固体物質は身の回りに溢れています。特に、無機物には固体状態であるものが多く、チョークやコンクリート、硬貨等の金属製物質、磁石等がそれに当たります。今回はそれらの電子分布状態について述べたいと思います。

原子軌道の重なりと金属の例
原子がs軌道(s orbital)を持ち、その原子が1本の紐のように繋がって新たな軌道を作るとします。

※軌道については以前書いた記事「原子核の周りの電子」をご覧下さい。

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Nは原子の数を表します。2つのs軌道が重なれば、結合性軌道と反結合性軌道の2つの軌道ができます。3つのs軌道が重なれば、下から結合性軌道、非結合性軌道、反結合性軌道の3つの軌道ができます。

このように、重なるs軌道の数と作られる軌道の数は等しくなります。さらにs軌道が重なっていくと、作られる軌道が占めるエネルギーの範囲が広がっていき、sバンド(s band)ができます。このバンドはある有限の幅を持ちます。

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p軌道(p orbital)が繋がっていきバンドが作られた場合、それはpバンド(p band)と言います。pバンドはsバンドよりもエネルギー的に高い位置にあると考えられますが、場合によってはsバンドとpバンドがくっついていたり、重なっていることもあります。

2つのバンドがくっついたり重なったりしていない場合、2つのバンドの間には電子が存在できる軌道が無いため、電子は存在できません。このように軌道が存在しない範囲はバンドギャップ(band gap)と呼ばれます。

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ナトリウム(Na)等のアルカリ金属のようにs軌道に1つの電子を持つ原子N個がsバンドを作った場合、N個の新たな軌道によりバンドは作られます。1つ軌道には2つの電子が入るので、sバンドには最大で2N個の電子が入れます。

しかしs軌道に1つの電子しか持たないため、エネルギーの低い軌道から順に電子を入れていくとsバンドの半分までしか電子は埋まりません。このように電子に占有されたHOMOをフェルミ準位(Fermi level)と言います。

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マグネシウム(Mg)等のアルカリ土類金属の場合はsバンドとpバンドの重なりがあるのでs軌道に2個の電子を持っていてもバンドが埋まることはありません。

半導体
半導体(semiconductor)や絶縁体(insulator)のフェルミ準位はバンドの中ではなくバンドギャップの中に存在しています。

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砒化ガリウム(GaAs, gallium arsenide)や酸化チタン(TiO2, titanium oxide)、ケイ素(Si, silicon)等が半導体に属します。これらは有効核電荷が大きいため、原子価軌道が集中して大きく重なって共有結合を作ります。そのため結合性軌道である価電子帯(valence band, VB)と反結合性軌道である伝導帯(conduction band, CB)が分離してバンドギャップを持つようになります。

絶対零度では価電子帯は電子で完全に満たされていますが、一方で伝導帯は完全に空の状態です。

不純物を含まない真性半導体の場合は、価電子帯と伝導帯の間にあるバンドギャップの中央がフェルミ準位となります。

絶縁体
絶縁体はバンドギャップが比較的大きいものが属します。

非常に簡単に説明しましたが、ここらへんの内容は私の研究している光触媒(photocatalyst)とも関連しており、重要な内容でもあります。電気伝導性については次回に述べようと思います。