最近、脚光を浴びている仕事にスピーチライターという業種がある。政治家や企業経営者などが、公式の場で話す内容の原稿を代理作成する専門職のことである。近年、アメリカのオバマ大統領のスタッフであるジョン・ファブロー氏や、安倍晋三内閣総理大臣の側近、谷口智彦氏がスピーチライターとして活動していることが知られている。
  いま話題の米国大統領選擧では、共和党のドナルド・トランプ氏の妻、メラニア夫人が共和党の全国大会で行った演説に盗用疑惑が持ち上がり、トランプ陣営のスピーチライター、メレディス・マクアイバー氏がそれを事実上認め、謝罪した。原稿を作成している過程で、メラニア氏が電話で参考例としてミシェル氏のスピーチを読み上げ、マクアイバー氏が書き留めたものが最終稿まで残ってしまったという、いうのがその言い分だ。
  ここでわかるのは、スピーチライターは短時間の電話で、依頼人からのスピーチの文言を作成しなければならないという、即応性を求められるという側面が明らかになったと言える。
 日本では、職業としてのスピーチライタの存在は、まだそれほど知られていない。それでも、企業の経営者や会社役員たちが、社員や部下の結婚式での挨拶スピーチ用などに、その制作を依頼する事例があるというのが、個人のフリーランス・スピーチライターの近藤圭太氏である《近藤圭太事務所サイト》。
  「日本でスピーチライターを専門職と受け取られるようになったきっかけというものがあるとすれば原田マハさんの小説『本日は、お日柄もよく』(徳間書店)だと思います。これは、2009年の政権交代時の衆院選の時代背景にして、当時は「スピーチライター」という耳慣れない仕事を素材にしたものです。主人公は、イベントや披露宴、選挙選にいたるまで幅広く、スピーチの原稿作成にとどまらず、コピーライティングやブランディングも担当する「スピーチライター」(スピーチコンサルタント)として、名前も『こと葉』としているところが、文学的なところでしょう。」という。
  近藤圭太氏は、2009年からスピーチライターとして活動しており、「実績としては冠婚葬祭のあいさつ文作成が多く、大学での記念講演(経営者)、ロータリークラブでのスピーチ(士業)、立会演説会での応援演説(後援会会長)、出版記念パーティでのあいさつ(経営者)などの実績」もある。
  現在のこの仕事では、国会の大臣がしているような、官僚の作った「原稿を読む」形ではなく、「普通の話し言葉」に近いスタイルで行うスピーチを「パブリックスピーチ」という方向が社会的に受け入れられているようだ。
  そして、「スピーチライターという職業が、どのような形で発展を遂げていくのか、その展開を視野にいれて時代性を反映することが求められるでしょう」とも。
  また、「人に原稿を書いてもらうのは、どうか?」と疑問を持つ人には「歴史上の人物が残した有名なスピーチやメッセージの多くは、「文章の専門家」が作成したもの。太平洋戦争の終結に当たって、昭和天皇がラジオで終戦の詔勅を朗読され『玉音放送』ですが、原案を起草したのは官僚であり、内閣の各大臣が陛下の意に沿う形で文章を修正して奏上し、最終的には陛下ご自身も文章に手を加えられ完成しています。普段から「自分ならこうする」という見識を持ち、「最後は自らが責任を負う」との勇気と覚悟を持った人であれば、たとえ文章そのものを専門家に考えてもらったとしても「自らのメッセージ」としての説得力を持つことができるでしょう。」と、している。そして、この仕事のスキルを身に着けたいとする若者からの問い合わせもあるという。
  本欄では、日本の若者の働き方が、中小企業や個人でスキルを磨き、フリーランスの個人開業の道を選ぶ人たちの実情を報じたことがある。《参照:フリーランスの働き方(3)技能は自分で身につけた
 実際、事業経営者のなかには、仕事の発注先から、単価の切り下げを求められたときに、社員の現場係が、自社の強みを強調し、その得意先の不得意な面を如何に、下請けとして補完しているかを強調する説明をして、単価切り下げを断念させた実績をみてその社員を、総務部の渉外係に配置転換した事例がある。こうした場合の対応にスピーチライターの活用も考えておくことも、必要であろう。
《参照:近藤圭太「ことばの力」ひろば