P5200003<覚醒11キロの密輸事件の警察の犯罪助長・創出型捜査違法裁判の傍聴の実態を語るジャーナリストの寺澤有氏。2017年5月20日。《参照:なぜ寺澤有氏がヒーローなのか!「国境なき記者団」が選ぶ100人》>
 共謀罪が成立した現代において、捜査権限を拡大した警察・司法は現実にはどのように、それを運用するのか。ジャーナリストの寺澤有氏は、「共謀罪における人権侵害、憲法違反捜査に類することは、すでに行われてきており、共謀罪の成立は、その違法性を問われないために、正当化するためのもの」と語る。
 その一例として、次の事件の捜査過程があるという。これはメディアにもニュースになった。
【タイから覚醒剤7億円相当密輸 容疑の暴力団組員ら3人逮捕】
タイから覚醒剤約11キロ(末端価格7億7千万円相当)を密輸したとして、警視庁組織犯罪対策5課は覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの疑いで、横浜市戸塚区平戸、指定暴力団稲川会系組員、北村景応(51)と南区白妙町、無職、片山徳男(67)ら3容疑者を逮捕した。組対5課によると、いずれも容疑を否認している。
 逮捕容疑は4月14日、タイから覚醒剤を隠したキャリーケース1個を片山容疑者の妻ら女3人=同法違反罪などで起訴=に羽田空港に持ち込ませ、密輸したとしている。
 組対5課は、関係先から覚醒剤約100グラムや大麻約12グラム、合成麻薬MDMAとみられる錠剤のほか、拳銃とみられる銃2丁を押収。鑑定を進めている。
 タイ警察からの情報提供を受け、東京税関が片山容疑者の妻らの荷物を調べたところ、覚醒剤が見つかり、3人を同法違反などの疑いで現行犯逮捕。片山容疑者らが3人を空港に車で迎えに来ていたことなどから、関与を調べていた。(産経新聞2014年11月13日付け記事)
    この事件の裁判で問題になったのが、いわゆるおとり捜査による警察の犯罪を助長する対応であったーーとするのが、弁護を担当した土居信一郎弁護士と石田拡時弁護士である。寺澤氏は「国選弁護士であるふたり、非常に頑張っている」とその弁護ぶりを評価する。
   弁護人から見た事件の表面的な概要は、片山被告人がタイ人Aから、日本の横浜のタイ人犯罪グループへ届けるため、タイにある覚せい剤11キロの輸入を頼まれた。これを引き受けて、共犯者たちがタイへ行って、現地のタイ人Bから覚せい剤を受け取り、平成26年4月14日、これを日本に輸入した事件となる。
   ところが、これを検察官の主張からすると、片山被告人は自ら日本国内で覚醒剤11キロの調達を依頼した。その後、タイへ赴いた共犯者たちが、タイ人Bから覚せい剤11キロを受け取り、平成26年4月14日、これを日本に輸入した。ーーという事件なのである。
   この見解の違いは、弁護人が片山被告はもともと積極的に覚せい剤を輸入する意思はなかった。タイ人Aから覚せい剤の運搬を執拗に頼まれて、しかたなく承諾したのである。一方、Aから密告を受けたタイ警察は、それを日本の捜査機関に知らせ、日本側の指示により、わざと輸入をさせて日本で摘発させることにした。そこに違法な「おとり捜査」の運用による犯罪を助長される運用があったのでないか、というところである。
  ジャーナリストの林克明氏は、この事件の一部を傍聴し、次のように説明している。
  「今年3月10日、覚醒密輸約11キロを密輸したとして逮捕・起訴された片山徳男被告の裁判で、東京地裁は懲役17年・罰金800万円の判決を言い渡した(元暴力団組員の片山徳男被告(69)が、2014年4月に自分の妻とその友人らを運び屋として、営利目的で密輸したなどとして起訴された事件)。
  国会の最大の焦点は「共謀罪」だが、この覚醒時代密輸事件を探っていくと“共謀罪時代”の警察捜査手法や裁判における問題点が浮かび上がってくる。
 2014年3月28日までに、タイ人Aは、タイから日本へ覚醒剤密輸計画があることをタイ警察に密告した。そこでタイ警察は日本の警察に知らせ、日本警察とタイ警察が連携して、わざと輸入させて日本で摘発することにした。
 覚せい剤はタイから密輸されたのだが、現地の運び屋タイ人Bが11キロの覚醒剤を所持していたものの、犯意を失ってブツをホテルに置いたまま逃げてしまった。そこに来たタイ警察が覚醒剤を押収して10日間警察が保留した。密輸に失敗したのだから、事件はこの時点で終わったのである。
 ところが、タイの捜査官が逃げた運び屋Bを装って、片山被告の共犯者が滞在するホテルまで11キロの覚醒剤を届け、日本に運ばせた。つまり、いったんゼロになったところから、警察官が運び屋となって犯罪を作り上げた。
【「匿名証人=自称警察官」の恐ろしさ】
  このような、泳がせ捜査が違法かどうかが裁判の争点だった。しかし、もう一つ重大なのは、この裁判では匿名証人が認められ、警察官と称する男が証人尋問で調べを受けたことだ。
 匿名だから裁判長は、「検察がいう本人に間違いないですね」という旨をひとつ質問しただけですんだ。厳重な衝立により証人の全身は隠され、姿も見えない。
  被告人も、弁護人も、傍聴者も、裁判官も、誰もその人物の素性を知らない。だから“自称警察官”としか言いようがないのだ。この“名無しの権平証人”は極めて危険ではないだろうか。
  実は2016年5月の国会で「刑事訴訟法の一部を改正する法律」が成立した。その中身は盗聴の大幅拡大、司法取引導入など様々な問題がある。いま議論されている共謀罪の橋渡しとなる警察捜査フリーハンド法といっていいシロモノだ。
  このときに匿名証人が認められるようになったのである。弁護人にすら素性を知らせなくてもいいのだから、今回の裁判のように捜査官が匿名証人として出廷したり、警察協力者(司法取引に応じた人など)が素性を全くしられずに出ることも可能になったわけだ。
 おそらく改正施行後の「匿名証人第一号」が、今回の覚醒剤密輸事件の裁判だろう。これまで述べたような捜査手法や裁判が常態化したところに共謀罪が成立すればどうなるのだろうか。
 警察の不祥事等を長年追及してきたジャーナリストの寺澤有氏に話してもらった。」
基調講演動画【寺澤有氏】共謀罪と警察が作り出した覚醒剤11キロ密輸事件(YOU TUBE 2017.05.20)  
質疑応答動画【林克明・寺澤有氏】共謀罪と警察が作り出した覚醒剤11キロ密輸事件(YOU TUBE 2017.05.20)