昨日に続いてモネ劇場の「ルサルカ」について。全ての公演が終了したのでネタバレも良いでしょう。

ルサルカの始まりまず冒頭からして普通と違う。開演時間になり客席が暗くなると、指揮者が登場する前に幕が開いて物語が始まる。舞台はブリュッセルのどこか。カフェや地下鉄の入り口、アパート、シャッターの下りた店などが見える。地下鉄の入り口では老婆がバラの花を売っている。地下鉄から出てきて足早に家路を急ぐ人もいれば、ヴァイオリンケースをもって道に迷ってしまったらしい少女もいる。雨の中で買い物袋を道に落とし、あわててひろうカップルもいる。典型的な日常の風景。一旦人通りは途絶えるか、また同じ情景が繰り返される。だから見ている方は不思議な気分になる。

通行人のシークエンスが3度繰り返されると、地下鉄の入り口から冴えない中年の男が出てくる。この男は花売りの老婆にバラの花を売りつけられる。最初は断るが、向かいのアパートの2階から妻が見ているのに気づき、その花を買う。そこに3人の娼婦がやって来て、男を誘惑する。それを見た妻は怒り部屋にもどる。男は娼婦たちを振り払い、アパートのドアを開けようとするが、カギを暗闇に落としてしまう。

ここまで10分近く雨の音と街の雑音のみ。男かカギを探そうとするとスーッと雑音が止んで静寂が訪れ、ゆっくりと音楽が始まる。舞台に大きな動きは無いのだけれど、幻想の世界に引き込まれるような感じで背中がゾクゾクした。

この男ヴォドニクは娼婦ルサルカを愛しセックスがしたいのだ。男の幻想の世界はグロテスクな娼婦がたくさん出てきて、ショーウインドウてはセックス人形が踊ったりする。朝になると同じ風景も微妙にことなる。舞台の左手前にあるカフェの名前は幻想ではルナティックだったけれど実際はソラリスだし、セックスショップだと思っていた店はウエディング・ドレス・ショップだったりする。そこに水兵姿の王子がやってくるのだが、これはヴォドニクの若かりし頃。王子はウエディングドレス姿のルサルカを見て恋におちる。ルサルカを抱きしめて歌うのだか、いつの間にかマネキン人形にすりかわってしまう。

第2幕の冒頭は街の人々が王子とルサルカの結婚と外国の王女について噂する場面。さらにその後王子と外国の王女のやり取りになる。この場面ではヴォドニクの出番は無いのだか、この物語はヴォドニクの幻想だから、彼は最初から最後まで殆ど舞台の上にいる。

第2幕のポロネーズパーティーの場面で演奏されるポロネーズては街の人々の仮装行列。これは男の幻想ではなく現実世界なんだろうけど、男はポセイドンの格好をさせられるし、住人たちは海の魔物の姿をしている。そのうち王子と外国の王女が出てきて劇場のカイザー・ロージェに座るし、反対側にはトランペット隊もやって来る。さらにルサルカもクイーンとして車に乗ってててくるが、話せないから口に花をくわえている。皆に苛められるかわいそうなシーンなのだが、すぐ近くで「ヘッヘッヘ」と笑い声がする。ここは笑う場面ではないだろうとその方向を見ると、なんと魔女ジェシババや悪魔などが平土間の通路を歩いている。私は通路沿いの席だったので、悪魔に頭をなでられた。上からは紙吹雪が降ってくるし、なんだかファッシングのパレートを見ているみたいだ。

ルサルカ第2幕より第3幕になると男は現実世界と幻想世界の区別がつかなくなる。そのうち教会からシスターの格好をした娼婦たちが出てきて、ルサルカを刺して水槽に放り込む。同時進行の現実世界では男はナイフで自分の妻(外国の王女)を刺し殺してしまう。その後で男はルサルカを助けようと水槽を壊すのだが、このシーンが凄い。男が斧を振りかざすとパンという音がして破片が飛び散ると、床から半透明な幕が幕が出てきて水の映像が投影される。さらにその後ろから3人の妖精たちが宙ずりになって泳いでいく。

ラストシーンは現実世界にもとる。男のアパートの前には警官や野次馬が集まっている。ヴォドニクは殺人犯として連行され、ルサルカはヴォドニクの妻の死体に花をささげ、次の男を誘って幕となる。

普通読み替え演出を見ると、「これは一体何を意味するのだ」と謎解き風の見方をしてしまうのだが、この演出はそれを考える余裕は無かった。とにかく色々なことが起きるので、一部どうだったか記憶に無いぶぶんもある。だんだんヴォドニクに同化して、「ひょっとすると劇場で見ている自分は幻想で、気がついたらまだ電車に乗っているんじゃないだろうか」とすら思った。その原因の一つは音楽が効果的だったからたと思うけれど、頭が飽和状態でなんともコメントできない。歌手は悪くは無かったけれど、千秋楽直前で少々気が抜けていた部分はあったかもしれない。

この演出はドボルザークの作品を借りた別のストーリーだから、人魚姫のメルヘンを期待して観に来たらビックリして怒るだろう。でもサイコ・スリラーとしては素はらしいし、劇場の技術を駆使した作品なので、それを観るだけでも価値があると思う。もし再演されたら絶対お勧め。