

日本のオーケストラはドイツ国内では知名度が低いのだけれど、東京フィルハーモニーもこれで少しはドイツ国内の認知度が上がるかも。

Brexitのスローガン「主権を取り戻す」

今までイギリスのEU離脱について何度も書いたので、約8か月経った現状も紹介しておこう。離脱してもノルウェーやスイスのように関税同盟に加盟し、統一市場にアクセスする方法もあった。ところがジョンソン首相はEUの影響わ極力排除するHard Brexitを選択した。昨年末の合意で物品に対する関税は無くなったが、EUへの輸出にはいろいろなチェックや書類が必要になり、手続きが煩雑になった。そのため新鮮さが命の漁業はEUに輸出できなくて大打撃を受けた。また金融などのサービス産業は合意には含まれていないので、無秩序な離脱になった。それもあって高収入の銀行家の多くがフランクフルトやパリに拠点を移してしまった。それから音楽家がツアーができないと嘆いている話は何度も紹介した。

EUは人の移動の自由が条件で、ポーランドやチェコなどの旧東欧諸国からイギリスにたくさんの人がやって来た。ジョンソン首相は「主権を取り戻す」をスローガンにしてEU離脱を推進し、特にEUの移民を規制する事を重視していた。離脱後はポイントベースの移民審査を導入し、EUでもインドや日本などと同様に審査する。だから高技能労働者と認められないとほとんど難しくなった。

移行期間が過ぎて8か月経ち何が起きたかといえば、スーパーでは商品不足で空の棚が目立ち、マクドナルドでさえもミルクシェークが品薄で販売できない状況。ケンタッキー・フライドチキンも一部商品はパッケージを変更するなど品不足に嘆いているし、クリスマス・ディナーの定番の七面鳥も品薄になる可能性があるとか。

なぜそのような状況になったかと言うと、まず第一にトラックの運転手不足。離脱したので国境では書類や配送物のチェックがある。トラックの業者は移動距離により賃金が払われるから、チェックの待ち時間は無給になってしまう。だからイギリスへの輸送を断るEUのドライバーも多い。またイギリスはコロナ危機でトラック免許の講習ができず、運転手の数は増えていない。さらに今までイギリスで働いていたEUの運転手も、厳しい移民政策で労働許可が難しくなったから多くが帰国してしまった。

それから精肉工場は賃金の低いEU労働者を雇っていたが、「主権を取り戻す」移民政策で雇えなくなり、人不足が深刻だ。だから業界は精肉技術者を高い技術をもつ職種に指定しろとロビー活動をしている。高技術者というのはソフトウェア開発や大学の教授で、肉やは普通なら対象外なんだけど。当面の緊急の対策として、刑務所の服役囚に鶏肉の解体とパッケージングを手伝わせるらしい。EU離脱に投票した人は、まさかそんな状況になるとは思ってもみなかったろう。

その他農業関係も秋の実りを人手不足で収穫できないところが多いし、パブやホテルなどでもEUからの低賃金労働者が不足している。もちろんEU離脱とコロナのどちらが原因かは特定できないけれど、「主権を取り戻す」と言ってもイギリス人だけでは今までのような生活はできない。その結果単純労働者の給料が上がり、企業はそれを製品に転嫁しなければならないから物価が値上がりする。
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アメリカに8年在住後、20年前にドイツに移住。指揮者アダム・フィッシャーのファンクラブ会長で追っかけ歴は30年。E-Mailはfanclub@haydnphil.orgまでどうぞ。

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