作家・森村誠一氏が、東京新聞夕刊に連載していた「この道」が終わった。いずれ本になるのであろう。 その83回目には次のようなことが記されている。
『戦後70年にして、国会議員の多くが改憲を主張し、国民の一定数が戦争可能国家システムに傾いている。永久不戦の誓いが70年にして理不尽な時代に戻りつつある。戦争を知らない世代が増えているだけでなく、全国民が騙されているのではないか。
 (中略)圧倒的多数の人間が生死いずれでも命と人生を奪われた時代へ、引き戻されつつある。
憲法、とくに九条は、人間性を護る守護神である。これを閣議だけで変えてしまおうとする政権が、どんな暴権であろうか。新年の天皇のお言葉も耳に届かぬようであれば、もはや政権ではなく兇権である。
 戦争による学習を忘れた者は、「この道」を完成できない。』
 ここで森村氏は、角川GHの角川歴彦会長から聞いた話として、太平洋開戦時、真珠湾奇襲とあわせてシンガポールの占領の時に、植物園と博物館を護るために、交戦中の日中英と現地の人々が結束したエピソードを記す。
 それ以前には、職業作家としての視点から下記のような、業界の法則的な話を書いていた52回「読者の段差」では、 『2〜3万部まではおおむね愛読者、10万部あたりまでは評判に乗って買う一過性読者、10万部を越えると(この作者はまだ読んだことがないが、評判なので、買ってみよう)という浮動票的読者、そして50万部を超えると(この作者は嫌いだけど、敵の手の内を知りたい)という反対読者。そして百万部を超えるとなると、プレゼントに使う贈答読者、二百万部を超えるとなると流行に遅れまいとする社会現象読者などに区分される。
 だが、ミリオンセラーは作品の内容よりも、気流の有無によって達成される。作品の内容ももちろん重要であるが、運(ラック)が大きくものをいう。作者の死後、作品が上昇気流に乗ることもある。それも一度ではなく何度でも。
 気流に乗っているとき、編集者が言った言葉がある。「小説を書くと思うな、文字を書け」。
 そのときはびっくりしたが、売れているときは文字を書いても売れた。だが、気流に乗った文字は、気流から降りたあとも輝いて見えた。』
 それが、連載の終了間際には、世間話的なことを交えながら、憲法九条の存在の重要性を説くものになっている。
関連情報=森村誠一氏と防弾チョッキ